第一章 出会い
とにかくここから出ようと広場へと戻る勇太だったが、ここである重要な問題が一つ発生する。
「…俺、どこから来たんだっけ?」
迷ったのだ。
しかし、のんびりとしてはいられない。後ろからは蹄の音が迫ってきている。
「っ!…ええい神様!あのダメそうな女神さまじゃなくて日本神話の神様!お願い助けて!」
すぐそばにあった通路に駆け込む。この先がどうなっているかは分からなかったが、贅沢は言わずに走った。脇にある部屋には入らない。どんな地雷が待っているか分からないし、ヤツから少しでも距離を取ることを優先する。
そして、見えてきたのは頑丈そうな扉だった。
「出口じゃないのかよコンチキショウ!神様って碌なことしないな本当に!」
悪態つきながら扉に手をかけるが。
「っ!重いなこの扉!」
渾身の力で開けようとしているが、勇太の力では少しずつしか開いてくれない。頑丈そうな造りにふさわしい重さであった。
しかし、ゆっくりもしていられない。後ろからまたあの音が迫ってきている。脳裏によぎるのは自分の後ろで聞こえてきた扉が弾け飛ぶ音。体当たりしたのか蹴り飛ばしたのかは分からないが、もしあの力がそのまま自分に襲ってきたら…。
「は、早くっ!早く開けよッ!!」
血の気が引いているのが自分でも理解できた。けれども、扉の方はマイペースにしか開いてくれない。それどころか、多少錆びついているところがあったのか、手にかかる抵抗が徐々に強まりつつある。
だが、ようやく一人分のすき間ができた。
「っしゃキターーー!!!」
即座に体を滑り込ませる。そして何もしていないのに勢いよく扉が閉まった。
どうやらギリギリだったらしい。ヒッポグリフは体当たりで扉を突破しようとしていたらしいが、ここの扉の強度が勝ったらしい。その後も叩きつける音が何度も聞こえてくるが、破られる気配はしない。
「はぁ…はぁ…っ…ざまあみろ!その足じゃ取っ手を掴むなんてできないだろ!!………本当、馬の足でよかった。」
前足が鷲だったら、多分扉に対応されて死んでいただろう。そんなことを思いながら何度ついたのか分からない、安堵の息をこぼす。
「そういや、ここ何の部屋だ?えらく頑丈だけ…ど…。」
そこまで言って、後ろを振り返った勇太は言葉を失った。
「…はは、なんだこれ?というか、何なんだよこの世界。」
混乱した勇太から飛び出したのは、「夢から目が覚めてよくよく考えたら意味が分からなかった。」そんなことを言いたげなセリフだった。
―――これも現実さ。ようこそ、剣と魔法の世界へ―――
どこか遠くで、女神が皮肉たっぷりに囁いた。
勇太の目の前には、全裸の少女が横たわる水槽があった。