早く家に帰ろう!
日中間の領土問題に韓国が首を突っ込んだ。
その時、日本はめんどくせーなコイツと思いながらお仕置きに動く。
小さな島でわざわざ地上戦やらなくても終わるんじゃない? そう思って書いてみたよ。
尖閣諸島は日中の係争地だった。今までは――――。
中国に警戒の目が注いでいるうちに、大韓民国海軍揚陸艦「独島」が接岸し海兵隊が大極旗を揚げて島を占領した。
「あいつ等何を考えているんだ」
上陸作戦は海兵隊の十八番だが、東シナ海の係争地に韓国が首を突っ込む訳が解らない。占領したとしても朝鮮半島から離れた島は海上交通路を維持する事が困難だ。
何にしても、国際社会では舐められたら終わりだ。自国領に侵攻した敵は断固として排除すると証明する必要がある。
沖に展開するのは海上保安庁の巡視船「琉球」「首里」、海上自衛隊第二護衛隊群の護衛艦8隻+イージス艦。
今回の事件に対して現場指揮権は海幕、自衛艦隊司令部の通達により第二護衛隊群司令の中村海将補が預かる。
護衛艦「あっそう」命名の由来となった阿蘇山の俯瞰写真を飾った会議室に各艦船の責任者が集まっていた。
目的は情報共有による安全管理、事故防止と掃討作戦の要領と基準の作成にある。
潮焼けした健康的な女性海上自衛官がスクリーンの前に立つ。1尉の階級章が見えた。
彼女は手元のパソコンを弄りながら説明する。
「朝鮮日報に先ほど『独島』独立の宣言文が掲載されました」
「独立?」
スクリーンにプロジェクターに繋いだネットの記事が映し出される。
「本件に韓国国防部は関与していないとの事ですが、疑わしいですね」
揚陸艦「独島」は大韓民国海軍の誇りであり、その保守・警備も徹底している。簡単に奪取できる代物ではない
「特殊戦司令部かKCIAあたりが一枚噛んでるのは間違いないだろう」
海上自衛隊には独自の特殊部隊として特別警備隊が存在するが、今回の制圧された離島奪還では西方普通科連隊や中央即応連隊、特殊作戦群と言った陸上自衛隊に主役を譲ることになる。特警隊は呼ばれる事無く、西方普通科連隊が出張って来ていた。
「敵の編成は渡洋能力から考えて大隊規模と考えられる。装備に関しては添付書類の別紙を参考にしてくれ。西方普通科連隊はヘリコプターで上陸してもらう。井上3佐、どうですか?」
陸上自衛隊の迷彩服を身に纏った井上は西方普通科連隊から中隊を率いてやって来ていた。鍛え上げられた筋肉で迷彩服ははちきれそうで、海の男とは違った貫禄を持っていた。
「島に降りる事さえできれば、後は本職に任せてください」
相手は生え抜きの海兵隊。餅は餅屋と言う事で、沖縄の旅団から機動戦闘車を装備した増援が輸送艦で来る。それまでに橋頭堡を確保する事が井上の任務である。
「あっそう」の後部甲板で発艦準備をしているSH-60Kは対潜ヘリコプターだが汎用機として輸送にも使われる事もあった。今回も完全装備の西方普通科連隊隊員が対潜魚雷やソノブイの代わりに乗せられる。一度に送り込まれる部隊は2個小隊。決して多いとは言えないが、輸送艦の居ない現状ではピストン輸送するのが精一杯だった。
「死ぬ気で行け。敵前逃亡は陸上自衛隊の恥だ。死んでも任務を果たせ」
井上の無茶苦茶な訓示で気合を入れられた隊員は、この事件が世界の注目を浴びている事を自覚する。
ネットでは皆殺しにしろ等と物騒な書き込みが上がる事もあるが、物事は簡単に進まない。追い出す努力はしました。それでも無理だったので、やむを得ず殺しましたと言う証明が必要だ。
SH-60Kには正・副操縦手の他にペイロードの限界まで普通科隊員と装備が乗り組む。
班長の一人である佐藤2曹は26歳。ローンを組んで買った家には妻と息子が待っている。子供は幼稚園に入ったばかりで可愛い盛りだ。
(息子と久しぶりに遊びに行く約束をしていたのに……これが終わったら代休消化を申請しないとな)
佐藤の目は休日の予定、家族団欒を潰されて怒りに燃えている。
低空飛行で島に近付くヘリコプターを援護するために、島の反対側で護衛艦が陽動の艦砲射撃を開始した。「独島」にも遠慮なく射ち込まれている。
「派手にやってるな」
小さい島だ。井上からも様子は見えた。砲弾の弾着と爆発音に混ざって韓国語らしい悲鳴や怒鳴り声が聞こえて来た。
砲撃が終わると敵の拠点となっている「独島」に接近する。防空火器、対艦ミサイルの類は事前に排除しておきたい。
陸揚げされた物資や装備は満足な隠掩蔽が出来なかったようで先程の砲撃で粗方吹き込んでいる。
「連中、良い仕事をしたな」
牽制程度の砲撃とは言え期待以上で、海上自衛隊の練度を見せ付けてくれた。
忍び寄った特殊部隊隊員が敵の歩哨を素早く倒す場面が映画やゲームの中である。現実はもっと簡単に進んだ。まともな陣地も構築できず砲撃で混乱した敵は警戒も手薄だった。
「あほが」
ドラム缶をバリケード代わりに抵抗する敵の姿に侮蔑の言葉が佐藤から漏れる。
ドラム缶の用途は色々あるが多くは燃料を入れる。引火しやすい危険物を盾にして弾を防ぐなんてあり得なかった。遠慮なく銃撃を浴びせるとドラム缶は吹き飛んだ。
爆発の衝撃が映画のように敵兵をなぎ倒して行く。
部下の手際の良さに口笛を吹きたくなった時、通信士の背負った携帯無線機が井上を呼び出した。
『方針に変更があります。総理からのお墨付きで島の生態系は気にしなくて良いそうです。ですので艦砲射撃で島を徹底的に叩きます』
「……自分達を呼ぶ必要は無かったんじゃないですか」
疲労感から非難めいた言葉が漏れた。
『申し訳ありません。相手は海兵隊ですからじっくり叩く予定だったんですが、これも上の判断で政治ですね』
井上が敵との接触線から中隊の後退を報告すると、沖の護衛艦が砲撃を再開した。
今度は全艦総出で全島火の海と言った有様だ。燃え盛る木々や植生する植物に混ざって化学製品の燃える臭いがした。
「護衛艦に比べたら特科の砲撃なんてお遊びに思えるな」
狭い島では避難する場所も限られる。韓国軍は艦砲射撃の効果を存分に堪能した。
上陸した韓国海兵隊の指揮所は破壊された「独島」の残骸から離れた場所に開かれていた。
周囲の木々も偽装材料も綺麗さっぱり吹き飛んでいる。
「電話線が切れたのか無線が破壊されたのか、2中隊本部と連絡が取れません」
指揮官は部下の報告に疲労感を漂わせながら、そうかとだけ答えた。
上空で爆音が聞こえた。偽装網の下から見上げるとF-2戦闘機が通過していた。爆弾を投下し終わり沖縄の基地へ帰還する編隊だ。
「落ちたな……」
瞬間的に2中隊が爆撃を受けたと理解出来た。
損害はそれだけでは収まらなかった。両翼の中隊は海上からの砲撃で壊滅していた。防衛線を縮小し負傷者を後送し再編成していたが、空自まで加わっては持ち堪えられそうも無い。
支援の無い状態で大隊を送り込んだ所で維持できるわけが無かった。本国からの増援は望み薄い。
「……降伏しよう」
「大隊長! それではこの戦いは何のためだったと言うのですか!」
幕僚の言葉に大隊長は首を振る。
「国益の為と言うが、それも日帝に意地を見せ付けたかっただけかもしれん。初めからこの島は我々の領土ではなかったのだからな」
いつも弱腰の日本。速やかに領土を掠め取る計画だった。
だが、自衛隊がこうも積極的に反撃してくる事は想定外だった。
「それは敗北主義者です! 我々はまだ戦えます」
敗北を認める事は出来なかった。軟弱な日本人。自分達の方が優れていると言う自負があった。
「部下をこれ以上死なせる事は出来ない。これは大隊長としての決定だ」
食い下がらない幕僚を説き伏せ様としたが、納得せず銃を向けた。
「貴方の指揮権を剥奪します」
取り押さえられる大隊長。
「馬鹿か。この状況で戦えると思っているのか!」
大隊本部の幕僚は副大隊長に指揮権の継承と指揮を求めた。
「これより大隊の指揮を私が取る。海兵隊の名誉にかけて死ぬまで戦え」
大隊本部の指揮所に居た全員が銃を手に最後の時に備える。
かくして抵抗は虚しく2日間で事件は終息した。