第十一話 銃口を向けられる隊長
「起きなさい、シン=クラド准尉」
頭を固い物で小突かれた。
「ううん、もう少し寝かせてくれ……あと五分」
「起きないのなら、頭に風穴が空くことになるわよ」
「ええ?」
何を言ってるんだと目を開けたら、アリアが俺にレーザーライフルを向けていた。
彼女は戦闘服の上から布ズボンを穿き、上着も身につけていた。
ここの村人の服だな。
彼女が何をしたいかはもう俺も分かってはいるのだが、念のため、目的を問うことにする。
「おい……これは何の真似だ」
「昨日の夜、あなたが見聞きしたことは記憶から抹消してもらおうと思って」
「それかぁ……分かってる、誰にも言わないし、勘違いもしてないぞ」
酔っ払ったアリアが凄かったが、誰かに言いたいようなことでも無い。
「だといいけど、あなたさっき、寝言で凄いことを口走ってたわよ」
「ええ? な、何を?」
「教えない」
「えええ……?」
「それと任務に無関係の映像ログを消去してもらうわよ」
「それはいいが、二人とも記録が残っていなかったら、後で怪しまれないか?」
「私が口頭で航海記録をまとめているから問題無いわ、隊長さん」
「脱出艇がもう無くなってるのに、真面目だなぁ」
「規則だもの。あなた、自分が軍人であることを忘れているんじゃないでしょうね?」
「覚えてるよ。ただ、映像ログも自動記録されているし、必要性は……まあいい、君の名誉を守るため、昨日の宴会の映像記録は消しておく。イノシシは残しておくが、構わないな?」
「ええ、それは消したらダメな部類でしょ」
アリアもそこはわきまえているようなので軍規としても問題無いと判断し、左腕のパネルを操作して消去する。
「見せて」
「ほら、ちゃんと消したぞ?」
「ありがとう。じゃ、今日の私たちの予定だけど、宇宙船に関する情報を村人から聴取、正午にこのテントに集合でどうかしら?」
「ああ、それでいいぞ。了解だ」
「それと、今更だけど目立たないよう、あなたもこの服を着ておいて」
「了解。君はよく似合ってるな」
「なっ……あ、ありがとう」
少し頬を赤くして、ブツブツと不満げに何かをつぶやいたアリアはテントを出て行った。
仲良くやりたいんだが、今の、余計な事を言ったかね?
まあいいや。
士官学校で叩き込まれた慣習としてテントの中の装備を確認したが、何も減っていない。
アリアのリュックもここにあるし、彼女は非常食やペットボトル水には手を付けていない様子だ。
やはり今後に備えて、保存が利く食料は温存するつもりのようだ。
昨日、あれだけ食べたし、腹も減っていないけど。
「さて、銃はさすがに要らないかな」
このテントは村のすぐ側に設置してあるので、いざとなればここに取りに来れば良い。
村人の話では森の主のような化け物はもういないようだし、彼ら自身も強かったのでこの村にいる限りは魔物と呼ばれる危険生物に襲われる可能性も低いだろう。
「AI、ブライさんの家までのマップを出してくれ」
話を聞くにしても、俺はどちらかというと人見知りだから、話しやすそうな人が良い。
ブライ一家なら命の恩人だとしきりに感謝してくれたし、こちらが秘密にしてくれと頼めば、言うことを聞いてくれるだろう。
赤外線熱分布画像で在宅中かどうかを確認したが、母親は出かけているようだった。
ま、ブライとルクスがいれば充分だ。
「おはようございます」
「おお、クラドさん、おはようございます。ささ、どうぞ」
「どうも。お邪魔します。ちょっと話を聞きたいのですが、今、構いませんか」
「ええ、何なりと聞いて下さい。ヌシの肉があれだけ手に入ったので、狩人の私は当分ヒマですよ」
ブライが笑うが、肉を取り過ぎても腐らせるだけか。ちょっと羨ましい。
「そうですか」
「それで、何を?」
「宇宙船……と言ってもあなたに通じるかどうか分かりませんが、私とアリア……ハーランドは空を飛ぶ乗り物を探しています」
「×××××ですか?」
「えっ!? あるんですか?」
翻訳には失敗しているが、何か空を飛ぶ乗り物があるようだ。
ちょっと衝撃。
「いえ、この村にはありませんよ。ただ、ずっと南の国に×××××がいると行商の人から聞いたことがあります」
「いる? いや、あのう……空を飛ぶ乗り物ですよ?」
「ええ、飛びますよ、空を」
「鳥じゃなくて、人間が乗れるんですよ?」
「乗れます」
微妙に話がかみ合っていない気もするが、ここは詳しく調査すべきだな。
「そこを詳しく」
ブライとルクスの話を総合すると、この世界には、空飛ぶ大型の生き物がいるそうで、それを飼い慣らしているらしい。
残念ながら、生物では大気圏脱出は難しそうだ。
俺は便宜上、それを『ワイバーン』と名付けることにした。
「これ以上のことは、村長か、ババ様の方がよく知っているはずです。二人を呼んできましょう」
「ああいやいや、こちらから出向きますから」
「そうですか。村長の家は向こう、ババ様の家は村の一番奥です」
「どうも。じゃあ、さっそく、行ってきます」
ババ様の家に向かっていると、ちょうどそこからアリアが出てきた。
「アリア!」
「そっちは何か、分かった?」
「いや。だが、飛竜みたいなのがいて、乗り物にしてるらしい」
「ええ、私もさっきそれを聞いたわ。でも、街に行かないと、ここじゃ詳しい情報が入らないみたい」
「じゃあ、そっちに行ってみるか」
「ええ。それと……」
アリアが俺をじっと見て押し黙る。
「何だよ?」
「私の呼び名についてのことだけど」
「ああっ、ごめん」
さっき、下の名前で呼んでしまったな。
「いいえ、一晩一緒に過ごして恋人気取りということでなければ、あくまで同僚としてなら、そちらで呼んでもらうよう、私から頼むつもりでいたのよ。この地域では、一般人は家の名前は無いそうだから、貴族と間違われてしまって」
「ああ、なるほどな。じゃあ、アリア……さん?」
「別に呼び捨てで良いわ。年上でも上官でも無いんだし。ただし、こちらも、シンと呼ぶわね」
「ああ、分かった」
同じ部隊の隊員や、親しい間柄だと下の名前で呼び合うのは軍でも珍しくないからな。
そうとも、おかしな勘違いはしないでおこう。
これからアリアを呼ぶのが楽しみになってしまったけれど。
「それと、もう一つ、私達にはすぐにでも考えないといけない差し迫った問題があるの」
「え? 何だ?」
「通貨よ。私たちはここのお金を持っていないでしょう」
「そうだったな。食料を現地調達するにしても、追い剥ぎ泥棒ではまずいだろうからなあ」
「当然でしょう! 略奪は重大な軍規違反よ。それでなくたって普通に犯罪だわ」
「じゃあ、ブライさん達に、薬をいくつか買ってもらったらどうだろう?」
「ダメよ。この村の人たちは物々交換が基本で、お金もあまり持ち合わせが無いし、薬は高価らしいから、きっと無理をさせてしまうでしょう。見ての通り、裕福とは言えない村なんだから」
「そうだったな。君の言うとおりだ」
ブライもそんなことを言っていたのに、俺も抜けてるな。反省しないと。
「ババ様の話では、あなたのもらった魔石が街で高く売れるそうだから、それに期待しましょう。一年は二人で遊んで暮らせる金が手に入るだろうって話よ」
「そんなにか。ブライさんたちに、なんだか悪いなぁ」
「ルクスを助けて魔物を退治してあげたんだから、それでよしとしましょう。私たちはボランティアじゃなくて、任務中の兵士だというのを忘れないで」
「そうだった。じゃ、すぐにでも出発だ」
「ええ、行きましょう」
本日二話目です。次話は明日11時の予定です。




