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列車を降りると俺たちと同じ制服を着た人たちが、ぞろぞろと歩いて行くのが見えた。
その集団に混ざるよう歩いて駅から出て、真っ直ぐ広い一本道を進むとそこには、中世の雰囲気に似つかわしくない、巨大且つ近代的な造りをした建物があった。
「……これが、学校なのか?」
ダイチが思わず呟く。
あまりの大きさに俺は素直に肯定することが出来ず、半開きの口のまま首を傾げることしかしなかった。
「……とりあえず、入るか」
そうだな、と言おうとした瞬間後ろの方から、何かの鳴き声と女性の慌てる声が聞こえてきた。
「――だ、だれか、誰かその子を捕まえてください!」
その刹那、後ろから人混みを猛ダッシュで駆け抜ける1匹の小動物が見えた。
追いかけるのかと尋ねよう隣を見ると、ダイチは一直線に走る動物の先をじっと見つめていた。
ダイチと同じ方を向くとそこには、颯爽と動物を捕まえる1人の青年の姿があった。そして、何故かその周りにたくさんの女子生徒が集まり、黄色い声を上げ拍手している。
女子生徒を宥めながら動物を両手で抱えた青年がこっち、もとい飼い主であろう人の元へ歩いてくる。
たしかに捕まえたのはカッコよかったが、そこまで騒ぐことなんだろうか。王子様なんて言ってる女子もいるが、流石に言い過ぎだろう。
目の前で起こる奇妙な光景に不信感を抱きながら、ダイチに同意を求めるように、視線を合わせようとする。
「……おいエージ、あいつめちゃくちゃカッコいいぞ」
しかし、ダイチは俺のことなんて気にも留めず、青年の方を見続けながらそう口にした。
カッコいいという言葉に違和感を覚え、青年の方をもう一度見る。
目を凝らすとそこにいたのは、世間一般ではチビに当たる身長で、モデル体型とは程遠い胴長短足で、ぽっちゃりとした体型の青年が、犬のような動物を抱えて歩いていた。
やっぱり、どう見てもカッコ良くはないだろう。この世界の人々は感性が狂っているんだろうか。しかし人間の第一印象のほとんどは顔である。顔がイケメンならそれはカッコいいのかもしれない。そう思い、さらに目を凝らす。
しかし、見えた顔はニキビだらけ、眉毛は全く手入れされておらずボサボサ、鼻も潰れていて歯も前に出ている気がする。はっきり言わないようにしていたが、あえて言わせてもらおう。アイツはブスだ。外見のどの部分を切り取ってもブスだ。もう一度言わせてもらう、アイツはどう見てもブスだ。
「そんなこと言わないであげてくださーい」
不意に頭の中でノルンが語りかけてくる。
「このタイミングで話しかけてくるってことは……まさかあいつも転生者なのか!?」
「ピンポーン! 正解でーす。彼は2人目の転生者アーサー・ペンドラゴンさんです!」
あーさーぺんどらごん?
それってあれだよな。アーサー王伝説の主人公のフルネームだよな?
あの純日本人の様な外見で、全部カタカナは流石にないでしょうよ。
「お察しの通り、偽名でございます。彼の本名は凄久毒男と言います。自分の名前が本当に嫌いらしいので、アーサーさんとお呼びしてあげてください」
すごくぶすお?
そのまんま過ぎるでしょうよおおおおお!
まてまてまて、親はなんの恨みがあってそんな名前にしたんだ?
そりゃあ名前も変えたくなるだろう。わかるわかる。今まで辛かったろうなあ、想像するだけで涙が出てくる。……でもさすがにアーサーなんちゃらはちょっと……ねえ……。
「⋯⋯こほん。そろそろ説明してもよろしいでしょうか?」
ノルンがわざとらしく咳払いをして、話を進めようとする。ノルンの呆れたような表情を見た俺は慌てて首を縦に振った。
「気づいているかもしれませんが、彼の求めた特殊能力は「世界一のイケメンにしてくれ」です。エージさんには彼の能力を無効化する能力が働いていたので、元の姿に見えたということです」
「そんなことだろうと思ったー。…………あれ? 転生者自身に対する能力は無効化出来ないんじゃ無かったのか?」
「良いところに気がつきましたね。流石の私でも外見を作り変えることは出来ません。私が与えることが出来るのは、あくまで能力です。だから私は彼に人からイケメンに見られる能力を与えました」
……なるほど。おそらく、その能力はぶすお自身にも働いているんだろう。せっかく周りから見てイケメンになったのに、鏡見てブスだったら萎えるだろうしな。
でも、ぶすおとこれから関わっていくのに、俺だけブスに見えてたら色々やりにくいんじゃないんだろうか。
「なあ、ノルン。ぶすおのその能力をさ、俺にも効くようにしてくれないか?」
「なるほど、わかりました。ではその能力のみ無効化を解除しますね。後、ぶすおじゃなくてアーサーさんですからね!」
ノルンは俺に念を押して、何処かに消えていった。
目を開くとそこに居たのは一八〇センチを軽く超えるであろう身長で、足も長く、すらっとしたモデル体型の金髪の青年が、腕に抱えた動物を飼い主に返していた。そして、こっちを振り向いた時に見えた彼の肌は、色白でハリがあり、筋が通った高い鼻と、ぱっちり開いた二重まぶたを持つ、紛れも無いイケメンであった。
「本当のイケメンってああいう奴の事なんだな」
ダイチが感心したように俺に話しかけてくる。
……でもダイチ、残念ながら、ぶすおは偽りまくりのイケメンなんだ。彼には何一つ本当のところなんてないんだ。
待ってくれ、悲しすぎないかぶすお。
「なんで、お前泣いてるんだよ」
「世の中って非情だなぁって⋯⋯」
「まあ、確かにアイツと比べたら誰だってブスだもんな」
その言葉が余計悲しくさせているんですが。
ぶすお、俺は例え本当の姿がばれてもお前の味方だからな……。
「……やっぱりお前変な奴だな。ほら、学校入るぞ」
「…………わかったよ」
3メートル近くある校門を抜けると、巨大な校舎の前に四枚の白い看板が並び、その前で何かを確かめては生徒達は立ち去っていった。
看板に近づくとそれぞれA組、B組、C組、D組と書かれていて、その下に名前と番号がずらりと並んでいた。
「俺はA組だったよ。ダイチは?」
A組から順に見ていった俺はすぐに自分の名前を見つけることが出来た。しかし、ダイチはまだ自分の名前を見つけられていないようだ。
……おっと、ぶすおはB組か。ちょっとだけ残念だ。
「――んーっと、あった、D組だ! エージとは違うクラスみたいだな」
ダイチが残念そうな表情を浮かべる。
「まあ、同じ学年だからいつでも会えるさ」
俺がそう言うと、ダイチが「そうだな」と、ニッと笑いながら言った。
そしてダイチの差し出した拳にグータッチをして、「じゃあ」と一言だけ告げ、お互いの教室へ向かうのだった。