第二十六話 予兆
それから二週間ほどは剣術をダインに教わったり、魔術をシェリーに教わったりしながら、冒険者ギルドのクエストも順調にこなした。道具屋から頼まれてガラス瓶も大量に作った。
「クリア! 片付いたわね」
「ああ、スーツを使わなくても、魔物を倒せるようになってきたな。レベルも六つ上がったし」
今日は少し遠出して、アリアと二人でファラド村の近くで戦っている。
大量にダイアウルフが集まってくるが、それでも、剣と魔法で対処できるようになっていた。
「それじゃ、そろそろ王都に向かいましょうか」
「情報収集か?」
「ええ。南の国にいるというワイバーンについて、望み薄だけど、一応は調べておかないと。だって、私達、銀河宇宙同盟軍でしょ?」
「すっかり忘れてたけど、そうなんだよなあ」
「ダメよ、今の発言。スーツの電源を切っていたから良いようなものの、任務放棄と受け取られないわ」
「そうだが、アリア、君はまだ任務を全うするつもりなのか?」
「そうねえ。一応、やるだけのことはやっておきたいの。もし、この星に宇宙船があって、おばあさんになった時に気づいたら、後悔するでしょう?」
「まあな。でも、気づかないまま、ここで二人で過ごすってのも有りだと思うが」
「それは……敵よ!」
「くそ、休むヒマも無いな」
ダイアウルフのうなり声が聞こえて来たので二人とも身構える。
すぐに森の中から五頭の狼が飛び出してきた。
まだ距離がある。
ここは魔術だな。
「ファイアボール!」
右手を構え、短縮呪文で唱える。全部唱えるときより威力は下がってしまうが、長々と唱えるより連発の方が使いやすい。
「キャイン!」
一頭の顔に見事に命中し、まだしぶとく生きているが目と鼻を潰してやった。これでコイツは戦力外だ。
「私も、ファイアボール!」
アリアも同じように呪文を唱え、一頭を無力化した。
残り三頭。
しかし、すでに狼共は距離を詰め、こちらに飛びかかってきた。
「甘い!」
相手の動きをよく見て右にかわし、同時に剣をすれ違いざまに叩き込む。
手応え有り。
「ガウッ!」
口から腹にかけて切り裂いてやったが、そのダイアウルフは一撃で絶命した。
自分でも驚くほどの膂力だ。
ナノマシン・タイプXはアドレナリンも操り、筋肉に酸素と栄養素を供給し、乳酸さえも分解するので、こんな芸当が可能だ。
「クリアね」
アリアも最後の一頭を危なげなく倒しており、後は魔石を集めるだけだ。
「そろそろ日が暮れそうだな。街へ戻ろう」
「そうね」
野宿で一泊して街に戻ったが、様子が少し変だった。
門番が増えて、二人になっている。
「何か、あったんですか?」
「ああ。まだそうと決まったわけじゃ無いが、このところ、魔物の数が妙に増えていてな。大発生かもしれないって話だ」
「大発生?」
聞き慣れない言葉だったが、ぞくりとする響きがあった。
「なんだ、知らないのか。詳しいことはギルドで聞いてくれ。だが、宣言が出る前にこの街から立ち去った方がいいかもしれんぞ」
「おい、余計な事は言うな」
もう一人の門番が咎めた。
「分かった分かった。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「今の、どういう意味だったのかしら?」
「さあ?」
いったん、宿に寄って食事と湯浴み(さすがにシャワーは無いのでタライのお湯だ)を済ませ、冒険者ギルドに行く。
「ああ、シンさん! アリアさん! 良かった、二人とも無事だったんですね」
受付のリリアンが心配してくれていたようだ。言ってから出かければ良かったな。
「ええ、ファラド村の近くまで野宿で遠出してきたので」
「そうでしたか。次から遠出するときには私にも教えて下さいね。冒険者だから何かあったのかと」
「すみません」
「それとシンさんに指名依頼が来てますよ」
「またですか?」
道具屋からガラス瓶を作ってくれと何度か依頼を受けている。
「良いじゃないですかぁ。道具屋さんもシンさんの作るガラス瓶は質が良いって、とっても評判ですよ?」
「それはどうも」
スーツの補助動作があってこそなので、俺が褒められるとなんだかずるをしている気分になってしまう。
「ふふっ、もう立派なガラス職人ね。じゃ、魔石の換金をお願いします」
アリアがそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、クスッと笑って革袋を出す。
「はい。わあ、ダイアウルフですね。それもこんなに。やっぱりBランクパーティーは違いますねえ。しかも半月足らずでここまでランクを上げた人、他にいないですよ?」
リリアンが言うが。
「うーん、目立っちゃてますか? 私達」
アリアが苦笑しながら聞く。
「ええ、もちろん! カンデラの素手パーティーって、王都にまで名が轟いてますよ」
王都までか……やり過ぎたな。
「素手パーティー……私達、もう素手じゃ無いんですけど」
「まあそれはそれということで。デビューが強烈でしたから」
「あはは……」
「おう、ちょうどいい、お前らも帰っていたか」
隻眼のギルドマスターが出てきて俺とアリアを見ると、ニヤアと目を細めた。
一方、リリアンは申し訳なさそうな目でこちらを見た。
「なんでしょう……」
「聞け! 今から『災害宣言』を出す! 全員、これが終わるまでは強制指名だ。逃げたら賞金首だからな、よーく覚えとけ」
それを聞いた冒険者達がうめく。
「うげえ! ついに来たか……」
「くそっ、オレは明日、王都に向かうつもりだったのに! 一足遅かった!」
「これってDランクもなのか? おいおい、全員ってことはねえだろ? Bがいりゃ充分だろが」
「やかましいぞ! てめえら。ランクは関係ねえ、この街にいる冒険者は全員だ!」
ギルドマスターが一喝したが、冒険者の非常招集らしい。
「何があったんですか?」
リリアンに聞く。
「北の森にゴブリンが新しい巣を作っちゃったみたいなの。巣は発見していないけど、数が増えてるから、早めになんとかしないと、このままじゃ北の村の畑がやられて全滅しかねないわ」
「確か、繁殖力がもの凄いんでしたよね?」
「ええ。ゴブリンとビッグラットとオーク、この三種は一月もあれば十倍に増えてしまうのよ」
ゴブリンは雑魚だが、畑を荒らすとなると放ってはおけないな。
「それで大発生ですか……」
アリアがつぶやいたが。
「ああいいえ、ゴブリンの巣が一つくらいじゃ、普通、大発生なんて言わないわ。ただ、ダイアウルフもこのところ増えてるって情報があって、それでギルド長が心配していたの。大発生だと全種類の魔物がどこからか集まってきて、大変なことになってしまうのよ」
「それって良くあることなんですか?」
「いいえ、とんでもない。この前の大発生は私がまだ子供の頃だもの、二十年以上も前よ。その時は隣の街がやられて全滅してしまったわ」
「街が……」
「ええ。死人も大勢出たわ。私の父も隣街の冒険者だったんだけど、その時に……ああ、ごめんなさい、これは余計な話だったわね」
沈みかけた顔を無理矢理に笑ってみせるリリアンは少し痛々しかった。
「いえ。大事なことだと思います」
俺とアリアは顔を見合わせて頷いた。
王都への出発はしばらく延期だ。
この街を守るのも、銀河宇宙同盟軍の務めと言っていい。
軍人は民間人を守る責務がある。
「よし、野郎共! 今から総出でゴブリンの巣の捜索だ! 北の森を重点的に探せ」
ギルドマスターが命じた。
「なんだよ、ゴブリンかよ。焦らせやがって」
「それを早く言えよな」
「面倒くせえなあ……」
明らかにほっとした様子の冒険者達だったが、やる気もあまり感じられない。
ここは俺とアリアが頑張っておいた方がいいだろうな。




