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アイトワラス  作者: 無名サツカ
決戦
21/30

決戦(4)

 リカルドとソフィアはグラゾール帝国の観光ですぐに金が尽き、化け物の「捕獲」で金貨10枚と言う依頼に飛びついた。森に着き川に向かって歩くと、今にも殺されそうな兵士と、殺そうとする鎧を着た男を見つけ、助けたのだった。


 助けられた兵士は礼を言う。

「ありがとう、俺はレオナルドだ、助けたついでに協力してくれ!化け物を魔法で地面の中に閉じ込めてる、しかしこの男が邪魔をする!完全に化け物の身動きを止めるには魔力が足りない!魔力を回復する時間が欲しい!……この男を殺さなければならない!!」


 兵士の格好をしていたためソフィアが矢を射って助けたが、このレオナルドと名乗るこの男が実は悪、冒険者の化け物退治の手柄を奪う兵士等では無い事を確認しなければならない。

 リカルドはレオナルドの言葉の内少なくとも化け物が地面に居ることは嘘では無いと判断した。

 森の中で真価を発揮するエルフの超人的な五感が、地面の下で蠢く獣と人間をごちゃ混ぜにしたような心臓の鼓動を捉えたのだ。


 ジョルノは無言でエルフの新参者を観察していた。


 リカルドは緊張した声で聞いた。

「この死体は?あの男は何だ!?」

「みんな俺の部下だ、化け物に殺された。そしてあの男の名はジョルノ、人間であり、かつて帝国最強と呼ばれた元兵士だか、気が触れて、化け物を死んだ息子だと信じてる!」

 リカルドは思った。

 真実を判断するのには情報が圧倒的に足りない。

 真実を知るにはまずは両者の話を聞かねばならない。だから、だから殺せない。

 仕方ないので殺さずに捕まえる。

 リカルドは殺さないで済む言い訳を見つけた。


 ソフィアが好奇心をはらんだ目をレオナルドに向けていた。

「レオナルドさん、あなた魔法が使えるのですか?」

「あぁ、そうだ、生まれたときから魔力を宿している魔法使いだ。」

 魔力は何十年と時間をかけて会得するのが普通だが、ごく稀に魔力を持ったまま産まれてくる者がいる。

 人間では魔力を得る前にその寿命が尽きる事が大半なので人間の魔法使いのほぼ全てが生まれ持った魔法使いだ。

 ソフィアはそれを見たことが無かった。

 ソフィアはすごいと呟き、思い出したように目をジョルノに移して聞いた。

「……ジョルノさん、私はソフィアです、こっちの剣士はリカルドです。……武器を捨ててくれませんか?エルフの事は知っていますか?私達はハーフではありますがエルフです。だから嘘を嫌いますし、誰よりも中立に善悪を判断する自信があります。あなたの言い分を聞きましょう…」

「武器を捨てると思うか?今さっき間違いなく殺すつもりで矢を放たれたのに?」

 ソフィアは警戒を維持したまま軽く頭を下げる。

「それは謝りますが……」

 リカルドが割り込んだ。

「ふざけるな、あの状況だぞ!この死体の数だぞ、兵士を助けるなら他の選択肢は無かっただろう!」

 ジョルノは鼻で笑った。

「くだらない……私だって息子を助けたいだけだ、このまま捕まっては帝国の実験動物か……良くて兵器にされる」

 ソフィアが落ち着いた声で言った。

「その息子さんは、姿を変えられる化け物だと、この兵士が言っていますが、本当ですか?」

「だからなんだ?姿なんか関係無い。息子が息子の姿をして俺に会いに来た、だから魂は間違いなく、グリッチャーだ。今は忘れているが、すぐに思い出させる。だから早くグリッチャーを解放しろ……」

 ソフィアは首を傾げた。

「なるほど、転生ですか?エルフも転生は信じています。しかしそれは100年経った後の話しです、人間の寿命で転生した息子に会うことは不可能のはずですが?」

「お前達の宗教に興味は無い。息子は特別だっただけの話しだ、復讐を遂げて私に会いに来たのがその証しだ」

 レオナルドは疑問を口にした。

「……復讐?なんの事だ……ダリルの報告書は読んだ……息子さんは戦火に巻き込まれたのだろう!?ならば復讐する相手は敵国の筈だ!!敵国民どころか自国民しか殺して無いじゃ無いか!?」

「お前に何がわかる……?グリッチャーが怒るからなるべくなら殺したく無かったが、辞めだ。お前は殺す。魔法は殺せば解けるのだろう?殺してグリッチャーを解放しよう。エルフよ、お前達も殺す。」


 リカルドは動揺しながらも逃げるべきだと判断した。

 この男の覚悟は本物だ、全身の毛が逆立つほどの冷酷な声が恐怖を煽る。

 ここまで明確かつ強い殺意が向けられたときリカルドは迷わない、命を大事に扱う。


 しかしソフィアは違う、強烈な殺意を意に返さない。

 ソフィアはエルフであり、リカルド以外のエルフは生に頓着しない。それは他人の命も己の命も同じ、転生するのだから今生を潔く、誇り高く生きて死ぬべきだと考えているからだ。


 ソフィアは自身の水袋と念のために預かっていたリカルドの水袋の蓋を開けた。

 水袋からは水が二匹の蛇のように飛び出し、ソフィアの肩の上で集まり、水球となって浮いた。

 その後に腰に下げた小袋から植物の種を一粒摘んだ。

 植物は一本の枝に育ち、木製の矢じりが出来てその対角には葉が並んで生えて矢羽となる。


 リカルドの頬に汗が流れた。

「ソフィ!逃げよう!レオナルドさんも早く!」

「すまないが、リカルドさん、俺はここを離れられない、離れれば魔法が解ける、ただの土になる。化け物は絶対に出さない!」

 レオナルドが言い、それにソフィアが同調する。

「そうよリカルド!金貨は手に入らないとしても、金貨だけが目当てでこの依頼を受けたわけじゃないはずよ!人を食い殺す化け物は捕まえなきゃって言ったのはリカルド、あなたよ!!それに一度受けた依頼は出来るだけ達成したい!」


 こうなったソフィアは簡単には止まらない、無論説得する時間も無い。

 リカルドの優先事項は常にソフィアの命が第一だが、選択肢は無かった。

 刀を握り直し、中段に構える。

 戦闘経験がほとんど無いリカルドでも、このジョルノと言う男の強さがわかる。

 勝算は低いだろう。

 どうしても力負けするエルフの腕力では剣を受ける、又は受けられる事は死に直結する。

 そのハンデを剣速で補えることは鬼人との戦いで証明できた。

 しかし、今回もそれが通用するかは分からない。


「では、行くぞ……」

 ジョルノが冷たい息を吐き、剣を背中の槍と持ち替えて、ジリジリと近付いて来た。


 槍がリカルドめがけて鋭く突かれ、紙一重で避けたリカルドは、突進し、刀の間合いに入った途端に肩を狙って斬りかかった。


 ジョルノは上体を反って避け、同時に斬りかかっていたレオナルドの剣を槍で捌き、大きく飛び退いたところに頭部に飛んで来たソフィアの矢を歯で受け止めた。


 ジョルノは矢を吐き捨て言った。

「なるほど、エルフの剣士と言うから油断したが、存外に速いのだな、エルフの身で良くぞここまで上達したものだ、本当に驚いた……それにこの矢は……ああ思い出した。そういえばバラの悪魔と言う種族が植物を多少操るらしいな?それとのハーフエルフだった男と戦ったことがある。あっけなく死んだぞ?お前もそれか?その背中にある矢筒の矢は使わないのか?」


「こっちは特別製なの、それにしても余裕ね、じゃあ、これは避けれるかしら?」

 ジョルノは飛んで来た水球は槍で叩きつけ破裂させるが、水滴がジョルノの頭部で集合して頭部を覆う。


 呼吸出来ないジョルノは全く慌てなかった。

 次の瞬間、頭部を覆う水球が内部から破裂した。


 ソフィアは目を見開いた、魔法を打ち消す方法いくつかある、魔道具の使用、魔力同士のぶつかり合いによる対消滅、魔法使いが攻撃される等の理由から集中が切れる、等がその代表だ。

 魔法は使い手の支配から離れ、操れなくなる。

 しかし、今回はそのどれも起こっていない。

 未だに水はソフィアの支配下にあり、操作性を維持している。


 ソフィアは水滴を自身の背中の方に集め水球に戻した。

 水球が破裂した理由が見つからない。


 ジョルノはそれを察してまるで小さい子に言うように教えた。

「ただ、息を強く吐いただけだよ、兵士だった頃に水の魔法使いとは何度も訓練した。水滴状態では魔力の消耗が激しいことも知っているぞ?さて、君は後どのくらいの時間魔法を使えるんだ?」

「肺活量だけで魔法を打ち破ったと言うの……?あなたの方がよっぽど化け物なのね……」

「その言葉、兵士だったかつては褒め言葉だったよ…!」

 ジョルノが槍を持ってソフィアに飛ぶが、レオナルドがその行く手を阻み、リカルドがそれに加勢する、リカルドの刀は避ける、受けることはその剣速とレオナルドの剣がさせてはくれない。

 なるほど、即席にしては良いコンビだ。ジョルノの槍とレオナルドの剣が何度か切り結び、それは起こった。


 ジョルノが大きく飛び退いたと同時に槍を払い、レオナルドの左腕が宙を舞った。

 ジョルノは、間を置かず突撃し、矢と水球を掻い潜ってソフィアに迫る。

「ソフィに手を出すな!!」

 ジョルノは横から薙ぎ払われるリカルドの高速の刀を避け、リカルドを蹴り飛ばし、槍でソフィアの喉元を貫いた……


 かと思ったが、リカルドの攻撃によって踏み込みが甘かったのか、はたまた未知の魔法の力か……何にせよそれは貫けず、ソフィアは吹き飛ばされたのみだった。

 ソフィアは激しく咳き込んだ。

 リカルドはソフィアに駆け寄り、ジョルノに向き直って構える。

「大丈夫!?立てるか!?もういい、今回は逃げる!体制を立て直し、対策を練ろう!」

 ソフィアは潰れた声で言った。

「その方が良いけど……今さら無理よ……あいつからは逃げられる無い……ごめんねリカルド……あなたまで死ぬ事無いのに……何回も判断間違えちゃった」


 ジョルノはその圧倒的な強さに似合わず、慎重な性格をしている、数々の初見殺しの技を破って来たのはその性格ゆえの観察力による所が大きい。

 あるいはそれゆえに帝国最強となり得るまで生き延びる事が出来たのかも知れない。


 ジョルノは未知の力に対し、じっくりと観察し考察する。

 何故死んでいない?

 このエルフの女はどんな力を使った?バラの悪魔の力か?

 ジョルノはソフィアの首元にそれを見た。

 首の根元に木目があり、植物の蔓が巻かれていた。

 あれは何だ?

 植物の鎧か?

 未知の力には簡単に踏み込んではならない、致命的なミスに繋がる。

 グリッチャーの二の前になる。

 ジョルノの攻撃の手は止まり、3人に時間が与えられた。


 レオナルドは左腕を抑え、リカルド達に近づいた。

 ポケットから霊薬の試作品である小瓶を取り出す。

 蓋を口で開け、中にある赤黒い液体を飲み込み、空になった小瓶をリカルドに渡した。

「……頼みがある……軍病院にダリルと言う兵士がいる……伝えてくれ!この事を…今見聞きにしたこと全てを……レオナルドの名とその小瓶があれば信じる筈だ……俺が時間を稼ぐ、君たちは逃げろ!」

 リカルドは感謝と謝罪を口にし、咳き込むソフィアの手を回して走った。

「頼んだぞ!」

 ジョルノは2人を追わなかった。

 ソニーを、グリッチャーをこのレオナルドと2人きりにするのはまずいと判断したのだ。


 レオナルドはもう一度頼んだぞと呟いて魔法を行使した。


 無数の土塊が地面から現れた。


 ——


 リカルドとソフィアが森を脱したころ、レオナルドは大量に出血し、地面に突っ伏して生き絶えた。

 レオナルドの胸の傷から金色に輝く綺麗な蝶々が飛び立ち、どこかに消えた。


 ジョルノの姿は無く、地面からは傷の消えたソニーが現れた。

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