第十六話 いきなりの昇格試験
「バルドだ」
「あれが鉄球使いのバルドか」
「ドワーフだったのか」
「雰囲気がありやがるぜ、畜生」
「あのギルドマスター、ストーンゴーレムを一人で倒したらしいぜ」
「バケもんかよ!」
その場にいた冒険者達が口々に言うが、彼がここの幹部で間違いないだろう。
「ギルド長!」
受付のお姉さんもほっとしたような顔を見せた。
「どうなんだ?」
ギルドマスターが森の主について確認してくる。
「倒しましたが、別に信じてもらわなくてもいいです」
「そうはいかねえな。大物の魔石を何でお前らが持ってるのか、その由来ははっきりさせておかねえとな。盗品じゃ困るだろう」
ギルドマスターが言うが一理ある。
「なら、ファラド村のブライさんか村長にでも確認してください。彼らが証明してくれるはずです」
「いいだろう。至急の指名依頼だ、マックス! お前、ちょっと行って確かめてこい」
「ああ? 面倒くせえな。報酬はいくらだ?」
「百で手を打て」
「けっ、百ゴールドじゃあ、馬車代にもなりゃしねえ。まあいい、オレも眉唾の話だと思うからな。ちょいと確かめてくるぜ」
「じゃ、シンと言ったか、悪いが、確認が取れるまでは売却は待ってもらおう」
往復六日、マックスが急いでくれればもっと早いだろう。
「それで構いません」
「よし、決まりだ。査定は先に済ませてやるから魔石を貸せ」
ギルドの幹部ならおかしなことはしないだろうし、彼に渡す。
「ほお、見事な魔石だな。見ろ、真球だ。こりゃ、よほどの大物だぞ。よく倒せたな?」
「ええ、まあ、死にかけましたよ」
「はは、だろうな! 五万ゴールドだ。それでいいか?」
「ええ、構いません」
相場も分からないし、とにかく金は欲しいので、それでよしとする。
「おお! 金貨五枚とは、また高値が付いたな」
「まったくだ。オレの最高は銀貨三枚だぞ」
「もっと大物を狩りにいけよ」
「無茶言うな、死にに行けってか」
冒険者達の反応を見る限り、悪くない取引のようだ。
「あ、それと、これもお願いできますか」
ダイアウルフの魔石も集めていたので、革袋から出す。
こちらは菱形の魔石だ。大きさは五センチ程度か。
それが二十数個。
「おお? こいつは、ダイアウルフか」
「ええ、そうです」
「随分と数を集めたな。何年かかった?」
「いえ、ここに来る道中だったので、三日……ですが」
「なにっ!」
「ば、馬鹿野郎! ダイアウルフを三日で十匹以上なんて、狩れるわけがねえ!」
「そうだそうだ、ハッタリもいい加減にしろ」
「倒すのは簡単でも、いちいち魔石を取ってる時間なんてねえぞ。次が襲って来るからな!」
「いや、簡単じゃねえって。三匹に囲まれたら死ぬぞ、あれは」
冒険者達がまるで信じていないようで、困ったな。
「じゃあ、今度、誰かが一緒についてきてください。目の前で狩ってみせますよ」
「ちょっと、シン、レーザーはあまり見せられないわよ?」
アリアが注意してきたが、それもそうか。技術を見せるのは前宇宙文明への『干渉』と判断されるかもしれない。
宇宙保護条約があるからなぁ。
「それなら素手かな」
「なに、そこまでしなくても、すぐ分かる方法がある。裏の訓練場に来い。昇格試験をやるぞ!」
ギルドマスターが言った。
「マジかよ。登録初日で昇格試験って聞いたことねえぞ?」
「オレもだ」
「いや、昔、剣術道場の師範がダンジョンに助っ人に行くときにやったことがあるらしいぞ」
ここで断ると余計に疑われそうだし、何より、断れる雰囲気では無い。
言われるまま、裏の訓練場へと向かった。
広さがバスケットコートくらいの平地に、周りをぐるりと石垣が積まれ、ここがギルドの訓練場のようだ。
入り口付近には、大量の武器が並べられている。
「よし、まずはシン、お前からだ。そっちの猫耳のちっこいのはやらなくていいぞ」
カタカタと歯を震わせていたネリーが、それを聞いてほっとした表情を見せた。
ちょっと可哀想なことをしたな。
「それで、どうすれば?」
「なぁに、やることは簡単だ。オレに攻撃を仕掛けてこい」
ギルドマスターは鉄の円形盾と鎖鉄球を拾い上げて持った。
俺はコンバットスーツを戦闘モードに切り替えて身構える。
すると野次馬にやってきていた冒険者が口々に怒鳴った。
「素手だと!」
「馬鹿、死ぬ気か!?」
「シン! お前、ギルドマスターの強さを知らないだろう」
「バルドが直々に試験なんて滅多にねえんだぞ!」
「やかましいぞ! お前ら。こいつは戦士の目だ。身のこなしや肉の付き方も素人じゃねえ。そいつが素手でやるってんだ、やれるだろうよ」
ギルドマスターが言ったが、見る人が見れば分かるもんだな。
「じゃあ、行きます」
「おう、来やがれ!」
それほど遠慮は要らないだろうと判断して、30パーセントの力でダッシュをかける。
「うおっ、はええ」
「地面が窪んだぞ? なんて脚力だ」
冒険者達は驚いたが、ギルドマスターは表情を変えずに身構えている。
まずは、盾を一発、殴ってみるか。
それで様子見だ。
そのまま一直線に駆け込み、盾を殴ろうとしたが、AIの警告が入った。
「警告――」
「ぐはっ!?」
「――急速接近の質量を感知」
AIが警告を言い終わる前に、俺は横から弾き飛ばされ、地面を激しく転がっていた。
境界の石垣にぶつかり、ようやく止まる。
「シン!」
「シン様ッ!」
「おめえ、遊びじゃねえんだぞ? 最初から全力で来い」
な、なんだ今のは。
何も見えなかった。
警戒を自動に切り替え、その間に映像ログを巻き戻したが、俺が盾を殴ろうと間合いに入った瞬間にギルドマスターが鉄球を振るうのが見えた。
こいつ、コンバットスーツを着たアリアよりも素早いじゃないか!
頭を振り振り、立ち上がる。
「オオッ! 立ちやがった!」
「今の一撃で死なねえのか」
「なんだアイツ」
「鎧も兜もつけてねえのに、どんな体をしてんだよ」
口の中に鉄の味がした。これなら遠慮は要らないな。
「AI、フルモードだ」
告げる。
「了解。アドレナリンを注入します」
首筋、両腕、内股に冷たい液体が入ってきたのが感じられた。
一気に体が熱くなり、呼吸が荒くなる。
アドレナリンは生物が戦闘時に使うホルモン物質であり、交感神経を興奮させ、運動器官の血管を拡張し、血流を増やす効果がある。一方で消化器官など、戦闘に使わない部位の運動機能は低下する。
興奮状態で、体の痛みがまったく気にならなくなった。
スーツも常時ヘルメット状になり、両眼スコープでギルドマスターに照準をロック。
俺はその場で両手を突き、クラウチングスタートの構えを取る。
腰を浮かせ、両足の筋肉を爆発させる勢いで地面を蹴り上げる。
十五メートルの距離があったが、コンマ二秒で間合いに入った。
時速にしておよそ300キロ。
人間は無意識に体を保護して100パーセントの力を出していない。
だが、特別な訓練とアドレナリンさえあれば――70パーセントまでは余裕で出せる!
「むっ!」
ギルドマスターもさすがにこれは驚いてくれたらしい。
だが、視線はこちらを追っていてしっかりと見えている。
ここはもう一工夫必要だ。
「モーションロード! 閃光蛇蹴!」
コンバットスーツにあらかじめ記憶させていた行動パターンを再現。
最初に左フックを繰り出し、わざと空振りさせ、そのまま体をひねって右足の後ろ回し蹴りへとつなげる連続技。
こうすると、俺の左腕に視線と意識が集中するから、良いフェイントになる。
大尉に特訓してもらい、習得した大技である。
もっとも、アリアには一度も通用しなかったが。
釈明しておくが、この中二病臭いネーミングはもちろん、大尉の命名で強制だ。
断じて俺が名付けたわけでは無い。
動作の呼び出しは声に出さないといけないので、なるべくなら使いたくない技だ。
スーツのかかとが硬化して盾とぶつかり、激しい金属音を発した。
防がれたか。
なら、もう一度。
着地して身構えたが、そこでギルドマスターが言った。
「よし、そのくらいでいい。お前のランクはCだ」
次話は明日19時投稿予定です。




