第二十七話 銀河宇宙同盟軍兵士の実力
北の森に巣くったと思われるゴブリン。
ギルドマスターより『災害宣言』が出され、冒険者が全員で捜索に駆り出されている。
あまり戦闘に向いていない猫耳ネリーも冒険者カードを持っていたため、賞金首にされないように念のために俺達のパーティーに加えて街を出た。
「シン様、見つかるでしょうか……」
ネリーも少し不安顔だが、それでも彼女は周囲を見回して巣を探そうとしている。やる気は充分だ。
「大丈夫だ。俺達に任せておいてくれ。な、アリア」
俺は頼れる相棒を振り返る。
「ええ。私達が本気を出せば、こんな任務なんて余裕よ」
微笑んで、銀髪を可憐に揺らしたアリアの言うとおりだ。戦闘用全身補助動力装置に備え付けられている片眼スコープとAIさえあれば、魔物の巣を捜索するのも簡単だ。
「AI、まずは赤外線熱分布画像で地図を出してくれ」
熱分布画像は物質による光の反射率の違いを利用して対象を識別している。
つまり、その分析する画素が細かいほど、遠距離の物体まで察知できる仕組みだ。
このスーツの宇宙空間における捜索範囲はおよそ10億光年先の恒星を捉えられるほどだが、対象物の大きさや、環境によっても可能な捜索範囲は変わってくる。ゴブリンだと身長は一メートル二十センチほど。なので恒星よりは遙かに小さい。さらに大気や森の木々といった障害物がある場合、光が真っ直ぐ通らないため、実用的な範囲は三百メートル程度になってしまう。
そこは歩き回ってカバーするしかないだろう。
周囲に赤い点が示され、さらにゴブリンと身長が一致するものだけが大きく区別されて表示されていく。あちこちに点在しているが、巣と言うからにはある程度の数が固まっているはずだ。
「ダメね」
俺のスーツとリンクしていたアリアが結果を言う。
「次だな。AI、ゴブリンの捜索に適した方法を提示してくれ。巣を見つけるんだ」
「了解。障害物の多いこの地域では、超音波測定を推奨します」
「やってくれ」
片眼スコープに超音波が周囲に広がっていくイメージ図が分かりやすく表示され、それが物体に当たって反射すると、解析によって物体の大きさが区別されていく。
ゴブリンは動く生物なので、木とも区別できる。さらに木に当たって拡散する音波も解析し、距離を伸ばしていく。
「北478メートル先、および、北612メートル先に、ゴブリンの巣と思われる一群をそれぞれ察知しました」
「二つか。微妙な距離だな……」
130メートル程度の距離だと、ゴブリンが悲鳴を上げたときに、もう一つの巣の一群が異変を察知して逃げてしまうかもしれない。
「手分けして同時に潰しましょう。無線で連絡が取れる私達なら簡単でしょ?」
「そうだな。じゃ、俺が遠い方を相手する。アリアは近場の奴を頼む」
「了解、隊長!」
どちらを隊長にするかの問題は棚上げにしたままだったが、今回は俺に任せてくれるようだ。
「あ、あの、私は」
「ネリーはここで俺達の帰りを待っていてくれ」
「分かりました」
彼女は身分証を得るために冒険者になってもらったが、戦闘能力はゼロだ。
武器を持たせればゴブリン一匹ならなんとか相手にできるかもしれないが、森には他の魔物だっている。無理はさせたくないし、その必要も無い。
向かう方向は同じなのでアリアと二人で歩いていると、他の冒険者が俺達に声をかけてきた。
「よう、シン、アリア。Bランクパーティーにしちゃあ、出遅れたな。『疾風』と『聖剣探し』は走って北の森に向かってたぜ?」
「そういうアンタはどうなんだ?」
ここでは冒険者相手に敬語で話しても浮いてしまって貴族と勘違いされるので、今では俺達もざっくばらんな喋り方で対応するようになっていた。
「ゴブリンの巣なんざ、何の旨味もねえ。他の冒険者様に任せるよ」
「そうか」
「自分たちの街だって危なくなるのに、やる気が無いわね」
通り過ぎた後でアリアが不満げに言うが。
「仕方ないさ。気合いの入る任務でもなければ、彼らは兵士でも無いからな。タダの傭兵だ」
流れ者なら、ここがダメになれば、別の街へ行くだけだろう。
「じゃ、余計に私達が気合いを入れていきましょうか」
「そうだな」
真面目に捜索している冒険者とも出くわしたが、彼らもまだ巣を見つけていないようだ。
「ダメだ、はぐれゴブリンは何匹かいたが、巣なんてどこにもねえぞ」
「ガセネタじゃねえのか」
そう疑ったとしても不思議は無いが、ギルドの受付担当者なら、討伐部位の数でゴブリンの数も正確に把握しているだろう。実際、リリアンの見立ては間違っていない。魔物の『大発生』で父親を失ってしまった彼女なら、ゴブリンの巣に対しても敏感になる理由がある。
「じゃ、ここで別れましょう」
「ああ。無線で合図する」
「了解」
さらに森を歩き、巣の近くまで来たので身をかがめて見つからないように注意する。
いや、もっと確実を期した方がいい。
「AI、ステルスモードだ」
光学迷彩をスーツに施し、透明になって俺は巣に近づいた。
「あれか」
大きな岩場に割れ目があり、一見しただけでは何も気づかないだろうが、ゴブリンならなんとかギリギリ通り抜けられそうだ。その奥に巣を作ったのだろう。連中もそれなりの知能はあるんだよな。交渉は通じなかったけど。
穴に入る前にもう一度、超音波測定を行い、穴の内部の大きさを解析した。
奥行きは五メートルくらいでそれほど広くはない。
「こんなところじゃ剣は振り回せないし、魔法だな」
俺はそう判断して呪文を――おっといけない、先にアリアに連絡しないと。
「アリア、こちらは配置についた。どうぞ」
「こちらも配置についているわ。いつでもいける」
「よし、決行だ」
「了解!」
「さあ行くぞ、ゴブリンども! ――猛る炎の神イフリートよ、万物の精霊エアを遣わし、炎の壁を作りたまえ、ファイアウォール!」
「「ギギーッ!」」
いきなり巣が燃え上がって、ゴブリンも驚いたことだろう。炎に包まれながら数匹が飛び出してきたが、そこは剣で始末する。
「終わったか。AI、残敵がいないか、確認しろ」
「了解。生命反応無し。任務完了を確認」
この作戦は銀河宇宙同盟軍の発令ではなく、俺達の勝手な行動なのでそう言うのも変だなと思ったが、まあいい、AIが状況を判断して気を利かせてくれたのだろう。
「こんなところにゴブリンがいたとはなぁ。やるな、シン」
近くで一部始終を冒険者が目撃していたようで、巣穴を覗き込んで感心している。
「また住み着かないように、石で穴を塞いでおこう」
俺は提案した。
「おお! それがいい」
その冒険者と一緒に、岩の割れ目に大きめの石を押し込んでおく。これでもうここに入れそうだと思うゴブリンはいないだろう。
「作戦終了、そっちはどう?」
アリアも無事、任務を完了したようだ。
「ばっちりだ。報告に戻ろう」
「ええ」
途中でアリアとネリーと合流し、俺達は仲良く冒険者ギルドに戻った。
あとがき
超音波測定は魚群探知機を参考にしました。
次話は明日19時投稿予定です。




