第二十一話 病気になる
「ええっ? もうこんなに集めてきたんですか!?」
カウンターに薬草の入った袋を置くと、リリアンさんがびっくりしていた。
「ええまあ、ちょうど教えてもらった場所に大量に生えていたので」
「そうですか、じゃあ、運が良かったですね。それほど探すのは難しくない薬草ですけど、場所を教えてあげても、なかなか見つけられない人もいますので」
俺達は片眼スコープとAIが味方だから余裕だ。
「じゃ、冒険者カードも出してください。査定して評価を入れておきますので」
そういえば昨日もらったカードがあったな。字が読めないので会員券くらいにしか思っていないが。
こうして使うのなら、無くさないようにしておこう。再発行は有料だと聞いている。
中年男の職員とリリアンが慣れた手つきで素早く薬草を紐でくくっていく。妙に速いな。
「はい、それでは合計、936束、こちらの買い取りで1872ゴールドになります」
銀貨一枚と銅貨を受け取った。
「へえ、宿代より高いなら、武器もすぐ買えそうだな」
「そうね。じゃあ、また行ってきます」
「あっ、待ってください! ヨモギ草はもういいので、次は毒消し草にして下さい。あと、さっきの半分くらいの量でいいですから」
ギルドとしてもそんなに量は要らないようだ。
こうなると毎日稼ぐというわけにはいかないか……。
「まあいい、とにかく採取は簡単だから、それを全種コンプリートしておこう」
「ええ」
毒消し草は、紫蘇のような紫色の葉っぱだ。
これは色が特徴的なので、片眼スコープを使うまでも無く、簡単に見つけられた。
ただ、同じ場所にそれほど固まっていないので、移動する必要がある。
「ギッ」
「うわ、ゴブリン!」
毒消し草を集めていると、すぐ近くにナイフを持ったゴブリンがいつの間にか近づいていた。
慌ててコンバットスーツのスイッチを入れ、殴り倒す。
「ふう、今のは焦ったぞ」
「誰か一人、歩哨をやっていた方が良さそうね」
「そうだな。ネリー……いや、俺がやるか」
「ええ、任せたわ」
レーザーガンも念のため、担いで持ってきているので、それを構えて周囲の警戒。
「これくらいでいいでしょう。街へ戻りましょうか」
さっきよりは時間がかかり、二時間ほどで街に戻った。
「昼飯にしないか」
「ええ、私もそれを言おうと思っていたところ。動いたせいか、お腹が空いちゃったわ」
酒場が開店していたので、そこで昼食を頼む。他にも客がそこそこ入っていて、昼間はレストランとして営業しているようだ。
「ううん、物足りないわね……パンとチーズ、五人前追加で!」
「こっちもだ!」
「ふええ、お二人とも、よく食べられるのですね……」
ネリーが目を丸くしているが、確かにちょっと異常だ。
それに、気のせいか、体が少し熱くてだるい。
二日酔い……だとは思うのだが。
だが、宿に戻ると、いよいよ体調がおかしくなってきた。体がふらつく。
「くそ、風土病か何かか」
「油断したわ。ネリーは平気みたいだし、私達だけね。先にあなたが測定器でチェックしてみて」
「ああ」
汗だくになって、気持ち悪いのでスーツも脱ぐ。
「ちょ、ちょっと、いきなり裸にならないでよ……」
アリアが顔を赤らめながら後ろを向いたが、コンバットスーツはこちらの体の動きに反応させるため、下着の着用は不可だからな。
「悪かった」
簡易測定器で俺の体を測定する。
「体温38度2分。発熱、発汗の症状が見られます。血液を見せてください」
AIが言うので、ナイフで親指の腹を刺して、血玉を作る。
「解析中……血液中に大量の異物を発見」
やっぱりか……。
「抗生物質を出すわ」
アリアが救急キットの箱から薬を取り出そうとしたが。
「いいえ、これは抗生物質では取り除けません。異物の組成92パーセントがシリコン、これはナノマシンです」
「なにっ?!」「ええっ!?」
いったいどうしてそんなものが。
銀河宇宙同盟軍では、ナノマシンは使われていない。
民間でもそうだ。
ワープ装置が開発された当時、宇宙開拓時代には用いられたこともあったが、健康被害があったり、メンテナンスが大変だったりするので、廃れたのだ。
ブルータス共和連合では現在でもナノマシンを常用しているが、噂ではナノマシンを使って思想操作も行われているという話もあった。
「こいつはどこで入ってきたんだ……?」
「コンバットスーツの映像解析が必要です。銀河宇宙同盟軍規則、第百二十四条のa、兵士の検疫にかかる条項により、直ちにデータリンクして提出してください。他の兵士との接触は解析が終わるまで禁じられます」
「分かったよ」
スーツの電源を入れる。
「解析中……この未開惑星で摂取した食べ物が原因と考えられます。特に肉類」
「あのイノシシか!」
俺も食いたくは無かったんだなぁ。だいたいオマエその時、食用可能ですって言ってたじゃん!
「私はそれ食べてないけど、ああ、暴れ鳥の南国ハーブ仕立てか……あれは美味しかったのに……」
「待て、となると、ここは共和連合の勢力下なのか……?」
「ちっ。ネリー、ごめんね」
「え? え?」
アリアがネリーを後ろから捕まえる。
「待て、彼女はどう見たって民間人だ。俺達の話もまるで理解してないし、自分の体にナノマシンが入ってることさえ知らないはずだ」
「そうね……ネリー、ちょっとまた血を採らせてね」
「は、はい」
「解析中。同型のナノマシンを検知しました。ネリーさんも隔離してください」
「やっぱりね。でも、どういうこと? 共和連合のナノマシンが入っているなら警告が出るはずなのに」
「共和連合の型とは一致しません。さらに小型なので検知できませんでした。効能についてはこの測定器では解析しきれません。しかるべき研究施設にサンプルを提出してください」
「それができれば苦労しないっての。くそ、頭が回らん。AI、ナノマシンの排出方法を教えろ」
「ありません」
「は? あ?」
イラッとする。
「すでに内蔵にも行き渡っていると考えられるため、人工透析でも数ヶ月かかります。この惑星にはそのような設備もありません」
「困ったわね……私も、ふらついてきたんだけど」
「しばらく安静にすることを推奨します。ナノマシンを注入して急激に体内増殖させた場合、ナノマシンが体内の栄養素を奪って、一時的な適応障害が発生する場合があります」
やたらに腹が減ったのはそのせいか。
「しかたない。ネリー、水を持ってきてくれるか。俺達はちょっと風邪を引いたみたいだから、少し休む」
「わ、分かりました」
スーツのスイッチを切って、ベッドに入る。
今のところ、他にできることは無さそうだ。
「私の部屋にもお願いね」
「はい」
「でも、たぶん、なんとかなるだろう。ここの現地人も体に入ってるなら……ああ、そういうことか……」
現地人が使っていた魔法や肉体増強はこのナノマシンが原因だろう。
そうとしか考えられない。
「ファラド村でおばあさんが見せた魔法のこと?」
「たぶんね」
とにかく今は休むことにした。
次話は本日19時投稿予定です。




