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細菌戦の楽なクリアの仕方

■滅菌作戦


 BC兵器は核兵器に比べれば製造・入手しやすいと言う事もあって、中高生の知識でも作れる。問題は管理だ。日本酒やワインよりも扱いは注意されねばならない。

 イディ・アミンはウガンダ近代化の父と言え、強力な指導力でウガンダを導き繁栄させた。タンザニアとの戦争では外人部隊を積極的に起用する事で勝利し、大幅な譲歩を引き出す事に成功したが、ウガンダの産んだ偉大な英雄アミンの築いた平和も長くは続かなかった。2013年、中部アフリカの小国で発生した内戦は周辺諸国を巻き込む戦争へと発展した。この戦争は核兵器を除く通常兵器による戦争だった。とはいえ国土を荒廃させるには十分だった。

「タンザニアはウガンダに再び負けてしまう!」

 ウガンダとの戦争に疲弊したタンザニアは、起死回生の策として極秘裏に生物・化学兵器を開発、実戦投入しようとしていた。

 大量破壊兵器の製造を察知したウガンダはビクトリア湖湖畔に建設された研究施設へコマンドー部隊を送り込み、研究資料の抹消と施設の破壊を実行しようとした。

 元南アフリカ軍特殊部隊出身の白人が指揮を取る奇襲作戦は、アンゴラのソヨで行った物と同様の手口だった。

 未明、偵察ティームを乗せたゴムボートが先行して橋頭堡を確保すると、民間船を徴用したLSTが接岸、研究施設に急襲をしかけた。LSTから吐き出されたコマンドー達が警備兵を排除する中、低空飛行のヘリコプターがやって来て増援を降ろす。ロシア製のガンシップMi-24とMi-17で知られる機体で、展開能力は随一だ。

 鳴り響く銃声と爆発音。施設が完全制圧されるまで時間はかからなかった。

 地面に飛び散った薬莢と血溜まりを踏み歩きながら指揮官は部下から捕虜の扱いについて尋ねられた。

「投降は認めない。全員殺せ」

 優秀な化学者の頭脳は脅威となる。当然の選択だった。大抵の科学者は英語を理解できる。ぎょっとして抗議の声をあげようとしたが、背後に並んだ兵士によって射殺された。


     ◆◆◆


 研究所の敷地に4ストロークV型12気筒液冷ディーゼルのエンジン音が響き渡る。中国製62式戦車だ。

 ウガンダコマンドー部隊の攻撃に対して、警備の兵は殺害される前に警報を流していた。タンザニア軍は虎の子の機甲旅団を投入、研究成果の持ち出しをさないように港湾を封鎖した。

「奴らの目的は施設の破壊と研究員の殺害か。詳しい事は捕虜を確保すれば分かることだな」

 こちらは兵力で勝っていると旅団長の強気に対して、ウガンダコマンドー部隊は手強く、「市街戦でまともな掩護の無い戦車は脆い」と実証してくれた。

 一方的な蹂躙をするつもりで前進した62式戦車だったが、軟らかい装甲がRPGで撃ち抜かれ損害が続出し始めた。世界最強と言われる米軍ならともかく中小国の国防予算は限られている。効果な最新兵器と違いメイドインチャイナは脆かった。

「敵RPGで戦車中隊に損害が出ております」

 随伴歩兵と航空機の掩護も付いているが、欧米のような先進国の軍隊ではない。

「畜生、だから中国人から安物を買うのは反対したんだ!」

 その言葉が全てを物語っていた。

「旅団長」

「今度は何だ」

 旅団司令部に尖兵を命じた中隊から緊急連絡が入った。研究施設の試薬が漏れたらしく友軍に被害が出ている。報告内容は「射殺した敵兵が立ち上がり襲いかかってきた」と言う衝撃の内容だった。

「意味が分からん……」

 考えられたのは流出した試薬により幻覚を見ていると言う事だったが、実際にゾンビと化し襲い掛かってきたウガンダコマンドー部隊にタンザニア軍機甲旅団の先遣大隊は混乱に陥っていた。

「糞っ! 奴らは何故死なないんだ!」

 機関銃で胴体を切断されても、這い寄って来る。悪夢のようだった。

「大隊長、ヘリに支援要請をして後退しましょう」

「あほう。この程度で逃げられるか!」

 頭さえ潰せば機能は停止していた。頭を狙えと指示が出た。

 トラックを盾に小銃を撃ち続けるがウガンダコマンドは怯まず近付いてくる。すでに彼らは生者では無く化物だった。

 装甲車の車載機関砲が敵を掃射する。引き裂かれ肉の断片に粉砕される人体。弾の消費が激しい。

 旅団司令部経由で報告を受けた大統領府は混乱した。

「あそこで研究していた細菌に死体を動かす力はありません。簡単に言えば狂犬病の伝染で暴動を起こさせる。その計画でした。何らかの化学薬品が混ざった為に突発的に生まれた副作用でしょう。ともかうく漏洩したとなると、被害が拡散する前に滅菌作戦を行うべきです」

 中部アフリカの部族は、蝿から採取した細菌で死者を蘇らせ敵を襲わせていたという伝承がある。採取し培養された細菌を元に、タンザニア軍が細菌の感染力を強化し開発したウイルスは結果としてゾンビを生み出した。

 噛み付かれれば被害者も感染してしまう。敵国に使用し共食いで自滅させる計画だった。被害の予想数値は自国に収まらず世界を含んでいた。

「分かった。軍は必要な処置を全てとれ。これは大統領命令だ」

「了解しました」


     ◆◆◆


 研究施設の外に通じる通路は全て封鎖される事になった。トラックでバリケードを作り感染者を外に出さない様にした。

「負傷者の後送を急げ」

 バリケード長くは持たない事は分かっていた。撤退命令が下されたタンザニア軍は輸送機に乗り込み撤退していく。

 仕上げに爆装した殲撃六型、七型、MiG-15UTI、セスナ206、PA-28、Y-5の編隊が気化爆弾を投下した。掻き集められた機体は雑多な旧式機。機体も気化爆弾も中国製だが研究施設を破壊するには十分な威力だ。

「施設の破壊を確認。動く物は無い」

 ベル 206が爆撃戦果を確認し生物災害の阻止に成功。ウガンダ、タンザニア両国は戦後、公式記録から本件を抹消した。



■ある生存者の記録


 ゾンビなんて糞だよ。そう思っていた時期もありました。ゲームでガンガン射ち倒していると簡単に殺せる。映画を見ていればもっと上手くやれとも思いました。

 しかし、いざ危機に直面すると訓練のされていない一般人が動けるわけも無かった……。

 最初がいつだったのか記録は曖昧で正確な資料は残っていない。アフリカで地域紛争をやっているとか、ポテトに歯が入っていたとか、センター試験廃止とかのニュースに流されて埋もれた事件だったのかもしれない。

 気がついた時には福岡県と大阪府で感染者による暴動が発生していた。

 警察官が発砲しても向かってくる暴徒は狂気染みていた。某国の扇動とワイドショーやネットで取り上げられたが、事態はそんなちゃちな物ではなかった。

 死者が甦り人を襲い増殖する。ゲームや映画で見慣れた生物災害のあれだ。

 ワイドショーでは災害時のあんちょこ本が話題になっていた。

 まあ白昼、街を徘徊する死体を見れば余程の馬鹿でもなければ状況は理解できた。

「長崎県知事ペク・ヘジン氏によるとこれは政府による陰謀で――」

 宛にならないTVの内容にうんざりして俺はリモコンで電源を切った。

 俺の名前は田中一郎。昼間からTVを見ているがニートではない。

 世間で言う地方の三流大学を卒業してサトームイカドーに社員として就職した。社名は「一週間に六日開いて一日はお掃除する」と言う経営方針から来ている。

 考えれば分かる事だ。人が休んでいる時に働き、サービス業はいつ休むのか。

 答えはシフト制だ。誰かが働いている時にで誰かが働かなければ社会は成り立たない。

 公休日の前夜、酒を飲みながら海外TVドラマを明け方近くまで見ていた。昼まで寝た俺は熱いシャワーで目を冷ましジーパンとシャツを羽織ると外に出かけた。持っていくのは携帯電話と財布のみ。

(あ?)

 やたらと自衛隊の車輛が道路を行き来している。爆音で頭上に視線を向ければヘリコプターの編隊が通過していた。

「すっげー……」

 治安出動ではなく防衛出動を命じられた自衛隊だ。ぼんやりと車列を眺めていると高機動車が目の前で停まり助手席に座っていた自衛官に声をかけられた。

「君、避難勧告を聞いてないのか?」

「え、避難?」

 俺の住む街にも遂に避難勧告が出ていた。

「後ろのトラックに乗りなさい」

 避難民を乗せたトラックに俺も乗せられた。他の人は手荷物を持っているのに俺だけ手ぶらなのは場違いだ。

「堀口君?」

「ん」

 奥に詰めていた女性から声をかけられた。小中で同級生だった杉原良子。中学の頃、髪を染め先生に逆らい驚くほどビッチになっていて失望した事を覚えている。

「ああ、久しぶり」

 杉原の隣にいた彼氏だろうか、牽制する様に視線を向けてきた。面倒臭い奴だ。

 トラックが急ブレーキをかけた。将棋倒しにされる中、這い出すと外で銃声が聞こえた。幌の隙間から外を覗くと死者の群れが襲いかかっていた。

 映画の様にパニックになって叫ぶ馬鹿は居ない。息を殺して災厄が過ぎ去るのを待つ。

 銃声が止んだ。そして何かを咀嚼する音が聞こえてくる。

 考えるまでもない。幌の端をしっかりと握りしめ外から気取られないよう注意を払った。

 どれくらいの時間で過ぎ去ったのか分からない。音が止むと外をそっと窺った。

 幌の隙間から感染者と目が合った。暗く濁った瞳で、こちらに気づいたのか歯を剥き出しにしてやって来た。

(やってしまった!)

 叫び声を合図に押し合いになる。丈夫な幌で破ける代物ではないし、出口は感染者に塞がれていた。

 杉原の彼氏が叫び声をあげて飛び出した。馬鹿野郎と殴りたくなったが、感染者は此方を忘れて彼氏を追いかける。動く獲物の方が目立つらしい。

「ざまあ見ろ」と思う気持ちと「囮になってくれて有り難う」と言う気持ちが沸き起こった。で、日がくれると俺達は外に出たんだ。



■ある中学生男子の場合


 午前七時。朝起きて最初にする事は携帯の目覚ましを消してパソコンの電源を入れる事だ。

『ゾンビによる世界の終末やって来た』とニュースが盛り上がっている。

(今年のエイプリルフールはゾンビ一色か)

 4月1日はエイプリルフールで馬鹿ニュースをネタでやってる事も多い。だが俺はこののりについていけない。

「新学期か。だるい……」

 今日から中学三年生になる。クラス割りと入学式が主な行事だ。

 二階の自室から一階に降りる。台所では母さんが朝食の準備をしているはずだ。

 だがいつもと違った。

(あれ?)

 台所には電気も着いてなく人の気配も無かった。

(どこかに出かけたのか)

 とりあえず洗面所で顔を洗い朝食が用意されていないか確認する。テーブルの上には朝食どころか書き置きのメモも無い。

 とりあえず冷蔵庫にあったコーヒー牛乳を飲んだ。

(パンでも買いにいくか)

 登校まで時間はまだある。近所のパン屋まで自転車を走らせる事にした。

 財布を取りに行くと玄関を出た。

「え」

 家の外で誰かが倒れていた。そして群がっているのはお迎えの飯田さん所のおばさんと、信也君だ。何かくちゃくちゃと音をたてて食べている。倒れた人の上で何を食ってるかは簡単にわかった。

(あーゾンビですね。死んでますね。)

 信也君が口元を血に染めながらこちらに顔を向けてきた。

「お、おう……」

 目が白目を剥いていた。あれで物が見えているのかは分からない。

 だが危険信号を本能が告げていた。

 家に戻って玄関の鍵を閉めた。

「何だってんだ。どうなってるんだ。ドッキリじゃねーよな?」

 携帯を取り出して父さんや母さんに連絡するが電話には出てくれない。

「どこ行ったんだよ!」

  両親が心配だ。そして恐怖が沸き出して来る。

 二階の自室に急いで戻った。

 身を守る武器になりそうな物探す。

 野球は趣味ではないのでバットは持っていない。兄貴の趣味で集めている電動銃やガス銃はアルミ缶を撃ち抜くがゾンビ相手には玩具でしかない。

(くそ、どうする。どうするんだ!)

 洗濯物の物干し竿を見て「ねこじる」を思い出した。二階から野犬を刺していた。

 台所には行って包丁とガムテープを取ってきた。物干し竿にしっかりと固定する。

「これで槍の代わりにはなるかな?」

 強度が脆いので、切るより刺す事にしか使えない。

 身を守る武器が一応手に入り、これからの事を考える。

 下手に外をうろついて襲われても助けは望めない。親が帰ってくるかもしれないので家で籠城しようと考えた。

「あ、水だ」

 水道がいつ止まるかも知れないので水を保存しておく事にした。それと携帯も充電して置く。

(そうだ。懐中電灯と電池もいるよな)

 水と食糧を部屋に運び込んだ。最悪、家に侵入されても自室で籠城する。

 日本の場合、外国みたいに略奪や暴動は無いと思うが備えておくべきだ。

 ネットはまだ生きているので掲示板に書き込んで見た。他の人は既にこの異常事態に気がついた様で、どう生き延びるか具体的な話し合いをしていた。

(スーパーやショッピングモール、コンビニは買いだめの客が一杯か。こんな状況でも出勤って、日本人は異常だろ)

 中学に電話すると今日は休校で自宅待機しろと連絡があった。親の会社に電話をしたらようやく父親に繋がった。

『雄一、父さんは仕事で帰るのがいつになるか分からない。母さんを守ってやってくれ』

「でも母さんは朝起きたら居なかったよ」

 父さんの返事を聞く前に電話が途切れた。ついにライフラインにも被害が出始めたようだ。

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