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第一話 口封じ

(視点がシン=クラドに戻ります)


 魔物の大発生を止めるため、俺とアリアは聖女の力を借り、ボス『オーガ・ロード』を倒した。

 聖女も支援魔法は唱えてくれたようだが、片を付けたのは現代文明の武器である。

  

 その話は、一部始終を目撃した冒険者によってあっという間にカンデラの街全員にもたらされたのだった。


 従って現在、俺とアリアの銀河宇宙同盟軍第八八航宙艦隊伝令班はのっぴきならない状態になっている。

 

 非常事態だ。


 と言うのも、俺とアリアはオーガとの戦闘に集中していたため、周囲に目撃者がいるということさえ気づいていなかったのだ。

 

 ややこしい問題は色々あるのだが、その一番の問題は――

 

 現地人に『現代武器の使用』を目撃されてしまっている、ということだ。

 

 これは原始文明への干渉と接触を禁じた『宇宙保護条約』に抵触しまくりである。

 明確な法令違反である。



 口封じが必要だ。




「……チッ」


 面倒なことになってしまったと俺は舌打ちをした。


「これで、査問委員会からの質問攻めは間違いないわね……銀河同盟の勢力圏に戻れたらの話だけど」


 アリアも力なく言う。

 士官学校を首席で卒業した彼女にとっては初の失点であろう。

 ひょっとすると法律を破ったのは生まれて初めてのことかもしれない。

 

 ファラド村ではブライ達にレーザーを見られているが「この武器のことは内緒で」と言えば、「もちろんです! 息子の命の恩人となれば、たとえそれが犯罪であろうと目をつむりますとも!」などと簡単だったわけだが。

 

 このカンデラ街ではそうはいかない。

 俺とアリアはこの街の冒険者の一員というだけの立場で、他の冒険者がこちらに従う義理も無い。

 しかも今回はやたらと大勢に知られてしまったのだ。

 

「AI、この街全員の記憶をリセットする方法は何かないか?」


 俺は自分で考えるのに万策尽きて、現代文明の心強い相棒、機械知性を頼ることにする。

 そうとも、生物には限界があるが機械ならば無限ッ!


「ありません。機密保持を最優先するなら、サクッとヤるべきかと」


「――おい。今、機械らしからぬ言葉が出てきたぞ?」


「私の辞書に登録されている、原文ママの俗語です。AIの倫理規定により、その辺りについての明確な回答は出せません」


「……まあそうだろうな。そんな答えを出されても凄く困るわけだが」


「当然よ、いくら原始人であろうと皆殺しとか論外だわ」


 アリアも当然、ムッとした表情で腕組みをする。

 

「あの、よろしいですかな」


「あー、ちょっと今、内輪で込み入った話をしているのでー」


 そこは遠慮しろよと。

 先ほどからこちらに聞き耳を立てている中年親父――プラーク司祭がとっても邪魔くさいが、いちいち相手にしていられない。

 ナノマシン・タイプXのせいで、面倒なことにAIの声は翻訳されずとも、俺とアリアの声は勝手に現地人に翻訳されてしまうのだ。

 

「いえ、その込み入ったお話のことで。もしもお二方のご活躍を内緒にしたいとのことであれば、私に良い知恵がございますよ」


「ふうん? どんな?」


「こうされてはいかがでしょう? ここに南方からはるばる足を運ばれた『聖女様』がおられます。闇の悪鬼はすべて聖女様のお力によって倒された……ということにしては?」


「悪くないわね。そうよ! 全部魔法にしちゃえばいいのよ!」


 アリアがプラークの考えに飛びついた。


「ええ? レーザーが光の矢の魔法で、スタングレネードが閃光魔法ってところか?」


「ほほう、やはり魔法ではございませんでしたか」


 ニヤリ、とプラークが人の悪い笑みを浮かべるが、オマエ、あんまり変なところに首を突っ込んでると本当にサクッとヤっちまうぞ?

 

「どうして魔法で無いと――ああ、魔法使いって、魔力の波動を感じられるのよね……」


 アリアが問いかけて、自分で答えを口にしてしまった。

 そこはもっと上手くごまかしてくれないと。

 

 なので、俺は粘っておくことにする。

 

「特殊な魔法だ。一部の人間しか知らないヤツだ」


「ええ?」


 アリアがそのあからさまな俺の嘘に対して、それはどうなのと言わんばかりに怪訝な顔をした。

 だが、遙かに進んだ科学など、理解できない人間にとっては、魔法と同じに見えると言うからな。


「ほほう、ちなみに、師の名は?」


「それは言えるわけ無いだろう。絶対、秘密なんだ」


 俺は目を閉じ、腕を組み、頑として何も喋らない――そんな風な雰囲気を全力で醸し出す。


「分かりました。それでは問わぬことに致しましょう。聖女様もそれでよろしいですかな?」


「ええ、もちろん」


 上手く切り抜けたようだ。たぶん。

 白衣に身を包んだ聖女様が笑顔で頷いたが、細々としたところは部下に任せるタイプなのだろう。

 と言っても、この二人、最初からプラーク司祭が色々と仕切ってる感じなんだけど。

 

「では、ここに先に訪ねてきて正解でしたな。ギルドへの説明はそのように」


 プラーク司祭が(うやうや)しく一礼して話を打ち切った。


「そういえば、俺達もギルドマスターに呼ばれてたな。行くか」


「ええ。ネリーはどうしようかしら?」


 アリアが気にしたが。


「別にそろって無くてもいいんじゃないか? 形だけのパーティーなんだし」


「そうね。あっ、ネリー」


 ちょうどネリーが宿のロビーに顔を見せたところだったが、今のやりとりを部分的に聞いたせいか、彼女の顔が少しこわばってしまった。

 

「あ、あの」


「ギルドへ一昨日の報告の件で呼ばれてるんだ。別に、全員で行かなくても良いと思ってさ」


 改めて説明しておく。


「そうですか。やはり私では足手まといなのですね……」


「いやいや、そうじゃ無いぞ。分かった。なら、一緒に行こう」


「はい!」


 すっかり俺とアリアになついているが、可愛い猫耳っ子だ。

    

「行ってらっしゃいませ、お客様」


 この宿屋の玄関はダイアウルフに派手に壊されてしまっていた。今も修理の職人がやってきて釘を打っている。このペースなら今日中には直してしまうのだろう。 

 

 街の大通りに出ると、あちこちで破壊された家々を修理しているのが見えた。

 笑っている人も、ちらほらといた。

 

 魔物の大発生―― 

 あれだけのことがあった後だ。

 死人も多く出たという話だったし、完全に元通りというわけには行かないだろう。

 それでもこの街の人々は日々の生活を失ってはいないのだ。


 そんな様子を見てか、アリアがつぶやく。

 

「なんだか、あんなことがあったのに、みんな明るいわね……」


「あれだけのことがあったからこそ、生き残ったことが喜びなのでしょう」


 プラーク司祭が言うが、そうかもしれない。

 

 俺達は、雨上がりのようにからりと晴れた街並みを通り抜けて、冒険者ギルドへ向かった。

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