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アイトワラス  作者: 無名サツカ
化け物の目覚め
13/30

アイトワラス〔3〕

 ソニーは、鎧をつけた隻眼の男ジョルノに向かって腕を振り回して攻撃するも、傷つけるどころか、かすりもしなかった。


 ジョルノも一切の攻撃はしなかった。


 ソニーは、両腕をグリズリーに変化させて攻撃を繰り返すも、全てを最小の動きで躱される


 ソニーは息を切らしたことで、返って冷静になり、何度も練習を重ねた得意の攻撃を仕掛ける事にした。

 右腕を長く伸ばし五指を人間の指に変化させ、小石の混ざった土を握った。


 相手との距離は10歩程、この間合いならば外さない。


 終わりだ。

 ソニーは思い切り投げつけた。


 ジョルノは毛皮のマント背中から取り外し、目の前で素早く振り回して土塊の全てを絡めとり防ぎきった。

 マントの本来の役割は体を温めるための防寒着だ、ジョルノはそれを訓練に訓練を重ねて見事に体全体を守る盾と呼べるほどの領域まで発展させ、使いこなしていた。


 ソニーは驚愕した。

 即座にこの男を人外の化け物だと判断した。

 まずい、狩られる、すぐに距離をとらねば、距離を取り、根気強く監視し、疲弊し、油断し切ったタイミングで投石しなければこの男は殺せない。

 そう判断し、駆け抜けるも、ジョルノはソニーの後方数歩をピッタリとへばり付き、距離を離せなかった。


 息が続かず、激しく咳き込みながら座り込むとジョルノはソニーの前に立った。

 ソニーは死を覚悟した。後悔は無い、やりきった、多少油断したが、それは相手の擬態に騙されただけだ、全力を出し切った、それに、油断しなかったとしてもこの人外には勝てなかっただろう。

 充分だ、本当にこれは「楽しい」だ、楽しい人生だった。

 ジョルノは深呼吸して、息を整えた。

「…グリッチャー…忘れた事は仕方ない、ゆっくり思い出していこう…また明日来るよ」

 そう言って寂しそうに森の奥に去って行った。


 ソニーは追撃する体力もなく、しばらくの間グッタリと休んだ。

 初めて知った。

 この世には狩る側でも狩られる側にも属さない、まさに化け物がいる。

 何故狩らないのだ?ここは森だ、この森に来たのなら当然のはずだ。何故、何故、何故…

 答えの出ない問いを考えるのを辞めると、ソニーは心の中に初めて味わう感情が宿り始めた、「怒り」だ。



 翌日の朝、ソニーが川で狩人の死骸を食べていると、後方の金属音に気づいた。

 あいつだ、ソニーは拳大の石を手に持ち振り向きざまにジョルノに向かって投げた。

 ジョルノは素早く剣を引き抜き、片手で真っ直ぐに構えた。

 高速で飛ぶ石が剣先に触れた刹那の瞬間を逃さず、手首を捻って弾道を逸らした。

 石は後方の地面に衝突し、爆音とともに無数の砂利が宙を舞った。

「…グリッチャー、投石の威力は一人前以上だな、だがその威力ならもっと手前に落とすべきだ。それなら防がれても、目くらましには使える、うまく行けば目を潰せたはずだ」


 ソニーはその助言に言葉と言えぬ咆哮で答え、ひとしきり暴れるも、やはりジョルノに攻撃はかすりもしない。

 ジョルノは疲れ切ったソニーを優しく見下ろす。

「もう疲れたか?また明日だ」

 と言ってジョルノは立ち去った。


 翌日もその翌日も何日も何日もそういう日が続き、ジョルノはやがてソニー巣穴で共に寝るようになった。

 ソニーは何度も何度も寝込みを襲うが、そのたびにジョルノは瞬時に起きて攻撃を防ぐ。

 何日も何日も繰り返して襲うも、全てが徒労に終わり、やがてソニーは諦め、奇妙な共同生活が始まっていた。

 ソニーは人間を喰らい、ジョルノは森の動物を焼いて食べた。


 ジョルノが一方的に話しかけても、沈黙を守り続けていたが、ある夜、巣穴の中でソニーは心の中で暴れるその感情が「怒り」だと知らぬまま聞いた。

「あんた何の目的?俺を殺しに来た訳でも無いのだろう?」

 ジョルノは長い、長い沈黙の後に答えた。

「……そうだな、親子で一緒に暮らしたい、それだけ…」

 ソニーは、立ち上がって怒鳴った。

「俺はお前の子供じゃない!!俺はソニーだ!!ゲラムの館でそう呼ばれたことがある!!グリッチャーなんて知らないぞ!!早く出て行け!ここは俺の森だ!」

 ジョルノは驚いたような寂しそうな顔をしていた。

「急に大声を出すな、迷惑だぞ?他の動物達に、この森はお前だけの物じゃない…いいか?今は頭に血が昇って分からないかもしれない、だから明日ゆっくり教えてやる、とにかく今は寝なさい…安心して大丈夫、今度こそ、父さんが守ってやる……」


 ソニーはウンザリして、再び押し黙った。


 そうやって奇妙な共同生活は続き、ソニーはいつしか「怒り」も覚えず、たまに会話し、ジョルノから物事を教わり、たまにジョルノが食べている肉をもらって食事を共にした。


 それはとても歪で、普通の価値観では無いけれど、紛れもなく親子のそれだった。

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