第十二話 見えない星
宇宙船の手がかりを求め、ファラド村を出発した俺達は、南にあるという街カンデラを目指していた。
だが、すでに戦闘になっている。
「くっ、こいつら素早いな!」
レーザーライフルを向ける前に飛びかかってくる狼に照準を合わせきれない。
コンバットスーツが瞬時に硬化して狼の牙を防いでくれているから無傷でいられるが、囲まれて何匹も飛びかかってこられると鬱陶しい。
「レーザーで同士討ちにならないよう、気をつけて! コンバットスーツの敵味方識別装置を使うのよ」
アリアが注意を促してくるが、スーツの一部である片眼スコープの照準補助システムを使っていれば大丈夫。
これだと味方に銃を向けてもロックがかかってレーザーは発射できない仕組みだ。レーザーライフルも赤外線信号でリンクしているので問題無い。
「分かってるさ。だが、接近戦だと、銃より蹴りの方が命中率がいいな」
「そうね。どう? 格闘戦闘の重要性、あなたも考え方が変わったんじゃない? シン」
「ああ認めるよ。格闘訓練は重要だッ!」
答えつつ、向かってきた狼を思い切り蹴り上げる。
キャウンと悲鳴を上げた狼は地面に転がると動かなくなった。
「ふう、片が付いたか」
飛びかかってくる狼が周りにいなくなり、加勢に入ろうかとアリアの方を見たが、彼女もほぼ同時に終わらせていた。
「じゃ、魔石を取っておきましょう」
「ああ。軍資金は多い方がいいだろうしな」
村を出発するときにブライに挨拶してから出てきたが、彼がこの辺りにはダイアウルフという魔物が多く出ると教えてくれた。その魔石も『森の主』ほどではないが、良い金になるという。
ただし、上手く倒せれば、の話だが。
狼は血の匂いに惹かれて集まってくるので、解体中に別の新たな狼の群れに襲われることも有り、腕に覚えの無い村人は倒すだけで魔石は諦めるという。
「ああもう、汚れちゃった。服を早めに脱いでおいて正解だったわね」
アリアがコンバットスーツの腕に血が付いたのを嫌がって言った。
ブライから現地服をもらっているが、あれを着たままだと汚れてしまうし、狼に破かれてしまう。
「だが、ちょっと破れたからな。街に着いたら、新しい服を買わないと」
「服は買いたいけど、あれくらいなら手直しできるわよ。裁縫セットもどこかで売っているはずだから」
「やろうと思えばできるだろうけど、俺はそんなに器用な方じゃ無いから、不格好な縫い目になりそうだ」
「ふふ、それくらい、私がやってあげるわ。刺繍が趣味だったから、それは任せて」
「へえ、じゃあ、お言葉に甘えるとするかな」
「ただし、一つ貸しよ」
「ええ? やれやれ……分かったよ」
魔石をブライにもらった革袋に収め、さらに歩みを進めたが、西の空が茜色に染まり始めた。
「なあ、アリア、そろそろ野営の場所を決めないか?」
「うーん、そうね、できれば街に早く着きたいんだけど、仕方ないか」
その辺の落ちている枯れ木を集め、焚き火をたく。火をたいていれば魔物もあまり寄ってこないと、これもブライに教えてもらっている。風に消されたりしないよう、周りには大きめの石を囲むように組み、その近くにテントも二つ張る。
「はい、イノシシ肉。あなたにあげるわ」
「俺も要らないんだけどなあ」
村を出るときに肉の塊を村人達からこれでもかと押しつけられてしまい、彼らは善意だったのだろうが、獣肉が苦手な俺達にとっては荷物になるだけだ。食べ物を捨てるのだけは両親から厳しく躾られてしまっているので、俺も捨てるに捨てられない。アリアもそこは同じようだった。
単分子高周波ブレードで極薄に切り、そのまま手に持って焚き火で炙ってみる。コンバットスーツは耐熱設計になっているのでこんな芸当が可能だ。しかし、肉からは香ばしい匂いと獣の臭みが入り交じり、食欲は刺激されているのだがなんとも微妙だ。
アリアは?とそちらを見ると、彼女は宇宙非常食の袋を破り、乳白色の美味しそうな固形物に小さな口でかじりついていた。ジト目の俺と目が合うと、ごめんね、とばかりに彼女が苦笑する。
意を決して肉を飲み込み、後は俺も非常食に頼ることにする。
「でも、いくら完全栄養食だと言っても、普通にトレーの食事を食べたいわね」
「同感だ」
食事は人類に与えられた幸福である。
獣はただ食べるだけだが、人は料理して文化を楽しむことができる。
そう思うと、余計に軍の配給食やファラド村でご馳走になった料理が恋しくなった。
固形食一つの食事はあっという間に終わってしまい、手持ち無沙汰になった俺達は、ただ燃える焚き火を見つめて時間を潰した。パチパチと音を立てて燃える焚き火に、新しい木をくべていると、色々なことが頭に思い浮かんでくる。
駆逐艦ブルーハウンドで同期だった兵士たちの笑顔。彼らがその後、どうなってしまったのか、安否を知る手立ては俺達に無い。中でも士官学校で一緒だった士官候補生とは、二年間ずっと寮で一緒だった。
「ステラ達は、どうしてるかしら……」
アリアがつぶやいたが、彼女も士官候補生の親友のことを考えていたようだ。
「そういえば、ステラ=ラジアンは俺達とは配属先が違ってたみたいだな」
アリアと仲が良かった赤毛の女の子の顔を思い出す。駆逐艦の中では見かけなかった。
「ええ、あの子はファジスの地上勤務になったわ」
「王都の? そこってエリートコースだって誰かから聞いたけど」
「いいえ、本星司令部付きならね。彼女は防衛基地、地方勤務よ。お兄様に聞いたけれど、本星司令部付きになるにしても、まず艦隊勤務を経てかららしいわ」
「ふーん」
アリアには兄弟がいたのか。知らなかった。
「ここの星って凄く綺麗ね」
空の星を見上げたアリアが言う。
「大気の無い宇宙の方が輝度も高いはずなのに、どうしてだろうな」
「それはきっと、見えすぎても色あせるって事じゃ無いかしら?」
「ふむ。見えないロマンか」
「ぷっ」
「なんでそこで吹き出すんだ!」
ちょっと恥ずかしくなった。言わなきゃ良かった。
「ごめんなさい、ふふっ、あなたがそんなロマンチストだとは思わなくて」
「そこまでのことを言ったつもりは無いぞ」
「別にけなしたわけじゃないんだけど。さてと、日誌があるから私は先に休ませてもらうわね」
もう少しアリアと話していたかったが、今も任務中だったな。
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
宇宙に戻る手段はまったく見つかっていないが、希望は捨てずにいよう。
この星に不時着したときはもうダメかと思ったが、今はそんな気分になれた。




