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品川にある聡さんの部屋(正確には聡さんと優子さんの部屋だがそれは認めたくない)は、意外とキレイにされてあった。間取りは恐らく2LDKだろう。


「優子がいつ帰って来てもいいようにキレイにしてあるんだよ。残念だったな」


「何がですか?」


「カップラーメンのゴミとか、飲みかけのペットボトルが散乱しているダメ男を期待していただろう。自分で言うのもなんだが、俺は卵を食べられないこと以外は、優子にとって最高のパートナーなんだよ。夜の相手としても」


わざと挑発して僕の反応を伺っているのか?それとも無神経なバカなのか?それよりも僕は、子供が住んでいる様子がないことにほっとした。


「聡さんは、どんなお仕事をされているんですか?」


興味はないが、他に聞くことがない。


「殺し屋さ。…なんてね」


やっぱり、殺人免許証を使うべきか…。こいつを殺して、残酷な死刑とやらから解放されることが最善の方法に思えてきた。優子さんにも喜んでもらえるかもしれない。もしかしたら、ご褒美のキスがあったりして…。


「おーい、何ニヤついてるのさ?俺は自分が調査したいことを、自分から相手に申し入れる探偵だ。相手から依頼を受ける仕事はしていない。かっこいいだろう」


「…そうですね」


優子さんはこの筋肉バカのどこに惚れたのだろう?セックスがよほど上手なのだろうか?


「ちょっと待ってろよ。今、ステーキ焼いてやるからな」


筋肉バカらしく厚切りの肉を焼き始める。


「これをワサビ醤油で食べるのが最高…しまった!」


いちいち声がでかい。


「うわー、醤油買ってくるの忘れちまったよ。まったく卵のせいだ」


おいおい、なぜ卵のせいになる?


「もう焼いてしまったよ…。最悪だ。楽しみにしてたのに」


ドン引きするくらい落ち込んでいたので、昨晩コンビニで買った醤油を鞄から出して渡した。


「よかったらどうぞ」


「お前、どうして醤油を持ち歩いているんだ…もしかして…」


聡さんはフライパンのステーキに目を移す。


「…殺した人間を食べたりしないですよ、僕」


「そうだよな…ははははっ」


「そうですよ…ははははっ」


「今日は、そこのソファで寝てくれな。寝室のベッドは優子も使うし…」


「泊めてもらえるだけありがたいですから」


こんなデカ男でも、連続殺人犯と同じ部屋で寝るのは怖いみたいだ。


「こげてますよ、肉」


「ああ…今日はしっかり焼いて食べたい気分なんだよ。はははっ」


「うおー!」


僕が叫ぶと、聡さんは動揺して、フライパンから肉を落とす。


「び、びっくりさせるなよ。急に大声出して」


聡さんは、動揺を隠すように落とした肉をゆっくり拾う。


「すみません。発作で」


「…なんの発作だよ」


「ちょっと大声を出したくなって」


なるほど、からかうと面白いタイプ人だ。優子さんにとって最高のおもちゃだったのだろう。セックスだって大したことないはずだ。むしろ優子さんに夢のようなことをされていたんだ。ああ、殺したいほど羨ましい。



2016年10月7日ー


爆発でも起きたのかと思うくらいの大音量で、目覚まし時計が鳴る。僕はソファから飛び起きて、聡さんの部屋へ行く。

地声が大きすぎて耳が悪くなったのか、それとも肝っ玉がすわっているのか、聡さんはぐっすり眠っていた。耳が痛くなる目覚まし時計を止めようと近づくと、聡さんはサッと起き上がった。


「な、なんだよ」


人の気配にはすごく敏感だ。


「おはようございます。目覚まし時計がうるさくて」


「ああ、悪い悪い。昔から朝が弱くてな」


「寝る前にステーキなんか食べるから、胃に負担がかかって睡眠の質が悪くなるんですよ」


「懐かしいな、優子も同じようなこと言っていたや。昨日ステーキを食べたのは、今日大事な調査があるからなんだ。朝飯を食べたら出かけるぞ」


「エッ、僕も一緒にですか?」


「優子に見張るように言われたからな。さぁ、朝飯をたっぷり食べよう!」


そう言うと、聡さんはベッドから出て、僕の背中をバシッと叩く。

朝からテンションが高いこの人は、テレビをつけて占いの結果が悪くても気にしないことだろう。

そして、今日このナルシスト探偵と一緒に出かけけないといけない僕の運勢は、最下位に決まっている。


マンションの駐輪場へ行くと、


「ほいっ」


と聡さんが僕に鍵を投げる。僕は取り損ねて落としてしまう。


「どんくさいな。それでよく連続殺人なんてできたな」


「…自転車で行くんですか?」


「当たり前よ。最近は電車も人身事故でしょっちゅう遅れるから、23区内なら自転車が一番いい」


もっと早く教えてくれたら、朝食をしっかり食べていたのに。


「お前は、優子のを使え」


優子さんの自転車を見ると、本当に聡さんと結婚していたんだなと思い知らされる。


「じゃ、行くぞ」


「ちょ、ちょっと待ってください」


優子さんの足は僕より大分長く、サドルを低くしないと足が地面に届かない。


「早くしろよ。約束の時間に遅れちまう」


だったらもっと早く起きればいいのにと思いながら、サドルの高さを調整する。

待ちきれなかったのか、聡さんは声をかけずに勢いよく自転車をこぎだす。僕も立ちこぎをして、置いて行かれないようについていく。一緒に行きたくはないが、聡さんに負けるのは嫌だ。


それにしても、都心を自転車で走ることがこんなに心地よいとは思わなかった。そして、東京がこんなに狭かったことを実感した。人とぶつからないで生きていくのは不可能な街だ。東京そのものが、事件製造装置に思えてくる。


そんなことを考えていたら、聡さんが見慣れた建物の近くで止まる。


「ここら辺に停めて行こう」


「調査の相手って…」


「ああ、国会議事堂にいる」


いったい何の調査をしているんだ?相手は誰なんだ?

「ビビってんのか?早く行くぞ。時間厳守がモットーなんだ」


自転車を停めると、僕は聡さんと国会議事堂へ向かって歩いていく。

すると、あの人が険しい表情をして立っていた。

そして僕に向かって、


「逃げろ!爆発するぞ!」


と大声で叫ぶ。

僕は聡さんに大外刈りをかけて倒し、とっさに伏せた。次の瞬間、大爆発が起こり、国会議事堂が崩壊した…。

僕と聡さんに大きな怪我はなく、聡さんは急いで救助に向かう。僕は目の前の光景が信じられず、動くことができなかった。

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