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クリミア王国騒動記  作者: 毎日居留守
8/9

第一章 出会い

※1 パンツ一丁の略語。夏の暑い日、田舎のおっちゃんはよくこのスタイルで自転車に乗る(偏見)。



「大丈夫か!?」


 後頭部に直撃だった。衝撃のままに倒れこんだ少女に駆け寄る。ぱっと見たかぎり血は見当たらない。


「…いや、あんなの直撃して傷一つないってどういうことなんだよ。」


 頭を打っていたので極力動かしたくないが、流石にこんなところで裸のままうつ伏せに寝せておくわけにはいかない。


「柔らかい物を用意して、その上にゆっくり寝返りさせて、寒くないように――。」







「…んぅ……」

「お、起きた?」


 少女が微かな声と共にまぶたを動かす。それに気づいた勇太は近寄らないようにしつつ声をかける。目を覚ました少女はしばらく虚空を眺めていたが、やがて勇太の声がする方を見ようと体を起こす。


 パン一(※1)で爽やかな笑顔を浮かべている少年が、少女の隣に体操座りしていた。


「…そういう趣味ですか?」

「違うよ!?よく見て自分のところ!」


 焦ってよくわからない言葉使いをしている勇太に首をかしげるが、なんとなく意味は伝わったのでようやく自分の体に意識を向ける。

 よく見ると少女の身体を隠すように勇太の着ていたTシャツがかけられており、頭の下には畳まれたジーンズが枕代わりに置かれていた。


「…なるほど、ありがとうございます。」

「ああ、分かってもらえたんならいいよ。頭打ってたけど、大丈夫?吐き気とかはない?」

「確認します。システムチェック開始。」

「………。」


 一方、勇太は内心首を傾げていた。


(なんというか、ちょっと雰囲気変わった…?)


 さっきまでお手本中のお手本(服装以外)、マニュアルを擬人化したようで感心したような胡散臭いような雰囲気をまとっていて気圧されていたのだが、目を覚ました彼女は完璧な隙のない雰囲気が無くなってこれまでよりはとっつきやすくなっているような、そんな気がしたのだ。

 正体が不明なのは相変わらずであるが。


「システムチェック終了しました。」

(…やっぱりロボットとかその類いなんだろうか?)

「最終記録を保存する予定だった大脳辺緑系に損害発生、同時に最終目標ロスト。普遍的な活動に支障はありません。」

「えっと、つまり大丈夫だと?」

「わかりやすく言えば、生活に問題はありません。ですが私は、この世に生まれてきた意味を失ったようです。」

「重いよなんか!!」


 勢いで立ち上がって突っ込もうとしたが、パン一なのを思い出して浮き上がった腰を落ち着かせる。


「…というか、地球人の保護っていうのは?それは違うのか?」

「それは副目標です。可能なら遂行することになっています。」

「な、なるほど…。」


 先ほどまでの笑顔はない。表情筋がピクリとも動かない、何を考えているのか全く分からない表情だ。

 ますます人形じみてきたなと、勇太はぼんやり考える。


「…えっち。」

「いや、生まれてきた姿を堂々と晒していたクセに何をいまさら。」

「…おかしい、コレをすると地球人の男は喜ぶって記録があったのに。」

「…たぶん、状況が違うんじゃないのかな。」

「なるほど、勉強になります。」


 勇太は頭を抱えてしまった。


「それで、今後の相談なのですが。」

「切り替え速いな…うん、なに?」

「私も勇太さんと共に行動したいのですが、よろしいでしょうか?」


 少女の提案に勇太が一瞬呆けるが、すぐに我に返る。


「あ?ああ、街までね。いいよ、俺も帰らなくちゃいけないし。」

「違います。ずっとです。」


 今度はなかなか我に返ることが出来なかった。


「私の生きる意味は消えてなくなりました。そこで考えたのです、何のために生きればいいのかと。すぐに答えが出ました、副目標のために生きればいいのだと。」


 少女はそっと勇太に指を向ける。


「そして勇太さん。今、私の目の前にはあなたがいます。よって私はあなたを保護したい。そしてあなたも保護を必要としている。」

「べ、別に必要としているだなんて…。」

「この世界の文字は読めますか?」

「うっ…。」

「お金の単位は?価値は?衣食住の大体の相場は?」

「うう…。」

「この世界での常識に自信がありますか?」


 勇太は目をそらす。少女の勝ちだった。


「では、共に行動するということでよろしいですね?」

「………よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


 勇太が頭を下げたので同じく少女も頭を下げようとしてかけていたTシャツが自由落下しそうになったので慌てて胸を抑えるように声を張り上げるが、少女は何を言われているのかよく分からないようで首を傾げるというのどかな光景が繰り広げられた。




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