第二十話 冒険者になる
(視点がシンに戻ります)
目覚めて、ベッドから降りる。
「つっ……」
頭がズキズキするし、体がなんだかだるいが、きっと二日酔いのせいだ。
酒場でアリアがあんなことを言うから、ついつい勢いに任せて飲んでしまった。
ツインテールの銀髪美少女が「私と二人きりで暮らしましょう」なんて言ってきたら、舞い上がらない奴の方がどうかしている。いや、「二人で」とは言ったが、「二人きり」でも無かったな。
まあいい、どうせアリアも酔っ払っての事だろうから、どうせ無かったことにされるのだ。
一夜の良い夢だったと思うことにしよう。ベッドインも何も無かったけれど。
「もうこんな時間か。アリアに何か言われそうだなぁ」
時間は午前九時。軍規では通常六時起床なので、三時間の寝坊だ。AIも起こしてくれればいいのに、いや、そういえばスーツはスイッチを切ったままにしていたな。
コンバットスーツの充電やカートリッジ交換はこの惑星にいる限りは不可能だ。
左腕パネルの残量を確認するが、すでに35パーセントまでエネルギーが減っている。ブルーハウンドで格闘訓練もやっていたし、ずっと戦闘続きだった。あれから一度も充電していないし、バッテリーカートリッジの予備も装着していないのだ、当然だろう。
「こりゃ、このスーツをどうするかもアリアと話し合わないとな……」
腹がグウと鳴ったので、まずは腹ごしらえだ。
部屋のドアを開けて廊下に出ると、ちょうどアリアも部屋から出てきたところだった。
「「 お、おはよう…… 」」
二人ともぎこちなく挨拶する。
だが、おお、アリアが怒っていない。
なぜだか分からないが、これは運が良い。
「シン、これから朝食?」
「ああ。アリアも?」
「ええ。そのぅ……昨日は変に絡んじゃってごめんなさい。私はあなたの好みに口を出せる立場でもないし、反省したつもりが、また私お酒に酔っちゃったみたいで……」
「まあ、実害は無かったし、それほど酷く酔っ払ってたわけでもないだろう。スーツも電源は切っていたからログは残ってない。俺も忘れるから、何も問題無いぞ」
「うん、ありがとう。ふう、シンがパートナーで良かったわ」
「じゃ、朝食、一緒で良いか? 少し話し合いたいことがある。割と緊急だ」
スーツのエネルギー残量について。
「ええ、私も話し合っておきたいことがあるわ。でも、ネリーも呼んであげましょう」
「ああ、そうだな」
翻訳しなければ俺達の話は筒抜けにならないので問題は無い。
「お、おひゃようございましゅ! 寝坊してもうしわけありません、ご主人様!」
慌てた様子のネリーに俺とアリアはクスリと笑い、気にするなと言っておく。
宿の食堂はこの時間とあってか他の客は商人らしき中年の二人組だけで、スープはすぐに運ばれてきた。
「まずは、あなたのスーツのエネルギー残量を教えて」
アリアがまずそれを聞いてきた。
「ああ。35パーセントだ。俺もそれを君に話そうと思っていたんだ」
「うん。このままのペースで使っていると、一週間も経たないうちにエネルギー切れだわ。太陽光発電だと、完全に充電するまで十日はかかるでしょうし、使い方を考えないとまずいわね」
「予備のバッテリーカートリッジを持ち出しておけば良かったな……」
「そうね。でも、あのときは任務でそれどころじゃ無かったし、無いものは仕方ないわ。基本は電源オフで、必要なときは省エネモード……でも、戦闘でフルモードも時々必要になりそうなのよね……」
「その時は仕方ないが、なるべく、スーツに頼らない戦い方をしていこう。レーザーライフルも温存して、剣か何かで戦った方がいいな。ここの現地人みたいに」
「それしかないか……あなた、剣とか使えそう?」
「スーツの補助が無いと無理だが、覚えないと、街から街までの移動ができなくなる。モンスターがあっちこっちにいるだろ?」
「そうねえ。こうなると、先に武器を購入すべきだったわ。私のミスね、ごめんなさい」
「いや。金はまた稼げば良い。だろ?」
「ええ。冒険者ギルドへ行ってみましょう」
食事を終えて、三人でギルドに行く。
「おい、シンとアリアだ」
「あの素手パーティーか」
「ギルドマスターの一撃を食らっても傷一つ無かった奴らだ。タダ者じゃねえぞ」
冒険者達が遠巻きに俺達を観察してヒソヒソと話し合っている。
「目立ってるわね……」
「昨日の今日だからだろう。気にしても仕方ない。掲示板に行くぞ」
「ええ」
文字は読めないので、ネリーに良さそうな依頼票を探してもらう。彼女は行商の娘で、読み書きもちゃんとできるという。
「あまり稼ぎにはなりませんが、最初はこれが良いと思います」
ネリーが指さした板を掲示板から外してカウンターに持っていく。
受付のお姉さんがそれを受け取って笑顔で頷いた。確か、名前はリリアンさんだったか。
「はい、採取のクエストですね。こういう常時受付の依頼、緑色のは、板をここに持ってこなくても大丈夫ですよ」
「あう、ご、ごめんなさい」
「ああ、叱ったわけじゃないから、気にしないでね。次からでいいですよ」
「それで、何を採ってくればいいんですか?」
大事なことだと思うので聞いておく。
「ちょっと待ってください。ええと、これですね。薬草です」
リリアンが一束の草を見せてくれた。
このギザギザの葉っぱはヨモギかな?
スーツの電源を入れて、形状を記憶させておく。
「ちょっと見せてもらって良いですか」
「どうぞどうぞ。見慣れているとは思いますが、傷薬として重要なものなので、しっかり覚えておいてくださいね」
簡易測定器で分析。キク科の多年草と出た。毒は無し。
ただ、傷に有効という表示は出ない。
「これで傷が治るんですか?」
アリアが半信半疑の様子で聞いた。
「ええ、よく効きますよ。すぐじゃないですけど、止血はこれだけで充分です」
「そうですか……」
ま、民間療法だろうと、需要があるならそれでいいだろう。まずは金を稼いで武器を買わないとだもんな。
ギルドを後にし、薬草を入れる布袋も買った。
リリアンに教えてもらったよく生えている場所、森の側で探してみる。
「あった。この辺は全部そうだぞ」
片眼ゴーグルで探索したが、あるわあるわ、あちこちに葉っぱが照準されて赤く光るので楽勝だ。
「シン、スーツはあまり使わないようにして。話し合ったばかりでしょう」
「これくらいはエネルギーもそんなに使わないって。ま、切っておくけど」
「じゃ、三人で手分けして集めましょう」
「ああ」「はい!」
ヨモギを茎からちぎっては布袋に放り込んでいく。簡単なお仕事だ。
三十分ほど集めていると、腹がグゥと鳴った。
さっき、スープとパンを食べてきたばっかりなんだけどな?
そういえば昨日もかなりの量を食べたんだが……。
「ちょ、ちょっと、シン、何してるの!」
「なにって、ちょっと味見だよ。苦くて、あんまり美味しくないな……」
「薬草なんて、救急キットの薬があるんだから私達には必要ないわ」
「それは分かってるよ」
一時間ほどで三人の袋が満杯になった。
モンスターが出てこないうちに、街に戻ることにする。
本日二話目です。次話は明日朝十時に投稿予定です。




