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Dracheschue

作者: はくろ

俺はセアレス。

世界を闇に包んだ魔王を倒すべく集まった屈強な戦士たちがいる酒場兼飲食店兼ギルドのサラ・マンジェで、一人ウェイターのバイトをしている。一応職業は「盗賊」だけど、ほかの盗賊仲間と違って俺はまだ何もスキルを習得していない。「ホーク・アイ」すら覚えていないおちこぼれだった。一緒に情報交換をしていたほかの盗賊仲間たちはみんな様々なパーティに加入していて俺は食い扶持も無いのでマスターに頼み込んでここで住み込みではたらかせて貰っている。


「おいセアレス、あそこの一行にビールな!」

「了解っす!」


俺よりも遅くやってきた奴等がどんどん仲間を見つけては旅にでている。くそ、このままじゃ俺は一生……


「っつ、た!」

「ァ、う…大丈夫?」

「あ、俺のほうは大丈夫……ってジュースかかっ……こ、これでふいてくれ!」

「はは、気にしなくてもいいよ。僕が前見てなかったんだし」

「いえ、俺こそ……あ、呼ばれてるから行くもんで、じゃあな!」

「あ…っ」


 考え事をしていたら少年にぶつかってしまった。まずい、装備からして「勇者」の予感だ……! 膨大な慰謝料とか請求されるんじゃないか!!! マスターに迷惑かけちゃいそうで怖い。


「お兄さん」

「あ……その、さっきは本当にすみませんでした!!勇者に、俺…ッ!」

「それは本当にいいって。僕も一緒に居た仲間に注意されたんだから。さっき使ってたこれ、お返します」

「いやそんな、気を使わなくてもいいのに」


 勇者さんから渡された俺の手拭を受け取る。受け取った瞬間、勇者さんがちょっときょとんとしてたけど、どうしたんだろう。俺がお礼を言うと、勇者さんはあどけない少年の笑顔を見せて、席へと戻っていった。一緒にいるのは……魔法使いと、僧侶か……。珍しいな、戦士がいない。


『どうでしたか、レイム?』

『やっぱりハミルの言うとおりだったよ。あの人、素質がある。』

『どうだかな……あいつ盗賊だろ? 盗賊ってよわっちいじゃねえか?すばやさだけがとりえの』

『これだから脳筋は』

『んだとぉ!?』

『キトネ』

『……わりい。けどよレイム、』

『レイムの直感を疑うんですか、キトネ? まぁ脳みそまで筋肉だるまの貴方がレイムの考えを理解できるとは思えませんけど』

『ハミルもキトネを挑発するのはいい加減にしようよ。もう、旅でてからずっとこんな感じなんだから』


 なんか盗み聞きすると喧嘩してる感じだなぁ。それよりも急いでマスターに頼まれてた洗い上げしないと。勇者パーティなんて、俺には一生無理な事だし。


「お会計、締めて20,568になります」

「あぁ!? おい兄ちゃん、数え間違いだろ!? 数字が一個少ないんじゃねえのか」

「注文された数とメニュー表に書いてある金額を照らし合わせた結果です!」

「はっ、そんな金、魔王を倒す俺たちに払わせようってか!?」

「……ぐぐっ」

「盗賊風情が戦士に逆らうんじゃねえ!」


 ぐさぐさと刺さったがマスターの手前、ここは耐えた。怒ったら、駄目だ。でもお金貰わないと俺の今月の給料が出ないんだよ!!!


「………。」

「あぁん?さっきまでの威勢はどうした盗賊の兄ちゃん」

「まぁこんなところでバイトしてる盗賊なんてたびに出たら即効お陀仏だけどな」

「よかったら俺らのパーティでパシリとして遣ってやるぜ」


「それは困りますね」


「「「!?」」」


 黙っていたら目の前のパーティの男たちが俺をパシリに使おうと話を進めていた。

 嫌だ!こんな男達のパーティに入ったら酷い目に遭わされる! 本当はこんなことしたくないんだけど、と唯一持っている武器「ポイズンアロー」で攻撃しようとしたときに、後ろからさっきの勇者さんパーティが介入した。

 うわ…ッ、ほ、惚れてしまいそうな綺麗なじょせ……え、男!?


「彼は僕達が先に目をつけていたんだよ」

「おいおい、ガキがイッチョ前にいきがるなよ!?」


 勇者さんが俺と男の間にはいって、自分の倍以上もある男を睨んで告げている。だけど子供だから、と男達は笑っていた。と、そこに黙っていたもう一人の屈強な男性(たぶん武闘家かなぁ)が後ろからその男の腕を捻り上げて酒場のドアから外に蹴り飛ばした。うわ、凄い……。


「どっちがいきがるな、だよ。おいレイム怪我はねぇか」

「僕は大丈夫だよ。」

「やれやれ、これだから脳筋はすぐ暴力に訴えようとする」

「あぁしなきゃレイムもこいつも巻き込まれるところだっただろうが! 零距離イグニスぶっぱしなかっただけマシだと思えよ!!」

「こんな店の中でイグニス・フラゴルなんて火炎系の大技打とうとする馬鹿も馬鹿ですがねぇ」

「ぐぐ…っ」

「おいてめぇら」

「「「ん??」」」

「ん?じゃねえよ!!俺ら馬鹿にしてんのか!!!」

「ハミル、キトネ」

「ったく、面倒だ」「了解です」


 リーダーを馬鹿にされて頭が沸騰したほかの仲間達が今の勇者さんパーティに向かって武器を出して襲い掛かってくる。戦士と武闘家と、僧侶だ!だけど、流れるような作業で、屈強な男の人は殴る蹴る、捨てるをしてるしもう一人の青年は持っていた棍棒で僧侶を殴り飛ばしてるし……ってあれ、勇者さんは?


「お兄さん、言いそびれたけど僕達のパーティに入らない?」

「へ? っていうか、君勇者だよね……? 仲間に任せていいの?」

「うん。だって僕、補助回復魔法専門だし」

「!!!」


 にこにこと天使のような笑顔で勇者さんは俺に告げた。というか、レジをしてる俺の横に居た。勇者っていえば前衛で仲間達を鼓舞して切り込むのが普通なはずだ。補助回復はむしろ僧侶の担当のはずじゃ……


「自己紹介が遅くなりました。僕はレイム。見ての通り勇者だよ。今あそこで大暴れしてるのが魔法使いのキトネと僧侶のハミル。二人とも旅を始めてからの僕の大事な仲間だ」


 レイムと名乗った勇者が紹介する話には、てっきり武闘家だと思っていた屈強な男が魔法使いで、女性のような美しさの青年が僧侶だった。おかしい……なんかおかしいぞ、このパーティ!


「はっ、雑魚が」

「はいはい、魔法軽減のマヒア・スクードすら出来ていないお頭が足りない僧侶をよりどころにしてるんじゃ、このパーティこの先勝てないな」

「ぐ、ぐぐ…っ、お、おぼえてやがれ!」

「てめぇらみてえな雑魚パーティ誰が覚えるか!」


「それでお兄さんの名前教えてほしいな」

「俺は……セアレス」

「セアレス、だね」

「!」


なんだ……!?勇者さんに俺の名前を呼ばれた瞬間、何が俺の心を、精神を重くした…?


「き、きみ…今、俺に何か…?」

「「!」」

「うん、やっぱりセアレスは素質あるよ。ハミル、キトネ、いいよね?」

「そりゃ『アレ』に勘付いて且つ耐性があるんじゃ、な」

「そろそろ前衛もほしかったことですし」

「ちょ、ちょっと待て……俺はまだ、何も」


 何か凄く嫌な予感がする。俺の第六感が告げている!断ろうとしたと矢先に、奥からマスターが出てきた。まずい、このままじゃ…


「おいセアレス、この騒ぎは何だ」

「あ、いやマスター、その」

「おじさんがここの酒場のマスターだね。セアレス、もらってもいい?」

「おい何勝手に」

「構わねぇぜ。勇者パーティに加入するならセアレスも本望だろ」


 あれよあれよと言う間に俺はこの怪しげな勇者パーティに加入することになってしまった。しかも登録までしちゃったもんだから抜けることは無理になってる。


「改めて自己紹介するね。僕はレイム。一応勇者だけど、補助魔法や回復魔法に特化してるんだ。主食は薬草だよ」

「俺はキトネ。魔法使いだ」

「おr……私はハミル。僧侶です、よろしくお願いします」

「……セ、セアレスです。盗賊、だけどまだホーク・アイを覚えてないんだ」

「はっ!?まじかよ!」

「……!」

「別にいいよ。これから覚えてもらえばいいんだし。ね、ハミル」

「そうですね。セアレス、あの脳みそ筋肉だるまのことは気にしないでください。あれは何をトチ狂ったか何故か魔法使いなんですよね」

「お前だって適正職業でに遊び人が最高ランクだったじゃないか」


 職業神殿が間違えた職業を選ぶなんておかしい……でも、このハミルさんという僧侶の男性はとても頼りになりそうだ。キトネさんは凄く怖い。


「では貴方にコレを」

「え?財布?」

「あと前の奴のお下がりだけどこれ装備できるよな?」


 二人から渡されたのは、財布と、どこかゆるゆるの「とうぞくのマント」と「さかなのたて」と「けだものフード」!?


「あ、あのキトネさん!俺男なんでけだものフードは着れません」

「いいんじゃねえの? 男がフード被ったって。こいつあったかくて防御力そこそこ高いしな」

「いや、その」


女性専用装備じゃなかったのか、これ……。

そして財布を見ると、中身が500Gしか入っていないんだけど! 数を確認し、ハミルさんに伝えると彼はにこりと涼しげに笑って俺に告げた。


「あの馬鹿がカジノで失敗して今それが全財産です。幸い装備は充実しているのでセアレス、貴方がレアアイテムを手に入れてくれれば私が換金してきますよ」

「手に入れるって、つまり盗め、と!?」

「その通りです。これからもよろしくお願いしますよ」


 死刑宣告を受けた気分だ。でも加入してしまった以上やるしかない。このひと達強そうだし、俺が一生懸命盗んでレアアイテム手に入れてくれれば戦闘では率先して戦ってくれるはずだ!


 こうして摩訶不思議な勇者パーティに加入してしまった盗賊セアレス。

 このメンバーが国王も真っ青の魔王フルボッコタイムで世界を救う事になろうとは、このときは誰も思わなかった。


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