第二十五話 魔術
翌朝、朝食を三人で食べ、俺とネリーはアリアに連れられて街外れまでやってきた。
「ここに何があるんだ?」
見当も付かないので俺は聞く。
「まあいいから。きっと驚くわよ、シン。おはようございます!」
一軒家に向かって挨拶するアリアだが、誰も出てこない。
「んん? 朝ならいつも家にいるってシェリーさんは言ってたのに、まだ寝てるのかしら? おはようございます!」
ドンドンと乱暴にノックする奴。
「出直した方がいいんじゃないのか?」
「でも、昼からはダインさんに剣術を教わる約束でしょ」
「そうだが……」
「んもぅ、だーれぇー?」
眠そうな若い女性の声でドアが開いた。
すると。
「「 ファッ!? 」」「はわわ」
俺とアリアとネリー、三人とも彼女を見てビビる。
なぜなら、その長い黒髪の女性は、体に一糸まとわぬ裸だった。
かなりの胸の大きさだ。巨乳というのはこういう胸を言うのだろう。
「あら、アリアじゃない」
「なななな、なんて格好で出てくるんですか! シェリーさん!」
「ええ? ああ。だって私、夜は裸じゃ無いと寝られないし、今起きたばっかりだもの」
「いいから、服を着て、シンも見るなぁッ!」
アリアに手で視界を塞がれてしまったが、凄い物を見てしまった。
「ごめんなさいね、まさか、彼氏がいるなんて知らなかったもの、フフッ」
緑色の魔女服を着直したシェリーがお茶を入れてくれているが、妙な雰囲気になってしまった。
「彼氏じゃ無いですけど!」
アリアがさっきから不機嫌だ。
「そ。なら、別に見たって平気でしょ」
「だっ、ダメです! 軍務中にそんな、イヤらしい!」
「軍務?」
「ああいえ、何でも無いです……もう」
「それで今日は……ああ、この子達にも魔法を教えて欲しいわけね?」
「そうです」
「魔法?」
「ええ。この人は魔法使いなの」
「得意魔法は魅了よ、なんてね。うふふ」
「変な魔法じゃ無くて、昨日の炎の呪文を見せてください」
「ハイハイ。じゃ、裏庭でやりましょう。家の中じゃさすがに危なくて見せられないわ」
「はい」
四人で裏庭に行く。
庭と言っても、ただの荒れ地だ。
「じゃ、二人ともよく見ててね。――猛る炎の神イフリートよ、万能の精霊エアを遣わし、炎の玉で敵を焼き払いたまえ、ファイアボール!」
彼女が目を閉じて呪文を唱えると、杖の先から拳大の火の玉が飛び出し、地面にぶつかって少しの間燃えた。
「こ、これは……」
俺は驚愕してアリアの顔を見る。彼女が微笑んで頷いたが、ただの手品などでは無さそうだ。
「あら? 魔法を見たのは初めて?」
「ええ……」
「でも、実はもう私も使えるのよ」
アリアが言う。
「なにっ!?」
アリアが右手をかざし、先ほどと同じ呪文を唱えた。
「――猛る炎の神イフリートよ、万能の精霊エアを遣わし、炎の玉で敵を焼き払いたまえ、ファイアボール!」
同じように火の玉が地面に飛び、少しの間だけ燃える。
「やってみて、シン」
「あ、ああ」
まさかとは思いつつ、俺も呪文を唱える。
「――猛る炎の神イフリートよ、万能の精霊エアを遣わし、炎の玉で敵を焼き払いたまえ、ファイアボール!」
だが、不発。
「もっと魔力を込めないと」
「気合いを入れてみて」
シェリーとアリアがそうアドバイスしてくれたので、今度はしっかり構えて、右手に力を込めつつ唱える。
「――猛る炎の神イフリートよ、万能の精霊エアを遣わし、炎の玉で敵を焼き払いたまえ、ファイアボール! おおっ!」
自分の右手から勢いよく炎の玉が出た。
なんだこれ!
面白い!
「ふうん、あっさりと使いこなしちゃったわね。アリアは結構時間がかかったのに」
「そ、それは言わないで下さい、シェリーさん」
ちょっと恥ずかしそうにするアリアだが、まさか魔術が存在しようとは。
「――猛る炎の神イフリートよ、万能の精霊エアを遣わし、炎の玉で敵を焼き払いたまえ、ファイアボール! あう……」
ネリーも真似してみたが、彼女からは炎が出ない。
「残念だけど、あなたは魔術は無理ね。魔力の波動を感じないわ」
「そうですか……まあ、分かってはいたのですが」
しゅんとしてしまうネリー。
「使える人と、使えない人がいるのか?」
「ええ、詳しくはシェリーさんも分からないそうだけど」
「仕組みは?」
「さあ? AIで解析したけど、未知のエネルギー、それも体内と空中の両方から取り込んでるみたい」
「これは報告書ものだな」
「ええ、私が記録を付けているから、そっちは任せて」
「そうか。他に、どんな魔法があるんですか?」
「ふふっ、やっぱり男の子は食いつきがいいわね。いいわよぉ、お姉さんが手取り足取り、優しく教えて、あ、げ、る!」
「いえ、普通で良いですから」
アリアが仏頂面で勝手に注文をつけてしまった。
「そ、残念。じゃあ、そうねえ、これなんてどうかしら。――猛る炎の神イフリートよ、万物の精霊エアを遣わし、炎の壁を作りたまえ、ファイアウォール!」
シェリーがさっきとは少し違う呪文を唱えると、地面が数メートルに渡って横に燃え上がった。なるほど、これは炎の壁だ。
「おお」
さっそく、俺も試してみることにする。
「――猛る炎の神イフリートよ、万物の精霊エアを遣わし、炎の壁を作りたまえ、ファイアウォール!」
シェリーが作った炎の側に、新しく俺の作った炎の壁ができあがった。
「あら、やるわね、これって中級呪文だったんだけど」
「どうも。でも、こっちの方が炎が小さいな……」
「それは当然でしょ。熟練の魔術師である私に、今日初めて魔法を使ったような素人が勝てるはず無いわ」
「繰り返し使うと、威力が上がるんですか?」
「ええ。職人芸と同じで、慣れてくると威力も上がるし、使える回数も増えてくるわ」
「使用回数に制限が?」
「そうよ。初心者のあなたは、たぶん、中級呪文をあと一回使えるかどうかでしょうね」
「へえ。――猛る炎の神イフリートよ、万物の精霊エアを遣わし、炎の壁を作りたまえ、ファイアウォール! うっ?」
炎は出たが、急に立ちくらみがして、俺は倒れかけた。
「シン!」
アリアが体を受け止めてくれたが、意識がもうろうとする。体もだるい。
「ふふっ、それが魔力切れよ。今日はもう魔法は使えないし、少し休んで。そうしたら楽になるわ」
シェリーの家のソファーで休ませてもらい、いくつか魔術の注意点を聞いて、お暇することにした。
「それにしても、魔法があるとなると、レーザー銃があっても、油断できないな」
俺は言う。
「ええ。でも、レーザーの方がずっと早いし、スーツもあれば私達の方が強いわ」
「だといいが……」
現代武器の優位性がそれほどでは無い気がする。
「シン。剣術……ダインさんの方はどうしましょうか? 休む?」
「いや、大丈夫だ。行こう。ネリーは街で遊んでるか、お留守番しててくれな」
「はい、部屋の掃除をしておきます」
「他に好きなことをしてても良いのよ?」
「いえ、お掃除をやりたいです!」
ま、好きにさせてやろう。




