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2017年1月12日ー


半ば無理やりに長いこと休むことになったが、今日から職場復帰だ。容疑者を追いながら、捜査中に身内からも襲われないように気をつけねば。しかし、私のそんな気合は空回りとなった。休んでいる間に交通課に異動となっていたのだ。


「はい、制服。これに着替えて」


交通課の巡査部長、佐伯吾郎が、私に制服を渡す。ななしの組織の仕業に違いない。辞令には逆らえないので、私はしぶしぶ制服を受け取る。


「こ、これ…」


着替えて出てくると、周りの視線が痛い。


「どうして、私だけスカートなのですか?」


「それは…」


これもななしの組織の仕業だろうか。私を辱めて、辞職させようとしてもそういかない。


「それは、ワシの好みじゃ」


「えっ?」


「せっかくの美脚を隠すなんてもったいない」


エロ部長の佐伯が、私の足をなめるように見ている。お前の好みだったのか…。エロジジイ!と殴ってやりたいが、上司に手は出せない。


「やっぱり、スカートがいいねえ。スカートを普及させよう。うん、うん」


この佐伯部長、署長に昇進する目前で素行に問題があり、交通課に異動になったと噂で聞いたことがあったが、本当にそうだったとは…。


「さあ、区民を守るために、高科君とパトロールに行っておくれ」


「わ、わかりました」


「高科です、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


私より若く、ぱっつん前髪がかわいい、やや小柄な子だ。

一緒にパトロールに行く高科さんはパンツをはいているから、隣に並ぶと余計にスカートをはいている自分が恥ずかしくなる。


「いいですね、スカート」


「えっ?」


「女性らしくて、素敵です」


「そ、そう」


同性に褒められると、なかなか嬉しいものだ。


「部長、私もスカートにしていいですか?」


「ウソッ…」


「もちろん、いいとも。いいとも」


佐伯が鼻の下をのばしている。


「高科さん、本気なの?」


「私、松永さんに憧れていたんです。だから、一緒に働けるようになって嬉しいです。すぐに、着替えてきますね」


「う、うん」


スカートを恥ずかしがっていた自分がなんだか恥ずかしくなる。周りと違うという尺度を使ってしまったのは、私が弱いからだ。それに比べて、自分の意見をしっかり言える高科さんはかっこいい。こうなったら、堂々と交通違反者を逮捕してやる。


この日、私と高科さんはパトロールに出かけ、交通違反摘発の新記録を樹立した。


「松永さんと一緒だと、違反者が素直に認めてくれるので、スムーズに進んで助かります」


と高科さんはニコニコ顔だ。千里と同じく、自然と周りを元気にする太陽タイプの子だった。こんなに笑顔を浮かべていたら、違反者によっては強気に反抗されていたことが察しられる。



2017年1月14日ー


勤務を終えた私は、高科さんを誘い、千里のマンションに帰る。


「お姉ちゃんの新しい相棒の高科さんね。悪いけど手伝ってくれる?」


「あっ、モデルの…おじゃまします」


千里はろくに挨拶もせずに、高科さんをリビングへ連れて行く。


「お姉ちゃんも早く手伝ってよ」


リビングでは、聡が料理をつくっていた。


「おお、おかえり。今日は、俺がシェフだ」


それがいい、せっかくのお祝いだから。


「こうでいいですか?」


高科さんは、積極的に飾り付けを手伝っている。


「そうそう。お義兄さんがぜんぜんセンスなかったから助かるー」


「えっ、松永さんの旦那さんですか?」


「もうすぐ、お別れだけどね…」


「おい、まだ2ヶ月ちょっとチャンスがあるだろ」


「なんだか、楽しそうですね」


みなまで聞かずに、高科さんはニコッと笑う。


「高杉くんは?」


「翔太さんには、楓ちゃんと買い物に行ってもらってるの。それまでに準備しなきゃ」


「高杉…翔太…松永さんが逮捕したあの高杉翔太もここに?」


「そうよ。言ってなかったかしら」


「でたよ、優子の言った気がする病」


「なによ!本当に言ったつもりだったのよ」


「でも、聞いてないって言ってるだろ」


私と聡がケンカを始めようとすると、


「あ、あの、私、聞いていました!すっごく暗くて、全然喋らないんですよね」


取調室の様子を知っていた高科さんが、話を合わそうとしてくれたが、聡も千里も同調しない。


「もう喋ってないで、飾りつけしよう」


と千里がフォローする。


私も飾り付けを手伝い、作業を進める。聡は得意のローストターキーを作っているのだろう。リビングにいい匂いが広がる。


「えっ?びっくりするじゃない…」


リビングの入口を見ると、高杉くんと楓ちゃんが立っていて、二人とも泣いている。


「で、電話しても…出ないから…上がってきたら…」


「あーあ、間に合わなかった。楓ちゃんの合鍵預かるの忘れちゃったなー。いつからそこにいたの?」


「楓のために、こんなに準備して…」


「そうだよ、楓ちゃん、ハッピーバースデー!」


千里がそう言って、クラッカーを鳴らす。パンッ、パンッ、パンッ。私と聡と高科さんも後に続く。


「楓ちゃん、お誕生日おめでとう!」


「ありがとう、ありがとうございます…」


「もう、どうして翔太さんまで泣いているのよ」


むしろ高杉くんのほうが号泣している。


「それじゃ、楓ちゃんも一緒に飾りつけしよう!」


「うん、楓もチサネエと一緒に飾りつけする」


「松永さん、子役の楓ちゃんとも知り合いだったんですね」


「千里と同じ事務所に所属しているの」


「楓ちゃんのお誕生日会に参加できるなんて、私、ラッキーです」


急な誘いで、かなり個性的なメンバーの集まりなのに、高科さんは嫌な顔一つしなかった。


「もうすぐ、名店の秘伝レシピで作った絶品ローストターキーが焼けるからな」


「楓ちゃん、ガサツな人だけど、この人が作るターキーはおいしいわよ」


「わーい、楽しみ!」


楓ちゃんは、子役ならではのリアクションをしてくれる。


「どうして秘伝のレシピを知っているんですか?」


「探偵には守秘義務がある」


「ははーん、勝手にレシピを見たんですね?」


「な、なに言っているんだ。ちゃんと習ったんだよ」

「どうだかなー」


「あんまりしつこいと殴るぞ」


「危険人物罪ができたら、聡さんすぐに逮捕されちゃいますね」


「それはない」


「どうして?」


「俺が総理大臣になるからだ」


「えーっ!」


私以外の全員が口をあんぐりさせ驚く。


「あれ、言ってなかったかしら」


「お姉ちゃん、聞いていないよ…」


「もう推薦者も集めた。今度の補欠選挙に俺は立候補する!」


「立候補って、どこの政党で?仲間はいるんですか?」


「俺はつるむの嫌いだ。だから、政党とかは作らない」


「もう本当にバカですね!それじゃ総理大臣になれませんよ!」


「いや、なれる!政党なんか裏切って、自分の信念に従って支持してもらえるように、俺は国会で暴れるんだ!北野を倒してやる!」


「楓も応援する!」


「本当かい、ありがとう!」


「千里ももちろん、応援するよ!」


「しょうがないな、僕も…」


「いや、翔太は出てくるな…イメージが悪くなっちまう。よーし、今日はいっぱい食べていっぱい飲もう!」


「わーい!」


「失礼な!せっかく応援してやるって言っているのに!」


「先輩、楽しくなってきましたね!」


おい聡、楓ちゃんのお誕生日会が、お前の決起大会みたいになっているぞ。


私が聡を見る冷ややな視線に気付いたのか、


「ユウネエ、気にしないでいいよ。翼、楽しいから」


と楓ちゃんがささやく。


「よかった」


吉村翼が上条楓を受け入れて歩き出している。

この日は、何度も乾杯をした。楓ちゃんの誕生日、聡の出馬表明、私と高科さんとの婦警コンビ結成、千里の写真集の発売、高杉くんと聡がおそらく100回目のケンカをした記念、となんでもかんでも理由を作っては乾杯した。


そして、場が最高に盛り上がったところで、千里と高杉くんと一緒に私は楓ちゃんが好きなアイドルグループ『ファンタスティック肉女魂』の曲を歌い、ダンスを踊る。恥ずかしがらず、私は全力を尽くした。


いつの間にか、一緒に踊っていたはずの千里と高杉くんも座って見ている。


「お姉ちゃんすごーい!」


「どうして?」


「優子さんの迫力があまりにすごいから、僕たち圧倒されて…」


「ユウネエ最高!」


「先輩、かっこいい!」


「惚れなおしたぜ、優子」


最悪なことに、千里がその様子をスマホで録画していた。


「ちょっと、何撮っているのよ!」


「ひひひっ」


「千里、YouTubeにアップしたら許さないからね」


「わかっているよ。お姉ちゃん。ひひひっ」


ダメだ、確実にネットに流出する…。

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