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現実

今晩はどんな豚野郎を殺してやろうか。俺はワクワク感を抑えることができず、早足で待ち合わせの部屋へと向かう。

ノックをすると、ひげが気持ち悪い中年男がドアを開け、中に入るよう手招きする。もうすぐ死ぬとも知らずに、ニヤついてやがる。


「何か飲むかね?」


「ウイスキーをロックで」


「はっはっはっ、おもしろい子だ」


「さっさと済ませようよ。シャワーを浴びてきてもいい?」


「その必要はないよ」


「君が噂の裸婦か」


バスルームに潜んでいた中年男2人が出てくる。


「おしおきの時間だ」


ひげ男が俺をビンタする。


「いてーな!豚野郎!」


後ろから蹴られ、俺は倒される。

そして、慣れた手つきでロープで縛られ、椅子に座らされる。


「すいぶん捜したよ。弟が君に殺されてからもう5ヶ月か…」


「殺し過ぎて、誰だお前の弟かだなんて覚えてねーよ。そして、お前のひげ面だって、明日には忘れているさ」


「はっはっはっ、君に明日はもうないんだよ」


「この状況を理解しろ、お前に助かる道はない」


「どうやって、痛めつけてやろうか」


中年男3人のマヌケ面に我慢できず、俺は嘔吐する。


「今さら、ビビってもおせーんだよ!」


「うがいしたいから、もう終わらせるよ。地獄で弟と会いなよ」


「はっはっはっ、こいつイカレテやがる」


「5、4、3…」


俺は死のカウントダウンを始める。


「おい、何呟いているんだ」


そして、部屋の灯りが消える。


「な、なんだ?」


「死ぬ前に教えてあげる。武器って、拳銃とかナイフとか物とは限らないんだよ」


「だ、だれだお前…」


「うわっ…」


「や、やめろ…」


間もなく、部屋に灯りがつく。俺を縛っていたロープはナイフで切られ、解かれている。


バスルームに向かうと、手足を縛られた中年男3人が全裸でぎゅうぎゅう詰めでバスタブに入っていた。俺はバスタブに水を溜める。


「た、助けてくれ…」


「俺はこいつに無理やり頼まれて、仕方なく」


「殺す気はなかったんだ…本当だ。それに、俺たちを殺すと死刑に」


俺は、豚共の顔をふんづけ、黙らせる。


「俺はこれを持っているから裁かれない」


最後に殺人免許証を見せてやり、こいつらのスマホ3台をバスタブに落とす。

はい、終了。中年男3人が仲良く感電死する。


事故を起こした人を助けようとして、ひき逃げされてしまった女性のための死の清算だったが、2人多くなっても構わないだろう。

ここまでは順調だったのに、さわがしい来客がやって来る。


「この部屋であっているのね」


「ああ、信頼できるルートからの情報だ」


「千里よ、ここを開けて!」


「聡さん、一緒にタックルしましょう!」


「よし、任せとけ!」


やれやれ、これ以上騒がれてはたまったもんじゃない。俺がドアを開けると、高校生くらいのお姉さんが抱きついてくる。


「無事でよかった!」


そして、地味な服装だけどキレイな女と、体格のいい男と、憧れの神が、バスルームの死体を見つける。


死の清算を始めた神と会えるなんて思ってもいなかった。握手してもらえるかな。サインをもらえるかな。写真は絶対に撮ってもらおう。


「これ、君がやったの…」


神が私に尋ねる。


「うん。俺が殺してやった」


「うわあーっ!」


どうして?褒めてもらえると思ったのに、神が奇声を発して泣き崩れる。


「あなたが裸婦だったなんて…」


「ちくしょー!こんな子にこれほどむごいことをさせるとは…この国はどうなっているんだ!」


「ごめんね、千里がもっと早く止めてあげれば…」


他の3人も泣いている。どうして?どうして泣いているんだ?


「あのさ、神のことは知っているけど、お前たちは誰なんだ?」


「えっ、何言っているの千里だよ、チサネエだよ」


「チサネエ?俺はそんな奴知らない」


「さっきから俺って、喋りかたが変だぞ」


「もしかして、あなた…お名前は?」


「俺の名前は翼。吉村翼」


「それって、楓ちゃんの本名…」


「ああ、お前たち楓の知り合いなのか」


神は相変わらず泣き崩れている。楓が神と知り合いだったなんて嫉妬してしまう。


「楓の知り合いって、どういうことだよ」


「二重人格…なのね」


「そうだよ。俺は両親に虐待されながら必死に生きていた。食べられるものはなんだって食べた。それでも、餓死寸前だった。そんなとき、街でゴミをあさった帰り道にスカウトされたんだ。周りに虐待がばれないように、あいつらは顔だけは殴らなかったからな。そして俺はとっさに、楓というぶりっ子を作ったのさ。生きるために…」


神をはじめ、全員が何を言っていいのかわからず、言葉が出てこないようだ。


「そしたら、あっという間に天才子役になってさ。あの鬼畜共は手のひら返して、楓のいいなりさ。俺が蹴ったり、殴ったりしても文句ひとつ言わない。」


「どうして、死の清算を…」


神が俺の目を見て、やっと喋ってくれた。


「俺と同じように虐待されている子供たちの復讐のためです。大人たちを、特に力にものを言わせる男共を始末しました」


「僕が、千里ちゃんの家に泊まりに行ったとき、夜中に水を飲みに来たのは君だったんだね」


「はい。誰か始末しに行こうと思ったのですが、見張られていたのでやめました。まさか、ソファで寝たふりをしているのが神だとは知らなくて、挨拶せずにすみませんでした」


俺が頭を下げると、神たちはキョトンとしている。


「くそっ、こんな子供が完全に連続殺人犯の思考回路になっちまってる」


「千里は気付いていたの?」


「楓ちゃんは普段はニュースも新聞も見ないのに、バスルーム殺人事件のニュースにはなぜか敏感だったの。それに、楓ちゃんの鞄には犯罪者のエッセイが入っていて、おかしいなって思っていたけど…」


「それで千里も読んでいたのね」


「本当にこんなことをしているなんて…。でも、お姉ちゃんもお兄さんも、私が裸婦じゃなくて喜んでいるでしょ」


地味な服の女とデカイ男は、沈黙している。


「翔太さんは違うわよね」


「僕は…楓ちゃんが裸婦なんて絶対に信じたくなかった。千里ちゃんであってほしかった…僕は、まだ9歳の女の子を連続殺人犯にしてしまったんだ…」


神まで、楓、楓ってうるさい。


「なんで楓ばっかり愛されるんだよ!どうして誰も俺を…俺を…」


あれっ、俺が泣いている?もう涙は枯れたんじゃなかったのか?


「助ける…僕が翼を絶対に助けて見せる」


そう言って、神が僕を抱きしめてくれる。あったかい、あったかすぎて、涙があふれてくる。


「今はまだその方法がわからないけど…約束する」


神は体を離し、俺の目をまっすぐに見つめる。

俺は小指を立てて、


「指切り」


と子供じみたことを頼む。


「うん」


神は僕と小指をまじわせ、


「指切りげんまん、ウソついたら針千本飲ーます」


と歌ってくれた。


「それから、僕の名前は、高杉翔太。神なんかじゃないから、翔太兄さんって読んでもらえるかな」


「わかった。翔太、兄さん…」


「千里のことはチサネエでいいよ」


「うん…」


「帰ろうか…」


チサネエが俺の腕をとって、部屋から出ていこうとする。


「ちょっと、千里…」


「お姉ちゃん、この子は逮捕させないわよ。しばらく、家で暮らしてもらうから」


「そうだな、俺もそれがいいと思う。こんな子供逮捕するなんて酷すぎる…君、殺人免許証は持っているのかい?」


俺は頷いて、殺人免許証を見せる。


「ななしの組織は、こんな子供にも…」


地味な服の女が声を震わせる。


「行きましょう。翼ちゃん」


「僕も一緒に行くよ」


「ありがとう。翔太さん」


俺はチサネエと翔太兄さんと手をつないで、豚の匂いがする部屋から出た。

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