決戦(2)
早朝、ソニーは、鎧の音に気がついて目が覚めた。
ジョルノの時のように自己をアピールするような音じゃない。
静かにしようとして漏れ出てしまったような、忍び寄ろうとして音が出てしまったような、そんなバツの悪い音。
ソニーは巣穴から顔を出すと、まだ姿は見え無い、しかし匂いからすると近くに来ていることは間違い無いようだった。
顔を巣穴に戻して、ジョルノを見ると、いつものように座りながら寝ていた。
無防備に見えて、あれで警戒しているのだ、近づけば、飛び起きて防御行動に出る、殺気というやつを感じているらしい。
巣穴から半身を出すと、ジョルノが声をかけた。
「また殺すのか?」
ソニーは振り返らず言った。
「当然だ、森は狩るか狩られるかの場所、それに肉を食べなきゃ飢え死にしてしまう」
ジョルノはそれ以上声をかけなかった。
二人は奇妙な親子関係を続いていた。
ソニーはジョルノから人間の常識を学び、ジョルノは必死に教育をしていた。
ソニーは狩りの邪魔をしないジョルノを親のような存在と認識していた。
もっとも、まともな教育を受けず、生まれたときから親を知らないソニーには親子が何なのかは分からなかったのだが。
ソニーは鎧の音に近づいた。
川からすぐの森の中で見つけた標的はいつもよりも多い、1列になって10人居た。
それぞれが鎧を付けた兵士で、のそりのそりと音を立てないように静かにソニーの巣穴に向かっていた。
ソニーは何度も襲い来る、冒険者を返り討ちにする中で、驚異的な戦闘能力を得たことにより、チマチマと投石して数を減らすよりも、近接して攻撃することの方が好みになっていた。
それにソニーの心にも変化の兆しがあった。
遠くから一方的に狩り殺す事は卑怯ではないか?と思うようになっていたのだ。
奇襲はするが弱いと判断すれば、それ以降は力技で狩り、逃げる者は、しつこく追わないことにしていた。
その変化ゆえに、ソニーは投石せず、木の上から集団の背後に回り、最後尾の兵士、その真後ろに降り立った。
その際枝を踏み、パキッと折れる音がした。
兵士の一人がこちらを振り返り、ソニーと目が合うと舌打ちをした。
「驚かせやがって」
兵士はすぐに向き直ってのそりと歩いた。
ソニーは小さな猿に化けていたのだ。
ソニーは体をブヨブヨと変化させ、グリズリーになると最後尾に居た兵士の首を丸太のような腕でへし折り、続けざまにその前の兵士を押し倒して背骨を踏み抜き潰した。
3人目の兵士が振り返り、悲鳴のような叫びをあげると、残りの7名も一斉に振り返り、それぞれが恐怖と驚きを混ぜ合わせた顔をしていた。
ソニーは、駆け出して、叫ぶ兵士の喉元を噛み切った。
ソニーは肉を飲み込んで口を空にすると、獣の口からでも聞き取れるように精一杯努力して、ゆっくりとしっかりと言葉を発した。
「ダメ、ジャナイか、ニンゲンは、急ニ大声ヲ、聞クト、オドロク、ノダロウ?お父サン二、オソワッタ、ダロウ?デモ、ダイジョウブ…オチツイテ…シズカニ、サセタカラ、モウ、オドロク、必要ナイ」
ソニーはジョルノから教わった人間の常識を心からの善意で教えてあげた。
兵士の誰もが動けなくなり、数瞬の沈黙の後に口火を切ったのは列の真ん中に居たタレ目の小隊長だった。
「各兵、散開し、やつを囲め!我が名はレオナルド!グラゾール帝国小隊長!帝国の名によりお前を捕獲する!」
兵士達は意識を取り戻したかのように機敏にソニーを取り囲んだ。
ソニーは知っていた、口上と言うやつだ。そして口上には口上を返すこともまた知っていた。
だから敢えて返した、うんざりしながらも、どこかで見張っているであろうジョルノに後から小言を言われないように返した。
「オレハ、そにー、狩ルモノ!」
「オマエハ、シズカニ、シナさい!!」
ソニーがレオナルドに飛びつくと、
レオナルドが後方に下がり、その立っていた場所からは大人の人間ほど大きい土の塊が盛り上がる。
ソニーは止まり切れずに土にぶつかると、それは岩のような硬さを持ち、ソニーに衝撃を返した。
今度は静かな声で言った。
「言い忘れた…我は土獅子のレオナルドだ…」
直後に兵士が剣を持ってソニーに駆け出した。




