第二十四話 薬草の秘密
三日の傷を一日で治癒させた薬草。
俺はある予感がしてこの薬草の葉を簡易測定器にかけてみたのだが……。
「ナノマシン・タイプXを大量に検知。葉に多く含まれています」
AIが予想通りの答えを言ってくれた。
「やっぱりな」
つまり、ナノマシンが傷薬の成分だったというわけだ。
植物にまで入り込んでいるとは。
「ナノマシンだけを抽出して粉状にすることは可能か?」
傷薬として本当に使えそうなので、聞いてみる。
「可能と思われます。葉を潰して煮込んで凝縮、さらにそれを乾燥させる方法を推奨します」
「煮ても平気なのか?」
「水が沸騰する摂氏百度程度の温度ならば、問題無いと思われます」
物は試しだ。
宿の店員に頼んですり鉢の道具を貸してもらい、集めてきた薬草をすり潰す。
それを鍋に放り込んで水と一緒に煮込む。
「どうだ、AI」
「問題ありません。水分を吸収し、排出する運動を激しく繰り返しています。これは宿主の温度を低下させる目的と考えられます」
無駄な動作だが、しっかり煮込んで水を少なくし、その青汁だけを容器に移す。
「これで乾燥させればいいな」
「お客さん、薬草粉末を作られるのですか? これなら酒を混ぜてポーションにした方が効きが良いですよ?」
店員がそんなことを教えてくれた。
「じゃあ、そうしようかな」
他に入れ物が無かったので革袋の水筒に全部入れ、入りきらない分は宿屋の器を貸してもらって部屋に持って帰った。
「シン、そろそろダインさんのところへ剣術を教わりに行きましょう」
ちょうど、アリアがやってきた。
「ああ、そうだな」
「んん? 何してるの?」
「薬草を煎じてみたんだ。ナノマシン・タイプXがたっぷり入って、傷薬として使えるぞ」
「ああ……植物にも入ってたんだ、それ」
あまり使いたく無さそうな顔をするアリアだが、救急キットのiPS絆創膏も数に限りがあるし、これで済む軽傷ならこちらで済ませた方がいいだろう。
ダインのところで今日も素振りや型を教わり、その後で街の道具屋へ寄ってみた。
「ここってガラス瓶は無いのですか?」
さすがにプラスチック容器は無いだろうから、瓶で妥協しようと思ったのだが。
「今は切らしててね。王都に行けばたくさん売ってるよ。高いけどね」
店の主人が言う。
高いのか。
器に入れたまま放置してる薬草の青汁、あれをなんとかしたいのだが。
「AI、瓶の作り方は分かるか。ここにありそうな材料で、だが」
「可能と思われます。珪砂、トロナ石、石灰石を摂氏千六百度以上で熱し、そこに空気を吹き込み回転させる事によって形成します」
空中ホログラムで映像解説してくれたが、道具屋の主人もそれを目撃してギョッとしていた。まあ、済んでしまったことは仕方が無いが、AI、宇宙保護条約とか大丈夫なのかよ。
「現地人のいるところでホログラムなんか出すな」
「了解。以後、状況を確認してからにします」
「さて、材料はスコープで探すとして、摂氏千六百度以上となると、普通の竈じゃ無理そうだな」
「鍛冶屋に行ってごらん。あそこなら鉄も溶かせるんだ。砂も溶かせるだろうよ」
道具屋の主人が親切に教えてくれた。
昼食の後でアリアとネリーに手伝ってもらい、ガラスの材料を集めた。
片眼スコープで河原を回ると難なくそろった。
「ありがとう、二人とも。助かったよ」
「はい、シン様! お役に立てて良かったです」
「私は魔法について調査したいの。今度は、こっちも手伝ってくれないかしら、シン」
「あー、悪い、先に瓶を作りたいんだ、アリア。明日、手伝うよ」
「仕方ないわね、じゃあ、後は別行動にしましょう」
あとは鍛冶屋だが。まあ、頼むだけ頼んでみよう。
「こんにちは!」
カンカンと叩く音がうるさいので、こちらも大声で話しかける。
「何か用か? 修理なら武器屋を通してくれ」
背の低い男が出てきたが、ドワーフ族だろうな。ギルドマスターと似た体格だ。遺伝子検査をしてみたいが、血を出せと言えば怪しまれるだろうし、今は止めておこう。
「いえ、ガラスの瓶を作りたいので、ちょっと竈を使わせてもらえないかと」
「おめえ、ガラス職人か?」
「いえ、見習いというか……」
「ふん、まあいいだろ。こっちの邪魔にならないようにするんなら、一日だけ使わせてやる。腕前を見せてみろ」
「はあ、見せるほどのものでは」
「いいからやれ。器はそれを貸してやる」
「どうも」
AIに教えてもらい、分量を混ぜ合わせ、ドワーフの親方が竈に器を入れてくれた。
石炭をくべ、ふいごも使って温度を上げる。
「目標温度に達しました。八分維持してください」
「八分!? くそ、きついな」
顔が熱くて焼けそうだったので、もうスーツのヘルメットモードを使う。
「完了、取り出してください」
引っ掻き棒を使って器を竈から出して引き寄せると、ガラスの材料が溶けてオレンジ色に輝いていた。
「あとは筒がいるな……」
「コイツを使え」
親方はガラスの加工もやったことがあるのか、二メートルの金属筒を手渡してくれた。
「注意、温度が下がると再加熱しないと形成できなくなります」
「ああ、急がないと。補助してくれ、AI」
「了解。アシストモード始動」
筒の先でガラス飴をくっつけ、そこに息を吹き込みながら回転。
「ほう、やるじゃねえか」
ドワーフの親方が褒めてくれたが、きちんと瓶の形になってきた。
「ナイフで切り取ってください」
単分子高周波ブレードナイフで切り取って、一つできあがり。
「よしっ」
AIの補助があればこそだが、自分で作るとなんだか楽しい。
半日かけて、三百個の瓶を作った。
さすがに疲れた。材料を集めすぎた。
ドワーフの親方はまたいつでも使わせてやると言ってくれたが、もう充分ですから。
道具屋でちょうど良い大きさのコルク栓を、瓶の蓋にするため三十個ほど買ったが、それで品切れになってしまった。
宿に放置している青汁の分だけでいいので、まあ足りるだろう。足りなきゃ青汁なんて別に捨てても良いのだ。薬草一束でたった二ゴールドだしな。
一方、空瓶は一個五十ゴールドで売れた。青汁を瓶に入れた『ポーション』だと六十ゴールドの値が付くそうだ。
宇宙船が無かったら、もう兵士を辞めて、ポーション屋さんになろうかな。
「じゃーん! クラド謹製! 回復ポーションだ。受け取ってくれ」
夕食の時にアリアとネリーに自慢げに渡す俺。
「よ、よろしいのですか?」
「いいとも。君のために手作りで作ったんだぞ、ネリー」
「わぁ、ありがとうございます! シン様からの贈り物なんて、一生、大切にします……!」
大事そうに抱えてくれたネリーだが、傷薬だからな、それ。
「傷を負ったときに遠慮無く使ってくれていいからな。また渡すし。ほら、アリアも」
「要らないわ」
こちらはあっさりと、素っ気なく。
「ぐっ……苦労したのに」
「救急キットの絆創膏で充分だと思うけど」
「あれは数に限りがあるだろ。傷も綺麗に治るし、軽傷ならこっちを使うべきだ」
「分かったわ。じゃあ、ありがたくもらっておくわね」
「おう」
「それと、私も、明日、あなたに見せる物があるわ」
自慢げにニヤリと笑うアリアは、何か見つけたようだ。




