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北朝鮮、遂に勝つ……わけねーだろ(´・ω・`)

 朝鮮戦争(韓国戦争)は第二次世界大戦を経験した世代が、新旧入り乱れた兵器を扱い戦った戦訓溢れる戦場だった。

 北朝鮮軍が南侵を初めて僅か1ヶ月程で朝鮮半島の南端に国連軍は追い詰められた。南朝鮮軍は、これ以上下がる事は出来ない。

 ROK第1師団長白善燁はこの戦いで不滅の栄誉と武勲を打ち立てた。この時、右翼を守る東海岸でも危機が訪れていた。ウォーカー中将は手持ちの予備兵力を全て投入し穴を塞ごうとした。

 もしこの時、五十川橋が爆破されていなければ……、もしも第23連隊が高地を維持していたなら。気楽な妄想小説を書いてみた。



 山には雨が降っていた。それも血の雨だ。ぬかるんだ地面で泥と血にまみれた兵士達が居た。彼我の血で彩られた戦場、朝鮮半島は現代に現れた地獄だった。

「戦線を縮小し体勢を建て直す」

 1950年7月31日、米第8軍司令官ウォーカー中将は国連軍に後退命令を出した。

 戦場では彼我共に第二次世界大戦を経験した世代が指揮官を占める割合は高く、素人相手の戦闘よりも一層凄惨な物へと変えた。

 整理された新たな抵抗線は洛東江東岸に沿った120KmのX線を米軍が、東海岸まで150KmのY線を韓国軍が担当する。

 一方、北朝鮮側は国連軍主力である米軍を洛東江正面に拘束しながら東海岸の山脈を走破、側背を突こうと動いた。

 川を背後にして樹木が群生する山中に韓国第3師団が稜線に沿って陣地占領をしていた。師団司令部は中腹に位置する。

 戦線を建て直すべく金准将は首都師団から第3師団へ移動命令を受けた。

「李准将は更迭?」

 これまで第3師団が遅滞戦闘で敵の進撃を遅らせてきた功績は師団長である李の全般指導もあった。事前に受けた状況報告によると、浸透した敵によって第3師団は指揮機能が麻痺したと言う。だからと言って、師団長が解任される理由とは思えなかった。

(俺に死ねと言う事か……)

 金は日本軍でも出世した方で、親日の売国奴、民族に対する裏切り者と見なされ参謀長の丁一権中将に疎んじられていた。前線送りにされたのも手腕を見込んでと言うより、中央から遠ざけたかったとも考えられる。

(祖国が侵略の危機だと言うこの時に派閥争いとは、飽きれる……)

 不満はあっても命令は命令だと、金は第3師団に着任した。幕僚から状況報告を受ける中、金は計画の見直しを考えた。

 第3師団は五十川を南下したNKA第5師団に対し長沙洞で抵抗線を構築する計画だった。だが敵に主導権を握られたままとなる。

「予備隊を出してくれ。3師団主力をもって逆襲に転じる」

 司令部に詰めていた幕僚の顔が一気に血色良くなってきた。これまでの消極的な防御と後退にはうんざりしていた。

「反撃だ、反撃!」

「北の奴等をぶち殺してやる」

 みなぎる闘志。鬱積していた敗北と後退疲労を吹き飛ばす物だった。

 古巣である首都師団は李の反攻に両手をあげて歓迎し協力した。アメリカ人に上から指図され逃げるだけ、守るだけの状況を終わらせる。

 作戦は単純、日本軍お得意の銃剣突撃を喚声あげて行う乾坤一擲の逆襲だ。



「暇だな……」

 中村芳彦は三重県四日市市生まれで、戦時中に召集され大陸に渡った。

 終戦後、八路軍の捕虜になった中村は国民党軍との戦いに駆り出され帰国する事も叶わなかった。だからと言っても共産主義に転向した訳ではない。生きていく為だ。そして現在、北朝鮮への応援として中国から派遣されていた。

 中村は後方の弾薬庫警備に当たっていた。眼下には弾薬受領のトラック、故障して置いていかれたT-34戦車が見えた。

 周囲は山。高い見張り台の上で飛んでくる蝿を定規で叩き潰す位しかやる事はなかった。

 ふいにT-34戦車の砲塔が玩具の様に吹き飛んだ。

「何だ!?」

 これまで守勢に回りたまに射つ弾にすら困る韓国軍が、迫撃砲に榴弾砲とかき集めてきてここぞとばかりに投入してきた攻撃だった。

 降り注ぐ砲弾に続いて沸き起こった突撃の喚声で中村にも敵襲とやっと分かった。

 山林から沸き出して来る韓国兵。

「おいおい、此方が勝ってるんじゃなかったのか!」

 中村は見張り台の中で身を屈め嵐が過ぎ去るのを待つしか出来なかった。鬼気迫る表情で突撃してくる兵士達は地獄の亡者も逃げ出す勢いだった。

 第3師団の逆襲成功は第1軍団司令部に届けられた。

「江口を奪還した?」

 金からの報告に第1軍団司令部は混乱した。

「第3師団はなんだってそんな所に居るんだ? 誤報じゃないか」

 東海岸では潰走する敵を追撃して反撃が始まった。兵站計画を無視した追撃は好ましくない。だが現場は動き出してしまった。

「首都師団は青松方面に前進中との事です」

「おい何を考えてるんだ。戦線に穴が開いてるじゃないか!」

 状況を把握していない為、韓国軍の動きは連動していなかった。その結果、ここでつけを払う時が来た。

 首都師団の抜けた穴を通過したNKA第12師団は永川へ前進、第2軍団の後背を脅かした。結果、第2軍団は後方が遮断される事を怖れ部隊を後退させた。事実、右翼の第8師団はNKA第15師団、第12師団に挟撃されようとしていた。後ろや横から降り注ぐ砲弾は韓国軍の士気を簡単には打ち砕いた。

「装備は放棄する。撤退を急げ!」

 重火器の類いは放棄され小銃を持っていれば良い方で、ほとんど着の身着のままで逃げ出した。

 韓国軍の後退によって米第1歩兵師団、英第27歩兵師団は敵中に突出する形となった。韓国軍と違い車輛や重火器の類いを装備しており、徒歩で山中を走破すると言う訳にもいかない。

「ふざけやがって。あいつら、俺達を見捨てる積もりか!」

 助けに来てやっていると言う思いと立場からすれば裏切りだった。側面の崩壊は大きく影響した。4個師団の圧力を一気に受けた第8軍は戦線の後退を余儀なくされた。

 韓国軍の方は悲惨だった。すんなりとは行かず、河陽至るまでの後退で第1、第6、第8の3個師団は包囲撃破され、第2軍団は消滅した。避難民の数を含めると開戦以来最大の死傷者が出た。

 国連軍司令部の執務室で戦闘報告を受けていたマッカーサーは、韓国軍の急激な戦線崩壊について意見を求めた。

「朝鮮人の思考は分かりません」

 参謀長の言葉にマッカーサーはパイプを吹かしながら答える。

「全面的に同意するが、彼らの前で公言はするなよ。我々は彼らを助けに来たんだから」

 友軍を見捨てた韓国軍の損害に、正直な所でざまあ見ろと言う気持ちもあった。だが最高司令官の立場上、発言には責任を持たねばならない。

 マッカーサーは密陽までの後退を命じながら、朝鮮半島からの撤退も視野に入れていた。

「ともかく、我が軍の将兵は助け出さねば成らない」

 前線では、第8軍後方ががら空きになり北朝鮮軍が浸透し始めていた。しかし戦線の崩壊を阻止できる兵力はどこにも無かった。この瞬間、南朝鮮の放棄、アメリカ軍の撤退は決定事項となった。

「我々は何処に逃げろと言うのだ!」

 韓国政府はアメリカ政府に撤退の再考と援助を求めたが、沈む船に残りたがる者は居ない。




 釜山の港湾施設が艦砲射撃で破壊されている。沖に遊弋する国連艦隊が北に接収されて使わせない為だ。アイオワ級戦艦の16インチ主砲が遺憾無く能力を発揮している。

「逃げ遅れた韓国人が居るようです」

 非戦闘員多数が孤立していると韓国軍からの救援要請が来た。だが反応は冷淡だった。

「自分のケツぐらい自分で拭けと言ってやれ」

 揚陸舟艇で輸送船に向かいながら、腹に鳴り響く様子を眺める海兵隊員達の表情は他人事の様だった。彼らにとっての戦争は終わった。

 最後まで残って後衛を勤めていた海兵隊の部隊が撤退したその日、マッカーサーの進言を受け入れた大統領は、朝鮮半島を焦土と化すべく原子爆弾の投下を決定した。

 北が戦争の勝者と言えるかは難しい所だった。朝鮮半島は不毛の大地に変わるからだ。

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