納得がいかない
「はい? 『遺品整理』?」
「そう! イヤー、珍しいスキルを引いたもんだね。レアだよ極レア!」
僕、柏木 貴也は、さっきまで学校行事であるスキー合宿のため学校のマイクロバスでスキー場に移動中だったはずだ。
それが気が付いたら、どこかの神社でおみくじを引いていた。
「はい、次の人ぉ~。」
「イヤイヤイヤ、ここはどこですか? なんでおみくじ?」
「ああ、詳細は向こうの受付で聞いてね。今日は、大忙しなもんで。」
振り返るとそこには、『受付』と書かれた紙が貼ってあるテントがあった。
体育祭とかで、放送係とか来賓者とかが居るあのテント。
やけに軽い調子の神主さん? はもう次の人の応対をしていた。
しかたがない、受付に行って聞こう。何が何だかわからないまま、俺は受付のテントに向かった。
「あのー、すみません。」
「はい、何でしょう。」
「僕、気が付いたらここに居て・・・何が何だかわからないんですが・・・。」
「お名前は?」
「柏木 貴也です。」
受付のお姉さんは、何やら書類をペラペラめくっていたが、突然手を止めて言った。
「ああ、スキー合宿に行く途中で事故に会われた方ですね。」
「え!? 事故?」
「はい、そのように記載されております。」
「えーっと、では、僕は死んだのでしょうか?」
我ながら、間抜けな質問だとは思うが、思わず聞いてしまった。
「いえ、まだ身体は生きていますよ。」
「え!? では、生き返れるんですか?」
「はい、ですが、生き返ってもすぐにお亡くなりになりますが・・・。」
どういう事だろう?
「身体がもう、持たないんですよ。なので今『生き返る』を選択しても、すぐにお亡くなりになります。」
「すみません、何をおっしゃっているのか全然わかりません。」
「まあ、そうでしょうねぇ・・・、とりあえずお座りください。ご説明します。」
僕は素直に、受付の横の椅子に座った。
受付のお姉さんは、後ろの人に声を掛けて僕の前に来て言った。
「今回の件は、いわゆる『神々の喧嘩』が発端でして、通常はすぐに転生するんですが、原因が原因なだけに、超法規処置ってやつで被害者の方の要望を聞いているんです。」
「要望?」
「はい選択肢は、1.すぐに死ぬけど生き返りたいか 2.お詫びスキルを貰って異世界へ転生するか 3.転生先の希望をかなえてもらって転生するか の3つになります。」
「・・・すでにおみくじでスキルを貰っている場合はどうなりますか?」
「異世界へ転生ですね。」
「僕は、要望を聞いてもらってないんですが・・・。」
「スキルを貰った時点で、異世界へ行くことは決定していますね。」
マジか・・・。本当にどうしてこうなった。
「異世界は選べますか?」
「選べません、喧嘩相手の神様が収める国になります。」
マジか!
ニコニコ笑う笑顔のお姉さん。
あたりを見渡しても普通の神社。
スキルって言われても、全然実感がない現状。
「お詫びスキル以外に優遇処置ってありますか?」
「そうですねぇ・・・、『アイテムボックス』とか『鑑定』とかですかね。」
「ほかには?」
「あとは、『3つのお願い』とかですかね。」
「何ですかそれは?」
「『万能言語』が欲しいとか、『大金持ちの家に生まれたい』とか可能な範囲内でのお願いを3つ選べるものですね。」
「『アイテムボックス』と『鑑定』は標準装備で、その他に選択できるスキルがあるのですね。」
「いえ、『3つのお願い』スキルではなくて、『加護』ですね。」
「加護?」
「はい、創造神以外に12柱の神がいる世界です。その神々の加護が3つ選べれます。」
「それぞれに、違う役割の神様がいるのですね。」
「そういうことになりますね。通常この世界では、1柱の神のご加護があります。3つと言うのは破格の待遇ですよ。」
「ちなみに、どういう神様がいますか?」
1.大地神(植物の栽培が上手になる)
2.海神(航海や漁が上手になる)
3.動物神(動物がなつきやすくなる)
4.言語神(多言語が上手になる)
5.商売神(商売が上手になる)
6.治癒神(回復が早くなる)
7.山神(鉱物から作るのが上手になる)
8.運神(運が良くなる)
9.戦神(武器の扱いが上手になる)
10.生長神(成長が早くなる)
11.日神(昼間の能力が上がる)
12.月神(夜間の能力が上がる)
以上12柱の加護を付けることができるらしい。
取り敢えず、運は良くなりたいよな。
運が悪かったからこうなってるんだし。
1つはもう決まってる。
あとは言語と治癒で悩むな・・・。
でも、生まれ変わるんだ。言葉なんて時間を掛ければなんとかなるだろう。
「決まりました。」
「はい、どの神様の加護にしますか?」
「まず運神、次に治癒神、最後に創造神です。」
「はいぃ? 創造神は選べませんよ。」
「どうしてですか?」
「創造神以外の12神から選んでください。」
「創造神以外には12神いるってだけで、創造神を選んではいけないって決まりでも?」
「いえ、決まりではありませんが、加護は12神から与えられることになってますから。」
「でも、今回は『お詫び』なんですよね?」
「・・・はい。」
「加害者が決めたお詫びは、受け取れないと言ったらどうなりますか?」
「・・・。」
「自分の不始末を部下に丸投げってどう思いますか?」
「・・・。」
感情的にならずに、あくまで冷静に交渉する。
「少々お待ちください。」
うん、わかってはいるんだ。受付のお姉さんは何も悪くないって事は。
でもね、死んでまで『いい子』で居る必要性を感じないんだな。