第十九話 ポイントBZ-5383A
(視点がラザフォード中佐で続きます)
七月二十七日、午前二時四十分。
巡洋艦バーレイコーンが中距離ワープを終え、エールダリア宙域ポイントBZ-5383Aに到着した。
「グラード艦長、昨日の調査報告が来ていないが、どうなっている」
「昨日? オレにとっちゃまだ今日なんだがね、ラザフォード中佐」
ラザフォードは超光速共鳴通信で巡洋艦バーレイコーンのブリッジとリアルタイムで会話している。
両者に一億光年の距離があることを考えればこれだけでも驚異的だ。
ただし、共鳴通信は相手の位置と時間を知っている必要がある。その送信先の時間を間違えるとゴーストノイズとして過去の人間から一方的に通信を受け取ることもあるのだ。
ラザフォード中佐は、これはそのような通信ミスでは無く、グラード艦長の時間の概念がおかしいだけだと判断した。
艦長は軍服を着崩し、酒瓶を手にしている。
これで艦長がよく務まっているものだ。
仕事を真面目にしろと言いたくもなる。
だが、服務規程については同格の階級であるし、ラザフォードは注意する立場に無い。いや、注意してもいいのだがこの男が素直に聞くとは思えないし時間が惜しい。
従ってラザフォードは不快そうな顔をするだけにとどめた。
「では、今、報告してもらおう」
「了解! 今、ご指名の無人観測機を捜索しているが、どこにも見当たらない。代わりに二つ、面白い物を見つけた。いや、面白いなんて言っちゃいけねえな。駆逐艦ブルーハウンドの機関部の破片だ」
「やはり事故か……」
「いいや、そう決めつけるのはどうかと思うぜ?」
「なぜだ?」
「もう一つ見つけた物が、物でな。正体不明の破片だ。電子機器で間違いないが、銀河同盟でも共和連合のもんでもない。オレの見たところ、相当に進んでいる星の兵器だな」
「馬鹿な。小さな独立系が同盟や連合を超える技術力を持っているはずが無い」
「だから、オレらの知ってる独立系とは別なんだろうよ。あるいは、技術が無いフリをしてるとかな」
「では、回収できるものは回収して本星、いや、エールダリア司令部の研究所に回してくれ」
「了解だ。そう言うと思って、今、回収作業をやってるところだ」
「それはいいが、なぜすぐに報告を入れない」
「オレが頼まれたのは無人観測機とブルーハウンドの本体を探すことだぜ?」
「まだ艦がどこかで生きていると?」
「ああ、爆散したにしては残骸の量が少なすぎる。それに、ここが戦場になっていたとして、じゃあ、敵さんはどこからやってきて、どこへ行っちまったんだ?」
「この宙域に敵がいるはずがない。元からな。彼らはどこからもやってきていないし、どこへも行ってはいない。ならば……敵も含めて自作自演だと……? 可能性はあるか」
「ラザフォードさんよ、アンタ、オレになんか隠してるだろう」
「任務に必要な情報はすべて開示しているはずだが?」
「そうじゃねえよ。ブルーハウンドが自分から消えたって言うなら、大問題だろうが。任務放棄、艦の私物化、盗難だぞ? 武装したままで消えてるんだ。下手すりゃ反逆罪だ。となれば艦長の素性や最近の交友関係まで全部ひっくるめて洗い出しが必要になる。そんなこと、いくら参謀本部付きだからと言ってもあんた一人でできることじゃないだろう」
「その通りだ。もちろん、上には今から報告するつもりだ」
「ふーん。その割には落ち着いて考えてたな。それに、自作自演なんて普通は考えつきもしないぞ? オレだって機関部の故障でワープをミスったんじゃないかくらいにしか思っていなかった」
「それだと貴官が見つけた新勢力の破片、この説明が付かないと思うが?」
「まあな。だが、ブルーハウンドがその破片を作ったり用意できるはずもない……ふむ? まさか、どこかの星を巻き込んだ大規模な反乱が計画されているのか?」
この男、切れすぎるな。
少し人選を間違えた。
「グラード艦長、現在の回収作業が終わり次第、帰還してくれ。それで任務終了だ。それと今回の件についてはすべて箝口令が敷かれている。注意して欲しい」
「お断りだ」
「なに?」
「オレの任務はブルーハウンドを見つけ出すことだ。アンタの指図は受けないぜ?」
「まったく。なら、後で指令書がそちらに届く。それを見ろ」
「ラザフォード、本気か? ブルーハウンドは事故で今も救援を待っているかもしれないんだぞ?」
確かに、その可能性も高い。情報漏洩に過敏になりすぎて、アリア=ハーランド准尉を見殺しにしたとなれば、余計に自分の立場が悪くなる、か。
「分かった。捜索は引き続き行ってもらおう。ただし、箝口令はすでに敷かれていることを忘れるな」
「了解だ。おお、分かったか。ちょっと待ってくれ、ラザフォード。通信は絶対に切るなよ?」
グラード艦長に別の人間から通信が入ったようだ。
こちらが部下ならそれでもいいが、同格でしかも別部署だ。ビジネスマナーとしては後でかけ直すのが常識だろうと思ったが、今はマナーより結果とそれが出せる能力だ。目をつむることにする。今日はまた胃薬の量が増えそうだ。
「ラザフォード、喜べ。解析していた破片のデータが取れた。超小型のワープ装置らしい。こいつはスゲえぞ?」
「なに? 何をやっている、グラード艦長! 誰がそれを解析しろと言った!」
「誰も。だが、手がかりは調べるのが当たり前だろう」
「……ふう。解析したデータをこちらに回せ」
「はいよ。つなげてくれ。そうだ」
データが送られてきた。
それを見てラザフォードはゾッとする。
「なにっ? どうして共和連合の規格にハーランド社の新型プロトタイプのマーキングの型番がある?」
「ハーランドって言やあ、銀河同盟シェア100パーセントのワープエンジン大企業様じゃねえか。こりゃえらいもんを見つけちまったな。横流しなのか、スパイされたか……だが、ラザフォード、今はそんなもんはどうだっていい。これを見ろ」
「座標? これがどうした」
「このワープ装置に設定されていた、転送先の座標だ。まだ分からねえのか? ちょいと鈍いな、お前。オレは馬鹿でっかい手がかりをアンタに見せてるんだぜ?」
「そっ、そうか! この先にブルーハウンドが」
「ああ、だが、弱ったな……この座標、通常宇宙じゃねえな」
それはラザフォードにもすぐに分かった。
座標に一部、マイナスがついている。
「虚数空間か……」
追跡しようにも、どこへ通じているか不明の場所だ。
無人探査機を送ったとしても、電波は帰ってこない。
虚数空間ではAIも再起動が必要なため、任務に使えない。
つまり、一か八かで有人探査を行う必要があるのだった。
次話は本日19時に投稿予定です。




