第三十一話 死者復活
片眼スコープにアリアの位置を表示させ、そこに向かう。
彼女は冒険者ギルドの入り口を守って戦っていた。
ギルドマスターも一緒で鉄球を振るっている。
「シン!」
「すまん、遅れた。さっき宿に寄ったが、ネリーは無事だ」
「そう。良かった。中に怪我人が収容されているわ。アーサーが喉を噛まれて危険な状態なの。助けてあげて」
「分かった」
クランリーダーを任されたBランク冒険者なら頑張って欲しかったが、この数の狼相手ではアーサーもキツかっただろう。
冒険者ギルドの中は、テーブルを横に倒してバリケードにし、その奥に怪我人を何人も寝かせていた。
治療に当たっている司祭も何人かいるが、重傷となると魔法では難しいのだろう。
「――偉大なる至高神ルーリーよ、万物の精霊エアを遣わし、我らの傷と疲れを癒やしたまえ。エリアヒール!」
見た顔だと思ったら、先ほどの『聖女』と呼ばれた司祭の少女がここでも治療をやっていた。
歳はまだ幼さが残る感じで、ネリーと同い年くらいか。
彼女の水色の長髪が魔法を使用したことにより、うっすらと白く光る。
「おお、動ける!」
「ありがとうございます、聖女様!」
何人かの冒険者は自力ですぐに立ち上がったが、傷を手で押さえてまだ起き上がれない者や、まったく動かない者もいた。
魔法だけで完璧に治療というわけにはいかないようだな。
ここは現代医療の出番だ。
「AI、一番死にそうなのはどれだ?」
「解析中、手前の白い鎧の騎士です」
アリアの言った通り、やはりアーサーだな。
魔術師の女の子が布を首に当てているが、出血も酷く、痙攣が起きていた。
見るからに危険な状態だ。
「どいてくれ」
「な、何を」
「治療するんだ。このままだと確実に死ぬぞ」
救急キットからiPS絆創膏を取り出し、急いでアーサーの首に貼り付ける。だが、動脈をやられているのか、出血が粘着だけでは抑えきれない。
レーザーメスを取り出し、皮膚を焼き付けることでようやく出血を止める。
「す、凄い……」
「ほう、焼いて血を止めるとは、なかなかの荒療治ですな」
聖女の相方、プラーク司祭も興味深そうに覗き込んでくるが、宇宙保護条約違反祭りだな。まあ、この際、気にした方が負けだ。
今度は救急キットから輸血パックと支柱を取り出し、スコープで静脈を特定して点滴の針を刺す。
「AI、他に必要な処置はなんだ?」
「痙攣を抑える鎮静剤と、強心剤の投与が必要です」
それぞれ注射銃にカートリッジを差し込み、注入。
簡易測定器で状態を見たが、なんとか容態が安定したようだ。
「よし、これでひとまずは安心だ」
「あ、ありがとうございます」
「あなたは薬師なのですか?」
「まあ、そんなところかな」
「重傷者だ! 見てやってくれ」
他の冒険者に担がれて、一人の怪我人が運ばれてきた。
聖女が手を当てて回復魔法をやっていたが、こちらも首の動脈をやられているようで出血が酷い。
アーサーの時と同じ手順で絆創膏を貼り、治療してやった。
まだまだ怪我人は多い。
「AI、トリアージだ。危険な重傷者から順位づけして教えてくれ」
「了解、隣の男性が危険です」
隣を見るが、寝かされた男はすでに事切れているようで、ぐったりしたまま痙攣も無い。今から心肺蘇生を行っても無駄かもしれない――。が、俺はそれでも止血をやり、酸素マスクとAEDを取り出し、手当をやっておく。
すると、心音が戻った。
「お、おお! 蘇ったぞ」
「そんな馬鹿な、死人も回復できるのか!?」
後ろで冒険者達が驚きの声が上げた。
「死んではいないぞ、気絶していただけだ」
騒ぎになってもまずいので、そう言っておく。実際、心肺停止状態だろうと、イコール死亡ではない。
死人は現代医療でも生き返らないのだ。
「そんなはずはありません、あの者は私が確かに脈と息を確認して死者への祈りを捧げましたので」
司祭プラークがきっちりした性格なのか、余計な事を言う。
「アンタも急いでいたはずだ。たまには間違うこともあるだろう。弘法も筆の誤りと言うしな」
現地のことわざで翻訳されたはずだが、プラークも頷いた。
「そうかもしれませんな。ささ、次の人を」
プラークが勝手にiPS絆創膏を持っていこうとするので、文句を言っておく。
「おい、大事な物だ、勝手に触らないでくれ」
「や、これは失礼。お手伝いをと思っただけですが」
「なら、アンタは回復魔法を唱えてくれれば良い」
「そうですな。分かりました」
次の男は、腹を食い破られ、腸が切れていた。
AIに指示を請いながら、レーザーメスで縫合し、腹を塞ぐ。絆創膏を貼ってついでにポーションも飲ませておいた。
「だいたい、こんなところか」
室内の重傷者をすべて治療し終わった。
「シン、外は魔物がいなくなったわ」
アリアが良い報告を持って来てくれた。
「助かった!」
「大発生を乗り切ったぞ!」
「ルーリー様、ありがとうございます!」
冒険者から次々と歓声が上がった。
俺とアリアもそれを見て互いに微笑む。
――俺達は責務を果たし、そして生き残ったのだ。




