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爆男

総理大臣をはじめ、多くの国会議員やマスコミ関係者が犠牲になった。日本中が大パニックに陥った。某国のテロ行為だとか、某海外組織のテロ行為だと情報が錯綜した。


外出を控え怯える国民を勇気付けたのは、警視総監の北野剣だった。彼はマスコミを通じて、


「第二のテロは我々、警視庁が全力をあげ必ず防ぎます。国民の皆様を必ずお守りします」


と不安がる国民に力強く語りかけ続けた。


優子さんとまた会うことができたのは、爆破事件発生から5日後だった。とは言っても優子さんから連絡があったは、聡さんのほうだった。着替えが足りなくなったから、聡さんに持ってきてほしいと優子さんが頼んだのだ。



2016年10月12日ー


「優子がこんなに遅れるなんて珍しいな」


僕と聡さんは足立西警察署近くの公園で、優子さんを待っていた。優子さんの服が入った袋を持つ聡さんを見ると、やっぱり夫婦なのだと羨ましくなる。


「なんだ、優子の下着が見たいのか?」


「違いますよ!」


「ははっ。そんなムキになるなって」


この人はいちいち僕を苛立たせる。


「あの時、どうして俺を助けたんだ。俺が死んだら優子はフリーになるのに」


「そうなんですよ。なんで僕はあなたを助けてしまったのでしょうか。何度考えてもわからない」


「柔道を習っていたのか?」


「いえ、まったく」


すると、聡さんが突然、殴ってきた。


「痛っ!何するんですか?」


「やっぱりどんくさいな」


そう言いながら、聡さんが拳に力を入れる。次の瞬間、本気で殴ってきた。僕はヤバイと思い、とっさに避けた。


「なるほど」


「なるほどじゃないですよ。避けなかったら死んでますよ」


「お前は、身の危険を感じた時の防衛本能がすごいんだな」


「やっぱりあなたバカですね!そんなこと試すために殴ってくるなんて」


「バカとはなんだ!」


「ほらっ、バカって言われて怒るのはバカの証拠ですよ」


「なんだと!」


「また暴力ですか!警察呼びますよ」


「刑事ならここにいるわよ」


「エッ?」


僕と聡さんが同時に反応する。横のベンチに優子さんが座っていた。


「いつからそこに」


また、僕と聡さんが同時に言う。


「あら、気が合うじゃない」


「誰がこんな殺人鬼と」


「こっちこそなんでこの筋肉バカと」


「ふふっ、あなたたちのバカ面見てると少しほっとするわ」


警察署に何日も泊まりこんでいるのだろうか、優子さんはやつれていて、言葉にいつもの力強さがない。


「職場まで持って行ってやったのに」


聡さんが優子さんに服が入った袋を渡す。


「ありがとう。外にも出たかったし、署内の雰囲気もなんか窮屈になって」


「北野の影響か?」


「爆破事件発生後、総監はかなり独裁的になっているわ」


「北野さんはテレビの街頭アンケートで、次期総理大臣になってほしい人で断トツの1位になっていましたけど…」


「噂だけど、2ヶ月後の選挙に出馬するみたいだわ。総監宛にチリ地震の記事がのった新聞と、『次はお前だ』と書かれた脅迫文が送られてきたの。それで総監は、こんな犯罪者がはびこる国ではだめだと出馬を決意したらしいわ」


僕は釈放された日にマンガ喫茶で見た、チリ地震のニュースを思い出した。


「あっ、チリ地震で最初に報道された犠牲者の数は475人」


「そう、衆議院議員の人数と同じ…」


「テロじゃなくて、爆男の仕業…こんなの死の清算じゃない…」


「おいおい、一般人が国会議事堂を爆破はできないだろう。しかも、国会議事堂にはマスコミや、警備員もいたんだし、これは無差別テロだと思うが、違うのか?」


「問題はそこよ。これが死の清算者の犯行だとしても、一般人では無理…」


僕は嫌な予感がした。


「爆男は、政府関係者なんですか…」


「可能性は高いわね。それと、もう一週間もキューピッドが死の清算を行っていない。その代わりに、日本刀を使う『マサムネ』が話題になってるわ」


「まだ共食いを…」


「君は間違いなく、あの日、甲田さんを見たの?」


「はい。甲田さんが逃げろと言ってくれなかったら、今頃どうなっていたか…」


「甲田さんは何を知っているのかしら…」


「もしかしたら、爆男の正体に気づいているのかもしれません」


「そうね…。ああ、それから千里が、君に泊まりに来てほしいそうよ。私も心配だから、行ってあげて」

「わかりました。夕食を食べてから行くことにします」


「それがいいわね。あと、あなたは何の調査で国会議事堂に行っていたのよ?」


「守秘義務があるから話せない」


「僕も何度も聞いているんですけど、バカの一つ覚えみたいにこれです」


「バカだと!」


「ほらっ、すぐムキになる。バカの証拠ですよ。ね、優子さん…あれ?」


優子さんの姿はもうなかった。


「こんなに元気がない優子を見るのは2回目だな」


「前回は何があったんですか?」


「旦那さんが、自殺したんだよ」


エエッ?優子さんにはまだ結婚歴が?


「十歳年上の弁護士で、今優子が大切に乗っている車も旦那さんのものなんだ」


「弁護士…」


「とは言ってもお前の親父みたいに高額な報酬をもらったりせず、困っている人を助けていた」


「どうして自殺を?」


「それについては、優子から直接聞くんだな。君のことを信頼できたら、話くれるかもな」


人にはどんな過去があるかわからない。

僕が殺してしまった人たちには、どんな過去があったのだろう。


「大丈夫か?顔色悪いぞ」


今回のテロが本当に爆男の仕業なら、全部僕のせいだ。僕のせいで、何百人もの犠牲者が…。

止めなければ。これ以上、死の清算を行わせてはいけない。はじまりを作った僕が終わらせるんだ。

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