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アイトワラス  作者: 無名サツカ
化け物の目覚め
15/30

エルフ(2)

 半月が経ち、ほとんどトラブルも無く、ソフィアとリカルドはエルフィン連合国の南、帝国の南西に位置するグラスハイム王国へとたどり着いた。


 同王国は建国以来脈々と途切れることなく、良王が統治している。

 国民の大多数が人間であり、農業と酪農により生活基盤を築いている。

 しかし、土地は痩せており貧しく、飢饉が幾度もなくこの国を襲うものの国民の大半は良王を慕い、文句一つ言う事なく、慎ましく生活していた。

 軍馬や兵士は少ないが、内乱がほとんどない事がそれを許した。

 比較的近接するエルフィン連合国と過去400年もの間戦争が無く、良好な関係を続けられている理由はエルフィン連合国に多種多様で強力な種族が多いから、と言う理由だけでは無く、良王の統治により貴族や国民の感情を友好的な状態で維持していることも大きい。


 王国へ着いて一月が経ち、二人は大方の観光を終えて、冒険者ギルドに顔を出していた。

 受付で登録を終えた彼らは手頃な依頼を探した。

 資金は充分確保したつもりだが、初めての観光のため、資金運用が甘く、本来なら三ヶ月分の資金を使い切ってしまったのだ。


 そのため、予定を前倒しして冒険者ギルドへ仕事を貰い来たのだ。


「ソフィ、これなんて良くないか?魔獣狩りだって」

「ダメ!リカルド、最低でも銀貨3枚は欲しい!」

「ならこれは?金貨1枚に食事付き!」

「…すごい!破格の値段ね!グラゾール帝国への物資を積んだ馬車の護衛、当面の目的地でもあるし、この国の観光の続きはまた今度にすれば…完璧な依頼ね!でもねぇ、今日冒険者登録したばかりなのにこんな良い依頼受けさせてくれるかしら……」

「それも、そうだね…やっぱり初めは簡単な依頼をこなして信頼を得なきゃいけないのかな…?」

 受付の髭面の男性が咳払いをした。

「あんた達、エルフだろ?なら護衛の依頼でも問題ないぜ。エルフは信頼出来るからな。」

 リカルドが首を傾げる。

「今日登録したばっかりなのに良いのですか?」

 受付の男性が答えるより先にソフィアが言った。

「実力重視ね、エルフの弓矢の腕は有名で信用できるってところかしら?」

「嬢ちゃん、ご名答!」

 髭面はガハハと笑う。

「それに、荷物を盗むために依頼を受ける者も多くてね、しかし、エルフは誇り高いだろう?卑怯な裏切りなんてしない、そういう意味でも信頼できるのさ」

「へぇ!なるほど!」

 リカルドは感嘆の声をあげ、ソフィアは決心した。

「じゃあこの依頼をお願いするわ!」

「よし!決まりだ!出発は明日、正門前に朝8時に集合だ!頼むぜ!」


 二人は旅の準備を整え、翌日に備えて眠った。


 翌日の夕方、リカルドとソフィアは2頭の馬が引く大きな荷馬車、その先頭を歩いていた。


 リカルドは、赤黒い液体が入った小瓶を見つめ、大事そうにカバンの奥にしまった。


「ソフィ、霊薬はどうやって作るか、知ってる?」

「細かい作り方は知らない、知ってるのは材料が何かと、細かく刻んで煮込むって事くらい、あとは魔法陣、魔道具、魔力を込めるってことくらいよ」

「ソフィアでも知らないのか…」

「エルフの秘術だからね…部族長と、一部の魔法使いしか知らないはずよ、いつか知りたいわね…」

 二人の後方から荷馬車を操る年老いた御者が声をかけた。

「もうそろそろ日が暮れるのう、予定より少し早く進んでるから今日はここで野宿しよう、すまないが見張りは頼んだよ」

「任せて下さい!僕たちの仕事です、ソフィアと交代で番をしますよ!」

「ホッホ、頼りになるよ」


 静かな夜、一行らは食事を終え、年老いた御者とその孫である青年、そしてリカルドとソフィアの4人で焚き火を囲んでいた。


 青年は薪を焚べながら言った。

「爺ちゃん、そろそろ寝ないと、疲れるよ」

「今日くらい良いだろ?せっかくエルフに会えたんだ、ワシはもう歳だ、長くは生きられん、エルフと会うのはこれが最後かもしれんじゃろ?」

「爺ちゃん!縁起でもない!早く寝るぞ!」

「……わかったよ…しばらく旅は続くしのう、お二人さん、そいじゃまた明日のう、おやすみ」

 エルフ達はおやすみなさいと返した。


 エルフ達が帝国で見たい場所、知りたい事などひとしきり会話し、夜が更けた頃、リカルドは薪を焚べた。

「リカルド、あの御者さん、どこか悪そうに見えたかしら?お孫さんが心配そうにしてたわよね」

「そうだね…でも体が悪いようには見えない…単純に年配だから心配したんじゃないかな?」

「そっか、人間は生を大事にするものね」

「生を大事にするのは人間だけじゃないよ、ソフィ……今日はもう遅い、先に休みな…」

「…そうさせてもらうね…起こしてよリカルド…」

「任せて、ソフィ…」


 リカルドは横になって眠るソフィアの背中を優しく見つめた後、炎に目を移して考えていた。

 あの孫は年老いた御者に長生きして欲しいのだろう、だから体を心配し、休ませた。

 ところが御者本人は死を見つめている。エルフと比べてあまりにも短い人間の寿命を受け入れ、死を穏やかに受け入れている。


 …しかし、エルフのソフィアもそれは同じだ。


 エルフと人間は見た目こそ耳の長短しか大きな違いはない、しかし中身はまるで違う、寿命の長さもそうだが、一番の違いはその死生観にある。


 エルフは生に頓着しない。


 死を転生への準備として捉えており、死ぬとその100年以上経った後に生まれ変わると信じられているのだ。

 それため命を奪う事、そして奪われる事も簡単に受け入れてしまう。

 その死生観は長命ゆえのものか、本能に刷り込まれたものなのか、それは分からない。

 しかし確かな事は、ドライアドとのハーフエルフであるソフィアもまた死生観はエルフのそれであり、生に執着しないのだった。


 エルフと人間のハーフであるリカルドはその死生観を受け入れられないでいた。

 自分の命もそうだが、ソフィアが死ぬことを想像すると、胸が締め付けられる、ソフィアが死を受け入れるような言動をする度にリカルドを不安にさせ、どうしようもなく悲しい気持ちにさせるのだ。


 リカルドは不安を払い除けるように刀を振り、自身が考案した唯一の技を練習して時を稼いだ。

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