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隊長、魔法が使えるのにワープ装置が作れません!  作者: まさな
第一章 軍人のなすべきこと
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第一話 二人の士官候補生

某作品を読んでSF冒険熱がどうしようもなく高まりました。

「猿の惑星」「翠星のガルガンティア」「航宙軍士官、冒険者になる」が大好きです!

早く続きが読みたい……!


この作品は、作者のそんな熱い思いに理解が有り、なおかつ、劣化やオリジナリティや遅筆をあまり気にしない、そんな心の広い人向けです。

 

一日一話三千~四千字くらいのペースで行こう……と思ったのは遙かに遠いいにしえの話。

ストックとアイディアはとうに尽き果て、今は月刊ペースです。

20万字くらい(おそらくラノベ一冊分)の分量がありますが、早い人だと一日で読めちゃうかな?


それではよろしくお願いします。

 宇宙標準歴660年――

 人類は長きにわたる夢を実現し、ついに超光速移動(ワープ)装置を手に入れた。しかし、彼らの飽くなき欲望はとどまるところを知らなかった。ゆえに開拓惑星は果てしなく無数に増え続け、人類はいつしか数えることをやめ、自分たちが征服した星の場所すら忘れていった。


「そんな時代、人類がワープで銀河を行き来するこの時代に、素手の格闘訓練だなんて……いったい、どんな状況を想定してるんだ……?」


 俺は口元から流れる血を拭い、吐き捨てるようにつぶやいた。

 鉄の味がする。

 痛いのは嫌だし、自慢じゃ無いが格闘評価は最低のFランク。

 この成績で士官学校を無事に卒業できたのは「よほどの悪知恵をつかったか、現代の奇跡に違いない」などと同期の連中にはやっかみを言われる始末。

 

「そんなの、宇宙船内に敵性勢力やテロリストが侵入し、レーザー銃が使えない場合に役に立つと思うけど。実際、過去に何度か起きてるわ。シミュレーターでその状況を訓練したでしょ?」


 俺の二メートル手前に立つと、微塵(みじん)の隙も無く戦闘態勢の構えをこちらに向けて取る少女、アリア=ハーランド准尉はややあきれた口調でそう言った。

 

 その涼しげな空色の瞳に、優雅さがあふれる白銀の長髪。何もかもが完璧に整った顔立ち。

 美的感覚には個人差があると言うが、彼女こそ百人中百人が美少女と断言するであろう人類の奇跡だ。


 彼女も今日は格闘訓練とあってか、普段はツインテールに結ぶ髪を今日はポニーテールに変えている。それが俺はちょっと気になってしまう。断じて見とれているわけではない。どの髪型も似合うな、いつも可愛いなとは思うけれど。


 そんな彼女と部屋で二人きりなら、喜ばない男はいないはずだが、この訓練室となると話は別だ。

 殺風景な灰色の壁に四方を囲まれ、ロマンスが生まれる可能性など、逆立ちしたってどこにも見当たらない場所なのだから。

 

「俺はそんなことを言ってるんじゃない。艦内の設備やロボットが何のためにあるかってことを言ってるんだ」


「ロボットだって近くにいないときもあるし、マザーコンピュータを乗っ取られたら同じ事でしょう。今、このときだって訓練室(ここ)にロボットはいないわ。砲台も」


 即座に言い返され、俺は反駁(はんばく)の言葉に行き詰まってしまった。

 成績オールSランクと噂される超絶優等生のアリアに議論をふっかけたのがそもそもの間違いだと気づいたが、もう手遅れである。

 

 だがしかし、これでも俺は日本男児の末裔だ。

 一方的に殴り蹴るでホイホイ投げられ凶悪な極め技までかけられて、そのままやられっぱなしで終わりたくは無い。

 この生意気な小娘に一矢報いねば。

 小娘と言っても、歳は十七で俺と同じなんだけど。

 

「ああ、そうかよ」

 

 とにかく、もう遠慮は無しだ! すべて解禁だ! 後で上官や同僚に何を言われようが、その可愛い顔を本気で殴ってやんよ!

 男女平等、万歳!


「開始!」


 俺の合図で空中立体ホログラムのカウントダウンが始まった。


 互いに相手に全神経を集中し、じっとにらみ合う。

 カウントゼロになった瞬間、二人とも跳躍し一気に距離を詰めた。

 双方が繰り出す正拳と、回し蹴りが激しく交差する。


 結果――

 

 俺すら想像していなかったが、アリアの回し蹴りは空を切った。

 さらに俺は、仰向けに倒れた彼女の腹の上にまたがり、マウントポジションを取ることに成功していた。

 

 だが、今の揺れは何だ?

 

「どうしたの? 私はまだ、降参していないわよ」


 俺の下になったアリアが、不敵な笑みを浮かべそんな強がりを言う。


「こんな時に……君だって今の揺れに気を取られただろう。まあいい、そんなに小綺麗な顔に一発もらいたいのなら、望みどおりにくれてやる!」


 俺が拳を握りしめ振り下ろそうとした刹那、再び艦内が大きく傾いた。

 周囲に気を取られた、ほんのわずかな俺の時間――

 その隙を見逃さずアリアは俺に強烈な膝蹴りを食らわせてきた。

 

「いって!」


 堪らず背中を押さえて俺は悲鳴を上げる。

 訓練とは言え、二人とも戦闘用全身補助(コンバット)動力装置(スーツ)を着ているのだ。その威力たるや、およそ2トン――時速六十キロのオートモービルを真正面から潰して止められるほどの威力である。


 手加減無しの本気で蹴るとは、鬼か、この女。

 

 もちろん、コンバットスーツは防御面においても様々な考慮がなされており、『絶対死なない超人グラハム』――彫刻家パトリシア=ペッシニーニが生み出した奇々怪々なボディに頼ることなく2トンの衝撃を骨折しない(・・・・・)程度には(・・・・)和らげてくれている。

 

 そのありがたいスーツも一点だけ、問題がある。

 いや、問題とされるような不具合ではないのだが、このスーツは見ての通り顔を防護していない。

 

 むき出しの顔の部分には俺も不安を覚えてしまうのだが、近づく物体や衝撃をスーツが察知した場合、ほんのマイクロ秒で形状変化し、顔も覆って防御してくれるようになっている。これは視界を確保するための機構らしい。

 あるいは、上官が小憎らしい部下の顔を覚えていられるようにという配慮だろうか?

 ちなみに光速で命中するレーザーにはスーツも最初から役立たないそうで、万能とはいかないようだ。

 

()めてくれてありがたいけど、今のあなたの発言、倫理委員会が聞いたらセクハラで(とが)められるわよ? 会話も独り言もこの戦闘服を着ている間はログを取られてる事に気をつけて」


 アリアが細かい忠告してくれた。


「これでも気をつけて発言してるつもりだよ」


 今更なので俺は肩をすくめて言い返す。


「ふう、フォローのしがいが無い人ね。それより……艦内放送無しでなんて、重力場装置に異常が出たみたい」


 立ち上がったアリアが、浮遊しながら周りを見て言う。

 背中を蹴られる直前に重力が消えたのには俺も気づいていた。訓練室を見回したが、空中ホログラムにはしっかりと「敗北 シン=クラド 評価:F」と表示されていた。


「ああ、訓練は中止だな」


 地獄の時間から解放されたのだ、正直ほっとしながら俺は言った。

 

 だが、艦内の揺れは収まらない。

 いくら重力場装置の異常だとしても、この揺れ方はおかしかった。

 

 まるで、敵ミサイルの攻撃を連続で受けているような――

 

 だが、その考えを俺はすぐに否定する。

  

 俺たちが乗っているこの駆逐艦ブルーハウンドは現在、安全な後方区域で同盟国との演習に向かっている最中だ。

 士官学校を卒業して間もない俺たちが、最前線に回されるはずも無い。

 伝え聞いた話だと、この演習は真の最終試験であり、成績が悪いと士官を落とされるというが……

 ま、士官になれなくとも、いきなり軍隊をほっぽり出されることはあるまい。 



司令室(ブリッジ)、こちらアリア=ハーランド准尉、訓練室で重力場の異常を観測しました」


「まめだな、お前……」


 誰かがとっくに報告しているだろうし、ブリッジだって重力場の異常は計器で察知しているだろうから報告の必要性はかなり薄いにもかかわらず、スーツの無線で報告するアリア。俺は(なか)ば感心しつつもあきれた。


「規則だもの。それに、詳しい状況を教えてもらえるかも」


 そう言ったアリアだが、応答は無い。

 いや、通信はつながっている。遠くで怒鳴り声と警報が鳴り響き、ブリッジが大混乱に陥っているのは共通スピーカーモードから漏れ聞こえてきた。

 

「こちら艦長、全員そのままで聞け」


 ようやく艦内アナウンスが入ったが、戦闘配置を現す赤色灯に切り替わったので、抜き打ち演習は勘弁してくれ!と俺は叫びたくなる。

 

「現在、我が艦はブルータス共和軍とおぼしき相手からの奇襲を受けている。敵がどうやってこの区域まで入り込んだかは不明だが、敵(I)(F)(F)号に応答は無い。敵艦多数を確認。よって、直ちに総員、戦闘配置につけ! なお、これは訓練でも演習でも無い。繰り返す、これは訓練でも演習でもない」


 思わず、俺とアリアは顔を見合わせた。

 なにせ二人とも、実戦経験はこれが初めてである。

 

「縦深突撃を許したか……ブリッジに行かないと」


 所属と配属は同じなので、俺は彼女に言った。一秒でも遅れれば、大尉殿のキツい罵声と腕立て腹筋セットが待っているのだ。

 

「そ、そうね」


「ふうん、君でも焦ることがあるんだな」


「私だって人間よ。実戦なんて初めてなんだし。それより、あなたは妙に落ち着いているわね」


「ああ、あれだな、さっき気分的に死にかけて、緊張しすぎて一周すると、悟りが開けるんだろうよ」


「悟りって……分かるようでさっぱり分からないわ」


 今度は彼女が肩をすくめる番だった。


「気にしなくていい。行こう」


 俺とアリアは、訓練室の自動ハッチをくぐり、D区画通路をブリッジへと急いで飛び出した。

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