決戦
盗賊との衝突から、半月が経ち穏やかな旅が続いてリカルドとソフィアが帝国にたどり着いたころ。
ソニーの逃亡から2ヶ月と少し経っていた。
帝国では東の森に住む化け物の噂で連日持ちきりだった。
その噂は狩人から広まった。
東の森から仲間が戻らない。
初期の頃は森の支配者たる「 ハグレの番犬」ケルベロスに見つかり食い殺されたのだろうと噂されていた。
しかし、一人の狩人がケルベロスの骨を持ち帰って来たことから話題になった。
ケルベロスの強靭な骨はいくつも折れており、肉を噛り付いた様な歯型があった、魔獣の研究者が見分したところ、どうも人型の魔獣の歯型であるようだが、細かな特徴がどんな魔獣とも一致しない。
通りすがりの医師が見てみるとそれは人間の歯型に間違い無いと言い当てたが、それはあり得ない、と人々は嘲笑した。
ケルベロスの肉は不味いのだ。
硬いし臭いし、脂もない、糞便に三日三晩漬け込んだゴム製靴底の味とは良く言ったものだ。
煮ても焼いても食えたものでは無い。
それを骨までしゃぶり尽くすなんて、そんなことをするくらいなら餓死を選ぶだろうと人々は口を揃えて言った。
誰かが売るために狩ったのではないか、と話も出た。
おそらくそれも無い。
討伐するには余りにも危険すぎる。
そして何より売れない。
肉は言わずもがな、毛皮も売れない。皮にどんな加工を施しても臭いは取れない、毛は剛毛でゴワゴワし、皮革にしても乾燥して伸縮性を失い、ボロボロと崩れる。
狩りの対象として全く旨味の無い魔獣だ。
ひとしきり議論すると、恐怖に取り憑かれた狩人の一人が森から帰った。
話を聞くと、狩りの師匠と二人で狩りをしていたそうだ。
そして川の近くでシクシクと泣く世にも美しい女を発見した。
師匠が近づいて声をかけると、その女の腕がグリズリーへと変わり師匠の胸を突き破った。
女は魂の抜けた師匠の遺体を犬のように食っていたそうだ。
狩人はその隙に恐怖に駆られながら逃げた。と説明した。
その者の話しは誰も信じられなかったが、調査に出た狩人が戻ると、次々と同じような説明を繰り返したのだ。
もはや疑う者はいなかった。
東の森は化け物がいる。
軍も無視は出来ない。
賞金がかけられ、数多の冒険者が捕獲に乗り出すが、成功した者はいない。
賞金は右肩上がりに大きくなり、金貨10枚、農民の年収10年分程の額にまで吊り上がった。
帝国兵は軍を動かすことを決めた。
最初に声がかかったのはレオナルドの小隊だった。
レオナルドは同期のダリルの病室に挨拶に来ていた。
「腹の調子はどうだ!?」
「もう塞がったさ、退院ももうすぐ…それよりお前、化け物退治に行くのか!?」
「退治じゃなく、「捕獲」だ!生きたままのな!戦争好きの帝王様だ、大方戦争の道具に使うつもりだろう、俺らにも大いに役立つ!」
レオナルドは嬉々として続けた。
「つまり!それを捕獲したならば昇格間違いなし!レオナルド中隊長の出来上がりだ!」
「…そうか、まぁ良かったな…でもレオナルド、その化け物は執事殺しであり、門兵殺し、そして騎士殺しだ、気をつけろよ」
レオナルドは無邪気な笑顔を作った。
「おいおい、自慢じゃないが俺は土獅子のレオナルドだぜ!?化け物の1匹や2匹どうってことないさ、それに今回は小隊を引き連れる、10人部隊だぞ?万が一すら無い!それにこれを見ろ!」
レオナルドは赤黒い液体の入った親指ほどの小瓶をポケットから出した。
「聞いたことあるだろう?エルフの霊薬…その試作品だ!材料が判明したから、絶賛研究中らしい!これがあれば俺一人だって捕獲できるさ!」
ダリルは表情一つ動かさない。
「……それでもだ、レオナルド!ジョルノさんは森に行くと言って帰って来てないんだろう!?あいつは化け物なんだ!姿を変えられることがじゃない!躊躇なく人を食い殺す精神がだ…!」
レオナルドは同期の忠告を受け入れ、小瓶をしまいながら笑顔を消して答えた。
「わかったよ、出発は明日だ、見送りには来なくていいぞ、お医者様が許さんだろうし、男の見送りなんて嬉しくも無いしな…もう行くぞ、今回の面会は許可取ってないんだ、挨拶は終わり、じゃあまたな!」
レオナルドが居なくなって静かな病室でダリルは痛く無いはずの腹を抑え、なんとも言えない不安を押し込めた。
レオナルドの小瓶は静かに脈打った。
終盤に入りました。
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