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アイトワラス  作者: 無名サツカ
決戦
25/30

決戦(8)

 ソニーを拘束していた絞め殺し木が力を失い始め、ツルの先から徐々に枯死してきていた。

 ソニーの腕の鋭さが増す。


 リカルド達3人は作戦を練り、配置に着こうとしたとき、ジョルノは音も無く現れた。


 直前まで気づかなかった3人は驚いて固まった。それほどまでに完璧に気配を感じなかった。

 もしも、暗殺が目的なら少なくとも一人は死んでいた。それを理解したのだ。

 3人を無視してジョルノが言った。

「またお前達か、それにダリルかお前もか……息子を解放しろ……」

 ソニーが叫びをあげた。

「ジョルノ!!邪魔をするな!それは俺の物だ!!」

「グリッチャー、私の事はお父さんと呼びなさい。それに殺しはしない。退いてもらえるようにお願いするだけだ……」

「ジョルノ!!ふざけるなよ!殺してやるぞ!」

「何度も失敗してるじゃ無いか??……それと、いい加減に思い出しなさい。お前はグリッチャーだぞ?グリッチャーはそんな事しない」

 ジョルノの言葉の直後にソニーの両腕が雨のように飛び交う。

 ジョルノはそれを一歩もしくは半歩動き、最小限で全て躱してため息をついた。


 リカルドは一撃一撃が必殺となり得る親子喧嘩を見て平静を取り戻した。

「ソフィ!ダリル!まずは人間の方、ジョルノを倒す!」

「わかった!」

「了解!」

 リカルドの中でジョルノはソニー殺害を邪魔する者、つまり殺す対象だった。

 3人は散開して待ち構えた。

 ジョルノはソニーの攻撃を避け、息一つ乱れずにゆっくりと近づき、槍を抜いてソニーの射程範囲から抜けた。

 ジョルノの動きからして実力の差は明らかだった。


 ダリルは説得を試みる

「ジョルノさん、アレはグリッチャーではありませんよ……人を食う化け物だ……」

「ダリルお前まで、そんなことを言うのか?……」

「あいつが人を食うところ見たことありますか?」

「当然だ……」

「なら何故ですか!?何故その化け物をグリッチャーと呼ぶのですか!」

「グリッチャーだからだ!」

「グリッチャーは死にました!あのとき!戦火に巻き込まれ、建物の下敷きになった!!」

「生まれ変わったのさ……」

「人は生まれ変わらない!!死んだらそれで終わりだ!」

 ダリルの言葉に元教師であり、転生を信じているソフィアが無意識に口を挟もうとするが、リカルドがそれを止める。


 ジョルノが言った。

「お前は知らないのだ……あの日何故街に火があったか……敵国は帝国を奪おうとしたのだぞ?苦労して城壁を越えたのにあっさりと火をつけると思うのか?おまけに住人の避難すら間に合わない程に早く……」

 ダリルは無言で考え、ジョルノが先に答えを言った。

「あの時、火を付けたのは帝国の方だ」

 ダリルは驚かなかった。その事を想定しなかった訳ではない、状況的にあり得る可能性の一つだったからだ。

「何故わかるのですか、証拠はないはずです」

「あの戦闘の後の軍法会議で本人の口から聞いたのだ……火を付けたのはゲラムの館の執事だ……敵兵ごと焼き殺すためと敵軍の指揮を下げ、帝国の存続のためだとな……」

 ダリルは黙って聞いた。


「しかしな、許せないのはゲラムだ!執事の行動は英断と呼べるかも知れない、だが独断でするべき判断ではなかった!火を付けた事で死刑かもしくは終身刑となるべきだったのだ、何万人も死んで、何万人も路頭に迷ったのだから!!それをあのゲラムが賄賂を使ってほんのわずかな額の罰金刑にしたのだ!!」

 ジョルノは落ち着きを取り戻して続けた。

「だから復讐のため執事とゲラムの殺害を誓い、兵士を辞め、ゲラムの館の近くでその時を待った……しかし出来なかった。何百人も何千人も殺してきた俺が、命令無しでは憎き相手一人を殺す事が出来なかった。だけど復讐の念は消えない、ズルズルと浮浪者として生活した」

 絞め殺しの木はソニーの腕の半分に自由を与えていた。


「そんなときに現れたのが、グリッチャーだ……生前とそっくりだったよ、初めはそっくりの他人だと思ったが、グリッチャーに叱られているような気がしてな、グリッチャーの形見の服を手放し、冒険者として再起する事にした。その途中に聞いたのが、執事殺しだ。そのときに全てが繋がった。あれは生まれ変わったグリッチャーだとやっと理解した。不甲斐ない父を見て、自ら復讐を遂げる為にこの世に舞い戻ったのだとね。どうだ?これが偶然か?あり得るか?グリッチャーの転生じゃないのならなんだ?……答えろ!ダリル!!」

「……そうさ……ただの偶然ですよ!誰より優しいグリッチャーが人を食うはず無いですよ!!」

「くだらん!お前だって豚を食うだろ、牛も、鳥も、魚も、人が人を食ったところで何もおかしく無い!あれはグリッチャーだ!」

 ソニーの腕の3分の2が自由になっていた。

 リカルドが言った。

「ダリル、もう無駄だ、こいつは狂っている、覚悟を決めろ!」

 殺す覚悟と言わなかったのはダリルへの優しさだった。

 ダリルは涙を一粒流して言った。

「わかった、ジョルノさん……すいません……」


 三人は攻撃を仕掛けた。

 リカルドは達人と呼べる領域の剣速と俊敏な動きで斬りかかり、ダリルが右手の剣と左手のナイフでその隙を埋める。

 抜群のタイミングと精度でソフィアの矢がジョルノの反撃を防ぐ。

 3人はほとんど完璧な連携を見せた。

 100年を超える付き合いを持つ二人のエルフの連携は言わずもがな、特筆すべきはダリルだった。

 数回しかしていない打ち合わせで、二人に完璧に合わせて見せたのだ。

 ダリルの千を優に超える部下との訓練によって培った技術だった。


 ジョルノは避け、受け流し、防御、全ての技術を使ってもその連携を崩す事は出来ず、一歩また一歩と下がった。


 ジョルノの目の奥が殺意に染まる様子をリカルドは見逃さなかった。

「なるほど、これはグリッチャーにはまだ早いかも知れない……」

 ジョルノの言葉には明確な殺意が込められていた。

 少しずつ下がり、ソニーの腕による攻撃範囲に近づいたがジョルノはコツを掴み始めている様子だった。

 ジョルノをソニーの間合いまで後一歩のところまで後退させ、剣と槍の金属で出来た太刀打ちの部分を合わせて押し合いの様相を見せたダリルとジョルノだが、左横からリカルドが刀を縦に一閃する。

 ジョルノはダリルの剣を流しながら右横に避ける。

 リカルドは「後一歩なのに」と小さな悪態を吐く。


 ジョルノは反撃に出ようと足を止めたところで、ソフィアの放つ矢が飛ぶ、絶妙でいやらしい矢がさらに1歩下がらせ、リズムを狂わせる……


 次の矢が来る少し時間がかかる。

 矢を作るのに2秒、構えて放ち、到達するのにさらに2秒かかる。

 4秒は矢が来ない。


 リカルドは再度飛びかかるような斬撃を加えるが、ジョルノが前のめりになってそれを避ける。

 横を抜けて振り返りざまに突かれる槍をダリルの攻撃がさせない。

 ダリルは剣を斜めに振り下ろし、ワンテンポ外してナイフを横から斬り払おうとしていた。

 リカルドはすでに斬りかかろうと振り返っている、連携に隙は無い。


 ジョルノがダリルの剣を槍で逸らし、薙ぎ払われるナイフを避けながら槍を半分に両断させていた。

 リカルドに持ち手の方を投げ、穂の方をダリルに投げる。

 リカルドとダリルは素早く反応して斬り飛ばし、リズムが狂った。

 ジョルノも並みでは無い。

 ジョルノは3本のナイフの2本を取り出し、リカルドに向かって低い姿勢で突進した。


 リカルドの感覚だとソフィアの矢が到達するまであと1秒ある。


 リカルドは大きく退いた。

 判断も悪くないはずだが、もう遅い、まだ矢は放たれた直後の時間だ。このままでは、攻撃を避けきれない。

 リカルドは死を覚悟した……


 リカルドが聞いたのは矢の風切り音だった。

 かなり近くにある。

 その速さから矢筒にある特別製の矢を抜いて放った事が予想出来た。

 リカルドは目をソフィアの方向に向けた。


 黒の矢、成長速度が早いネズミモチの枝から作られた矢、ソフィアの最大最強の突破力を持つそれはすでに丸太のような大きさに成長し、ジョルノのすぐそばまで迫っていた。


 ジョルノが無理矢理に体を捻って避けるが、さらに太くなる丸太に鎧がかすり、少し吹き飛ばされた。


 リカルドはソフィアに目配せし、感謝した。

 ソフィアはどうだ!とばかりに目を見開いて微笑んだ。


 ジョルノは回転しながら受け身をとって素早く立ち上がるが、ソニーの攻撃の間合いに入っていた。

 ソニーの拘束はほとんど解け、攻撃はより激しくなっている。

 ジョルノは息を切らして鞭のような攻撃を避け、あるいは受け流し、ソフィアの矢を斬り飛ばし、三人の元へ戻った。


 仕切り直しとはいかない、槍は手元に

 無い、あるのは剣とナイフ3本。

 そして何より、3人が河原を抜け森に入ろうとしていた。


 ソニーは怒っている。

 完全に拘束が解けて4対1となれば、きついかも知れない。

 ジョルノは間違いなく、罠だと見える

 3人についていくしか無かった。


 リカルド達の策は森に誘い込む事だった。

 ソフィアの水の魔法はソニーには効果が薄く、ジョルノ相手では魔法の発動に集中する暇は無い。

 ならば川で戦うのは優位性が無いと判断したからだった。

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