表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術学園の劣等生〜龍に育てられた少年〜  作者: 灰色エルフ
エルバー・マクガーデンの日記
2/3

プロローグ 後編

 船が流されないよう錨を海底に沈め、『終焉の大地』に総勢42名が降り立った。


 俺は仲間の様子を確認するために振り返ったが、皆死んだ魚のような目をしていた。


 仕方なかった。

『災獣』と出会うなんて、誰も予想できなかったのだから。


 --22日目


 俺率いるSランク冒険者パーティー「スカーレット」と残りの拠点、修理組に分かれて行動することになった。


 俺たち「スカーレット」の役割は、『終焉の大地』内部の調査。

 拠点、修理組の役割は、拠点の設営と船の修理だ。




 魔海の王【クラーケン】と鯨の『災獣』の縄張り争いで、船は大破した。

 このままでは、帰りの航海に帆船は耐えられない。


 海を見渡すと、あちらこちらでSランクの魔物達が跋扈している。


 なにもかもが出鱈目だ。




 ◇ ◆




 初めに俺たち「スカーレット」は海岸線沿いに調査することにした。

 船を付けた砂浜以外は、ゴツゴツとした岩場ばかりで特に変わった様子はない。


 しかし俺は、拠点から1キロほど離れた場所で、奇妙な光景を目にすることになった。


「スカーレット」の一員、ラフィが俺の名前を呼んだ。


「エルバー、あれは【ブラッドモンキー】か?」


「えっ? あぁ、あの毛並み、特徴的な犬歯、間違いない【ブラッドモンキー】だろうな。しかし妙だな……」


「だろう? 私もはじめは目を疑ったんだ。【ブラッドモンキー】が木の実を食べている所なんて、初めて見るからな」




【ブラッドモンキー】

 Bランクの魔物。一個体の戦闘能力はそれ程までに高くはない。

 特徴として、血のよう紅の毛並みに、発達した顎と切り裂くための鋭い犬歯。


 普通、サルの魔物は草食で木の葉や果実、きのみを好んで食べる。中には雑食性もいると聞くが……


【ブラッドモンキー】は魔物の肉を好んで食べる習性を持つ。雑食ではない肉食だ。

 時には格上の魔物にも襲いかかることもあり、非常に獰猛な魔物として広く知られている。



 時には運送している魔物の肉にも襲いかかった例もあり、とある地方ではAランク冒険者パーティーの護衛なしには、輸送すら認められないほど聞く。


 そして、奴らが群れをなすと、非常に厄介な魔物になる。統率された軍のように、緻密な連携を始めるのだ。推定Aランクの魔物に匹敵するほどだ。


 俺たち「スカーレット」も【ブラッドモンキー】の群れと交戦したことがあるが、かなり苦労した記憶がある。


 そんな魔物が海岸沿いの岩場で、痩せ細って今にも死にそうな見た目で、木の実にかじり付いていた。




 俺たちはその時、この大陸ではそういう生態をした【ブラッドモンキー】がいるのか、その程度に考えていた。




 そして森の中へと足を踏み入れていったのである。





 ◇ ◆




 ここは黄金の大陸か!?


 そう思えるほどに森の中のあちらこちらに、高価な薬草や木の実が生息していた。



 中には手に入れるのが非常に困難で、貴族や大商人にしか、手に入れることすらできないと言われている、解呪効果のある【月光草】の群生地も発見した。



 さらに森の奥地に進んだところには、未だ誰も見たことがない新種の魔物や、Sランク魔物が氷漬けにされた状態になっていたり、遺骨となっているものもいた。



 そんな光景を見た俺たちは、出会ったら逃げ出すような魔物に出会わずに済んだ安堵感、そして……




 --凶暴な魔物たちを亡き者とする"何か"がこの大陸にはいる。


 そんな場所に立ち入ったのだと、更に緊張感を高めた。



 臨戦態勢のまま、さらに森の奥地に進んだところで、俺たちは見てしまった。


 紫色に光る、巨大な光玉を。


「ま、魔力溜まり……」


 俺たちは一目散に来た道を、トップスピードで駆け抜ける。上空を見上げると、赤い煙が立ち上っている。


 赤の発煙は、拠点組に持たせた緊急信号だ。

 俺はそう考えていた時のことだった。




 辺り一面が一瞬で凍りつき、ダイヤモンドダストが発生した。辺りにいた魔物たちは、次々と氷のオブジェとなってゆく。



 氷の森には今までにいなかった、北の大地の魔物が次々と生まれ、一体一体がSランク化け物のような魔物達だった。





 そして巨大な魔力溜まりから、ついに厄災は生まれる。

 そして前方はいつのまにかマグマの川が道を塞ぎ、火山にいるような魔物たちがマグマの川から這い出てくる。


 黒き海で見た『災獣』の縄張り争い。

 全ての生命を刈り取る厄災。


 熱波の嵐と冷気の嵐がぶつかり合い、森は一瞬で更地となった。

 まさに地獄を見ているかのようだった。




 俺たちは立ち塞がる魔物を斬り伏せ、ときには飛来する氷塊を魔術で防ぎ、なんとか戦場から離れることができた。


 そして後ろを振り返ると、俺の仲間はラフィ一人しかいなくなっていた。


 ラフィに話を聞くと、おれが20年以上共にして来た仲間たちの死は、あまりにも残酷で一瞬だった。




 氷漬けにされた。

 マグマの川に飲まれた。

 魔物に頭を食いちぎられた。




 溢れ出す涙が止まらない。

 突然の出来事に、俺の心の(せき)は一瞬で崩壊した。


 赤い発煙の方角を向くと、幾千もの雷撃が降り注ぎ、黒煙に包まれていた。




 そこで俺は気づいたのだ……




 --『終焉の大地』は決して、人間ごときが踏み入れていいような場所ではないと。



 海岸で見た痩せ細った【ブラッドモンキー】は、この大陸では食物連鎖の最下層。

 ゆえに魔物の肉は手にすることができなかったと。



 黒き海は、大陸から溢れ出す魔力を取り込み、『災獣』やSランクの魔物たちが跋扈する、死の海と化している。



 そう考えると全ての辻褄があうのだ。





「エルバー!」


 絶望していた俺は名前を呼ばれ、ハッと顔を上げる。


 視界を覆うほどの巨大な火の玉が目前に迫っていた。


 そうか俺もここで死ぬのか……長い人生だった。




 --そう思っていた俺と、迫り来る火の玉の前に、ラフィが出てくる。


「お、おい、ラフィ!!!」



 後ろを振り返ったラフィは最後にこう告げた。




「足掻き、生きて! 帰りを待っているものたちの元へと帰り、『終焉の大地』での記録をを届けろ! エルバー、それがあんたの最後の仕事だよ。全魔力解放【魔力障壁(シールド)




 迫り来る巨大な火球と 【魔力障壁(シールド)】は激しくぶつかり合い、爆風と熱波によって俺は吹き飛ばされた。



 俺がいた場所は爆炎に飲み込まれ、あたりは一帯は荒れ狂う火の海となった。

 火柱がようやく収まると、ラフィは黒炭と化し瓦礫のように崩れ落ちた。


「ラ、ラフィ? おい、待ってくれよ、まだ行かないでくれよ!」


 俺はあまりの恐怖に逃げ出した。


「あぁぁぁあああああああ」


 泥だらけになった。

 そして足が動かなくなるまで、走って走って、逃げた。



 いつしか俺は濁流に飲まれた。

 そこまでは記憶にはっきりと残っている。



 しかし、残念ながらそれからの記憶はない。俺の身に何が起きたのか、どうなかったかは覚えていない。



 気づけばどこか、別の島に流れ着いていたのだ。



 そして南の孤島で生活すること数年、孤島の近くを通りかかった漁船にわたしは救助された。



 --帝国歴751年、エルバー・マクガーデン生涯最後の冒険が、ここに幕を閉じる。




 ◇ ◆




 あとがき


 我が最後の冒険で儚き命を散らせた仲間たちよ。


 我ら人類の悲願を果たすことができたのは、諸君らの活躍あってこそだ。


 わたしは諸君ら99名に感謝の念を示すと共に、安らかなる休息を願っている。


 著者 エルバー・マクガーデン

プロローグは一旦終わりです。


面白いと思ってくださった方は、ブクマ、感想などよろしくお願いします。


待っていますっ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ