第一章 出会い
無事に森にたどり着くと、辺りを見回す。迷うことはなかった、というより迷いようがなかった。
門を出てすぐの街道をまっすぐ行って、道案内の看板が見えたらそこをすぐに左に曲がる。そうすると目の前に見える森が依頼にあった森。
(うん、ここだよな。)
街を出る時に朝と同じ門番がいたので挨拶がてらに場所を聞いてみたので間違いはないはずである。
(しかし、想像していたより暗いな…)
勇太が想像していたのは日本の里山のような明るい森だった。しかしこの森は多少人の手が入っているものの、生活に必要な範囲を最低限整備しているだけなのでそこまで日が入るわけではないのだ。
「んー、なんか不安だけど…しゃーない、行くか。」
ここでずっと休んでいても仕方ないだろうと歩を進める。勇太は世間で若者の陰口のように言われるほど都会っ子ではないのだ。初めての森ではあるが慎重に歩いていけばどうにかなるだろうと気合を入れる。
「目指せ今日の宿代!幾らぐらいかは知らないけど!」
≪30分後≫
「…迷った。」
ジーパンのポケットが依頼の薬草(と思しき草)でいっぱいになった頃、気づけば勇太は自分がどこにいるのかわからなくなっていた。随分と深い場所に来てしまったらしく、木々の間から街道が見えることはない。
「どーしようかコレ…最悪ここで野宿か?だったら黒曜石とか落ちてないかな、確かアレってナイフにすることが出来るんだよな?」
それさえあれば鳥ぐらいは捌けるだろうと思い、再び周りを探索し始める。そもそもどうやって鳥を捕まえるのか考えず。
その時だった。後ろで草をかき分ける音が聞こえてきたのは。
「…?なんだろ今…の………。」
反射的に振り返った勇太の目にまず飛び込んできたのは、象牙色の鋭い嘴だった。
金色のつぶらな瞳、森に似つかわしくない純白の体毛、大地を蹴りつける逞しい四本足、その巨躯に見合った雄大な翼。
勇太は知っていた。元の世界ではヒッポグリフ(※1)と呼ばれるこの『存在するはずがない』生き物を。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「―――――――ッ!!!!!!」
そこから先は無我夢中であった。叫び声をあげながら動かなくなりかけていた体をどうにか動かして逃げ始めるが、その叫び声に反応してヒッポグリフも恐ろしい叫び声を轟かせる。
振り返って道を確認する、そんな恐ろしいことを今の勇太にする余裕なんて一切なく、そのまま森の奥へ奥へと進んでしまう。
※1 グリフォンと雌馬との間に生まれた子ども。鷲の頭と翼に馬の身体を持つ。