「十年前の事件」
二話では十年前のお話です。ここではこの先のあるヒントがありますので、それではスタート。
十年前、しんしんと降る雪を眺めながら、俺は早く家に帰りたいと思っていた。
「月宮、よそ見してる暇があるってことは、この問題が解けたのか?」塾の先生が聞いてくる。
「すみません、まだ解けてません」
室内にみんなの笑い声が響いた。
塾で知り合った健斗がらしくないぞと聞いてきた。
「今日父さんが久しぶりに帰ってくるんだ」
「何時に帰ってくんの?」
「十六時って言ってたけど、さっきチャットで塾が長引いてるって送った」
「一時間半も過ぎてんじゃん。最悪だな」
「本当だよ、今すぐにでも帰りたいのに」
そうこう話しているうちに時間が経過していき、結局終わったのは十八時を過ぎていた。
今から帰るとチャットを送り、急いで最寄駅へ向かう。
隣に住んでる親友の真一も一緒にご飯を食べる約束をしていた。真一の両親は共働きで、今日は帰って来るのが遅いと言っていたので、真一も誘って一緒にパーティーをする予定だった。
電車が駅に到着し、空いていたので座ることにした。スマホを見ると電源が切れていて、電源ボタンを長押しすると、充電切れのマークが点滅していた。
今日はついてないなと心の中でつぶやきながら、窓の外を見た。
駅に到着して、急いで降りて改札を出た。駅から家まではそう遠くないので、走って帰った。
少し遠回りで大通りじゃない、人通りの少ない裏道を通ることにした。大通りより近道になるためよく使うのだが、こっちの道は薄暗いから通るのはやめなさいと言われている。しかし、久しぶりに父さんに会えるのが楽しみで、そんなこと忘れている。
街灯に点々と白く照らされた裏道は、夜になると極端に人通りが少なくなる。前に通った時は、誰ともすれ違わないくらいだった。
しかし、今日は曲がり角で三人組の男の一人とぶつかり、お互い地面に転がり倒れた。
「痛っ......。あ、ごめんなさい。怪我ないですか?」
「は、はい。大丈夫です」
長身細身の男は、小声で声も震えていてあまり聞き取れなかったが、顔が青ざめていて見るからに大丈夫ではないと思った。
しかし、後ろにいた頬に傷がある男と顔に火傷のある男が、長身細身の男にはやくしろと急かしたので、走って行ってしまった。違和感を感じるも俺も家へ帰ることにした。
――にしても、顔に火傷のある男以外はどこか焦ってるように見えたけど、なんだったのだろう――
俺は心の中でモヤモヤしながら走っていると、家の方が赤く光っていて騒がしかった。
何か嫌な予感がする......ふと何気なくそう思った。
そして、嫌な予感は当たっていた。家の前に到着し、赤い光の正体はすぐにわかった。
その正体は、轟々と音を立て空へ伸びる炎だったのだ。
時間は遡り曲がり角でぶつかる三十分前......。
「まさか勝手口が空いてるとは思わなかったな」リーダーが扉を開けながら言った。
「そうでやすね」下っ端の男が続いて入っていった。
「高価な物がたんまりありやすぜ」
「お前は一階を見張れ、俺らは二階を探す」
「了解しやした」もう一人の男も遅れてうなづいた。
二階に上がり、リーダーの男と下っ端の男は、金目になる物を持っていた袋に詰めていく。しばらくして、取るものは取ったので家を出るため下に降りようとししたその時、下で大きな音がした。
下の階の男に呼びかけるが、返事はない。
「まさか人がいたんじゃ」下っ端の男は焦っていて声が震えていた。
「バカ、こんな寒い日に電気も暖房もつけていない家に人なんているかよ」
しばらく待っていると、仲間の男が戻ってきた。
「すまない、段差につまずいて転んでしまった」
「音で周りに気づかれでもしたらどうするんだ」とリーダーの男は焦り怒鳴った。
するといきなり、リビングの方で何かが爆発する音がした。行ってみると、あるはずのないものに引火したのがわかった。
すると下で見張っていた男の顔に、火がついてしまった。すぐに火は消したが、火傷をしてしまった。
みるみるうちに火は広がって行き、窓ガラスを割って外に出た。
周りの住民が外に出てきて、騒がしくなっているのに気づいた。しかし、リーダーの男と下っ端の男だけ家を出る間際に、物に引火した火で照らされたリビングの中を見たとき、見てはいけないものを見てしまった。
「おい、お前見たか」リーダーの男が下っ端の男に聞いた。
「は、はい。み、見ちゃいました」
「あれ、死体だったよな」
「はい、そうでやすね、三つもありましたよ」
「もっと離れよう、近くにいちゃまずい」
男たちは、ひたすら裏道を走った。人がいなかったのでマスクを外した。さらに、人がいなくてラッキーだと思っていた矢先に、下っ端の男は、高校生とぶつかってしまい金目のものが入った袋を、落としてしまった。
「大丈夫ですか?」高校生が聞いてくる。
「は、はい。大丈夫です」
「早くしろ!」リーダーの男が叫ぶと下っ端の男は袋を持って走った。
「気づかれてないっぽいですね」
「だといいんだがな」顔は見られたが、まさか俺らがやったとはおもわねえだろ。
「それより、お前、その火傷の傷大丈夫か?ってお前......」
そして、時は進み現在に至る......。
俺は炎を見てとっさに中に入ろうとしたが、周りの人に抑えられた。
すぐに周りの家の人たちが、警察や消防に連絡をしてくれていたので全焼まではいかなかったが、それでも中はひどいありさまだった。
「この家の方ですか?」 警察の人が訪ねてくる。
「はい、そうです。あの、家族は無事なんでしょうか?」恐る恐る聞いてみた。
「残念ですが手遅れでした」
それを聞いた時、俺は地面に膝から崩れ落ちた。
「岩家さん、蒲生警部が呼んでます」
「わかりました。すぐに行きます」
私は、伝えに来た刑事に彼を引き渡し、家の中へ入っていった。
「警部、遅れてすみません」
「うむ、かまわん。鑑識さん説明を頼む」現場状況の説明を鑑識の人に尋ねた。
「はい、火事の影響で遺体や現場の状況はひどかったのですが、火事の原因は、台所の火が何かの拍子で遺体に引火して、それが広がったと思われます」
「なにかの拍子というには判明していないのかね?」私は思わず聞いてしまった。
「はい、状況が状況ですので、原因を特定するのは困難かもしれません」
「火の不始末という可能性もありますしな」と蒲生警部は納得した。
「次に遺体なんですが、一人は身元の確認ができない状態で、二人の、男性と女性の遺体はこの家の方々だと思われます」
警部と私は遺体を確認した。
「ん?刺し傷、死因は火災による原因じゃないのですか?」
「はい、それが二階には、何者かに荒らされた形跡があり強盗の仕業だと思われます」
「なるほど、家に侵入し人がいないと思っていたが、鉢合わせしてしまい焦って殺してしまい、証拠を消すために火をつけた、かな」と蒲生警部は推測した。
「今のところはそれで捜査を進めるしかなさそうですね」私も今は賛成するしかなかった。
「それが、凶器となったナイフなんですが。この二人の遺体の子供とみられる月宮 裕也君の指紋が出て来たんです」
「なんだって? 本当か?」
「はい、それと、リビングの方はあまり火は届いてなかったのでわかったことなんですが、暖房をつけた形跡がないんです」
「真冬なのに、それは変ですね」
「とりあえず、その子供に話を聞いてみよう。今その子はどこにいるのかね?」
「あ、その子なら家の前にいますよ」私は玄関に待たせていることを蒲生警部に伝えた。
「よし、詳しい話は取り調べ室で聞く、すぐに連れて行こう」
警部はそう言い外へ出ていった。
私は、部屋の中を少し見渡してみた。
ーーなぜ、強盗犯は裏の勝手口から入ったのにもかかわらず、窓を割って出ていったのか、それに暖房といい、気になるなーー
私は心の中でモヤモヤしながら、警部の後を追いかけた。
はーいと中途半端ではありますがストップです。
というわけで二話は終わりです。続いては三話ですが、とうとう船に乗っちゃいます。ってなわけでまた三話でお待ちしてまーす