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否定されたので世界を蹂躙すると決めました

 チート能力を持って過去へタイムスリップした。祖国日本の勝利に貢献しようとするが不審者扱いされ攻撃を受ける。彼は自分を受け入れない世界に失望し世界に戦争を仕掛けた!


 もし世界がもう少し優しければ彼の運命は変わったのかもしれない。

 この物語の主人公である前原浩二は大学一年生の秋、大学中退をした。理由は色々ある。内に籠る性格がマイナスに作用して、学内で友達も出来ずに孤立した事が大きい。

 両親に言わせれば友達作りの失敗は、失敗の内に入らない。今までの学費をどぶに捨てたような物で、甘えるなと言う事だった。当然、大学を辞めたなら働けと言ってきた。

 初めの内は前原も就職活動を行った。「何で辞めたの?」と就職の面接で尋ねられても答えられない。親には家を出て行けと言われ、妹には「キモい」と馬鹿にされる日々だった。

 遊ぶ相手も居ないが買い集めた電動銃やガス銃が部屋の片隅で埃を被っていた。積み上げられたミリタリー雑誌の傍らに転がる血塗れの妹だったモノをぼんやり眺める前原。

(殺してしまった……)

 死体を処理しなければと風呂場に運びこむと、押し入れからノコギリを探しだした。死体を細かくし数ヵ所に分けて棄てる考えだ。ゴミ袋を用意する。さすがに食べたり、性器だけ持ち歩いたりする気違いではない。

 風呂場に戻った瞬間、頭を殴られた。

「ファッ!?」

 血塗れの妹が鬼のような形相でお湯をかき混ぜる棒を握っていた。

「調子に乗るなニートの屑が!」

 風呂場に押し倒され馬乗りに成った妹に首を絞められている。

 生きていたと言う喜びも大きかったが自分は殺されようとしている。意識が途切れた──。


《第1回目の挑戦》


 目が覚めると薄暗い留置所の中に居た。なぜ分かったかと言えば、格子のはめられた部屋だったからだ。

(警察に逮捕されたのか……)

 現実感が無く、逆に心が落ち着いていた。

 状況から考えて妹は正当防衛だ。自分もそう証言するつもりだ。

(俺みたいな屑ニートと妹の人生を引き替えには出来ない)

 兄としての自覚を取り戻し、これからの事を考えていると廊下に明かりがついた。

 やって来る足音に訊問が始まるのかと緊張する。

 扉が外に開き声をかけられた。

「出ろ」

 外には旧日本軍に似た軍服姿の男達が居た。腕に憲兵の腕章がはめられ、襟元には金色の特別徽章が輝いていた。

(何これ)

 状況が把握出来ないまま取調室に連行された。

 コスプレにしては凝っているが、そんな姿で取り調べを行う理由が見当たらない。

(もしかして、これってタイムスリップか?)

 調書に昭和十六年と書き込まれている日付が見えた。

「名前は」

「前原浩二」

 その後、現住所と職業、生年月日等を聞かれた。

「平成だと?」

「昭和天皇が亡くなった後の元号です」

 憲兵が激怒して前原を殴った。

「ふざけるな! 大元帥陛下が亡くなった等と戯言をほざくとは、この非国民め! ぶくぶく肥えやがって。共産主義者(アカ)の手先か、この豚が」

 諡号は亡くなってからの呼び方であり、他の憲兵も倒れた前原を足蹴にした。

「待ってくれ、俺は未来から来たんだ! 話せば分かる!」

「黙れ国賊」

 目を閉じて体を丸めた前原に対する憲兵達の攻撃は止まない。

 前原はネット掲示板の利用やネット小説の読書を好み、威勢の良い意見に影響を受けていた。第二次世界大戦中、NSDAP政権下のドイツが行ったユダヤ人絶滅のホロコーストには反対意見だが「尖閣は日本領、竹島、北方領土を取り戻せ」「在日は日本から出ていけ行け。皆殺しにしろ」「中国、韓国と断交しろ」「自衛隊は国防軍にして、空母機動部隊を持つべきだ」等とにわか知識で主張する自称愛国者だった。

(何でこんな目に会わなくちゃいけないんだ!)

 憲兵の暴力に晒されるまでは過去にタイムスリップした訳だし、祖国日本の為に知識で助言をし助けようと考えていた。しかし、話すらまともに聞いても貰えない理不尽に対して怒りが込み上げてくる。

(殺してやる!)

 不意に暴力が止まった。恐る恐る目を開けると、憲兵達が全身血塗れに成って絶命していた。

「うわあああ」

 悲鳴をあげながらも、扉から逃げ出した前原は近くの路地に駆け込んだ。

「何だって言うんだ」

 辺りをきょろきょろと見回した。

(自転車があれば直ぐに逃げれるんだけどな)

 次の瞬間、目に前にママチャリが現れた。

「マジでか!」

 自分の能力に気がついた。

(望めば何でも実現出来るのか?)

 通りに目を向けた。呑気に歩く通行人の姿に尋問を受けていた時の怒りが沸いてくる。

(みんな死んでしまえ!)

 頭部が破裂して視界に居た通行人は全員死んだ。

「はは……あははははははは──」

 前原は神に匹敵する創造と破壊の力を手に入れたのだった。


     ◆


 太平洋に浮かぶアトランティス大陸。それは前原の力で小笠原諸島とマリアナ諸島の間に隆起させた大陸である。この大陸の外は暴風雨に覆われており、外界からの接近は不可能となっていた。その為、大陸の存在は察知されていなかった。

 なおアトランティスは大西洋、ムーが太平洋。それがオカルトでの常識だが、前原は勘違いをしており大陸をアトランティスと名付けた。

 ここでは前原の力で無人兵器と人造人間(ホムンクルス)が量産されていた。小さなパラソルを浮かべたトロピカルドリンクを飲みながら愛玩用の人造人間(ホクンクルス)に奉仕させていた前原は呟いた。

「そろそろ始めるか……」

 一九四一年一二月七日、世界に怪電波が流れた。

「私は超人類である皇帝前原浩二。我が神聖前原大帝国は、植民地支配する全ての帝国主義国家に対して宣戦布告する。劣等人種どもよ怯えるが良い」

 世界の主要都市に核攻撃を開始し、同時に無人攻撃機「むじんくん」、無人戦車「むじんたん」が深海より浮上した潜水強襲母艦「むじんちゃん」から吐き出され侵攻を開始した。

 東京、モスクワ、ベルリン、ロンドン、重慶、キャンベラ、ワシントンD.C.と言った列強の首都が全て灰塵に帰した。無人兵器は残された人類を一掃すべく虐殺を開始した。

「ぐへっ、うひひ、ぐへ、うひゃひゃ、くけけけけけけけけけ」

 自室でモニターを見ながら爆笑する前原に、秘書役の人造人間(ホムンクルス)ニワトリが報告する。

「御主人陛下様。お楽しみの所ですが、放射能がこちらに向かっております」

「はい?」

 放射能は地球全土を覆っている。アトランティスにも滅亡の時が迫っていた。

「やり直し! 今の無しで!」

 

《第二回目の挑戦》


 時間を巻き戻した前原は核攻撃を中止した。

「さっきはやり過ぎた。反省している。今度は核を使わないぞ!」

 運命の開戦を迎えたその日、対米戦開戦に先駆けて小沢治三郎中将の指揮する日本海軍第一航空艦隊を中核とした第一機動部隊はハワイに迫っていた。目的は真珠湾に在泊する米太平洋艦隊主力の撃滅にある。

「長官、訳の分からない電波が入っています」

 旗艦「赤城」の艦橋で、通信参謀の報告に電報起案用紙を受け取った小沢は本文を見て眉をしかめる。

「何かの冗談か」

「全周波数で同じ声明が繰り返し流されています」

「ふむ……」

 怪電波はともかく攻撃開始の時間が差し迫っていた。日本は有史以来、まともな宣戦布告をした事がなかった。これも弱小国が大国に勝つための手段である。今回も開戦と同時の奇襲で敵に打撃を与える計画だった。

 午前六時、第一次攻撃隊が飛び立とうとしたまさにその瞬間、前原帝国軍の無人攻撃機「むじんくん」の群れが襲い掛かった。有人機では不可能な機動と加速性で世界最強だった零戦を翻弄し、戦闘は一方的な虐殺劇と成った。


「ふーん、もっと全滅させられなかったのかな」

 報告書の末尾に付けられた資料を見ながら人造人間(ホクンクルス)の秘書ニワトリに話しかける。


 第一航空艦隊損害

 人員:第二航空戦隊司令官山口多聞少将戦死

 撃沈:空母「赤城」「天城」「蒼龍」「飛龍」

 大破:戦艦「比叡」

 中小破:戦艦「霧島」

     軽巡「阿武隈」

     駆逐艦「谷風」「浜風」「不知火」


「御主人陛下様、もっと無人兵器を投入をすれば効率的だったのではないでしょうか?」

「それではロマンが無いからな。ゲームは楽しまないと」

 そう言いながらニワトリの豊かな胸に手を伸ばす前原。ニワトリは無感動にその様子を受け入れていた。


     ◆


 初戦で日本海軍が受けた損害は酷すぎた。一航艦司令部は「赤城」の沈没で指揮能力を損失し、最先任となった原少将は機動部隊を纏めあげながら困難な任務を遂行した。

 第五航空戦隊は、日本軍のハワイ接近を察知して向かってきた米空母群を攻撃、撃破した。

「全滅だな……」

 永野軍令部総長の言葉に軍令部第一部長福留繁少将は表情を歪めた。

「空母を沈めたとは言え、山本さんの博打で多くの将兵を失いました。空母四隻と搭乗員、痛い損失です」

 軍令部では第一航空艦隊がほぼ全滅したと判断、小沢機動部隊の生き残った第五航空戦隊は第四艦隊に編入され、停滞している内南洋作戦全般の支援に振り分けた。

 機動部隊の解散に伴って第三、第八戦隊、第一水雷戦隊の警戒・支援部隊は、第二艦隊の南方作戦に向けられた。

 第一課長富岡定俊大佐も苦い表情で頷いた。

「台湾がやられたのは予定外でした。南方資源地帯の確保こそこの戦いに不可欠です」

 ハワイ沖海戦の同じ日、フィリピン・ルソン島のクラーク基地を飛び立った在比米軍のB-17は、台南・台中・高雄の第十一航空艦隊を地上撃破すべく襲来した。一式陸攻五四機、零式艦上戦闘機八四機が残骸を晒すこととなった。

「問題は前原帝国と言う無頼の輩だ。奴等は我が大日本帝国だけではなく盟友ドイツやイタリー、連合国にも攻撃したと言うではないか」

「丸で訳が分かりません」

 混乱は続いていた。


     ◆


 一二月一〇日、クワンタン沖を進む艨艟の姿があった。

 南部仏印の基地航空隊が洋上撃破に失敗したとの連絡が入ったのは一三時を少し回った頃だった。角田覚治少将の南遣艦隊は、戦艦「陸奥」を旗艦に、第二戦隊、第六戦隊、第九戦隊、第三航空戦隊、第六・第二〇駆逐隊と、強力な戦力を与えられていた。また全般支援に、近藤信竹中将の第二艦隊も存在した。

 角田少将は「陸奥」と第二戦隊、それに第六駆逐隊を持って、英東洋艦隊迎撃に向かった。

 敵の戦力は戦艦「ウェールズ王太子」と巡洋戦艦「レパルス」の他に、護衛の駆逐艦四隻。戦艦五隻のこちらが圧倒的に有利だと思われた。

『前原帝国軍、只今推参!』

 海中から現れた潜水イージス戦艦「むじんさま」のレールガンが角田艦隊を襲った。


 南遣艦隊損害

 人員:南遣艦隊司令長官角田覚治少将戦死

 撃沈:戦艦「伊勢」「日向」

 大破:戦艦「扶桑」

 中小破:戦艦「陸奥」「山城」

     駆逐艦「雷」


 急報を受け、第五、第七戦隊が駆けつけた時、既に「むじんさま」は深海に姿を消していた。日本軍はともかくマレー作戦の障害になる英軍に矛先を向ける事とした。

 海戦の結果は海鮮料理を仕上げる程に鮮やかとは行かなかったが、必殺の雷撃で東洋艦隊を撃滅し辛うじて勝利を手に入れた。


     ◆


 昨年のハワイ沖沖海戦で日本帝国海軍は四隻の航空母艦を失った。さらにクワンタン沖で主力艦多数を損失し、比島攻略の前提条件である台湾の基地航空隊を壊滅させられた。

 戦術的な敗北を繰り返しながらも、南方資源地帯を確保しつつあった帝国だが、軍令部の作戦立案を侵す連合艦隊司令部の振る舞いに、限度を超えたと判断した海軍大臣は、山本五十六に辞任を要請。連合艦隊司令部の一新を図った。

 連合艦隊司令長官に新たに着任した塩沢幸一大将は、航空本部長を務めたこともあり、航空機がなんたるかを知っている人物だ。責任を徹底追及し糾弾され、井上成美、小沢治三郎といった、机上の空論しか述べない似非航空屋は解任される。

 軍令部の空気は、海軍が負け戦を続けているにしては明るい空気が流れていた。

 目の上のこぶだった連合艦隊司令部が一新され、大人しくなったからだ。

 第一部長の福留繁少将、第一課長の富岡定俊大佐といった面々と共に、次長の伊藤整一中将は、時期作戦の構想について練り直していた。

 ニューカレドニア、ニュージーランドを攻略し、米豪分断を目的としたNN作戦である。

 NN作戦に当たって新設された第八艦隊の司令長官は栗田健男少将。戦力は戦艦「陸奥」「山城」に、第七・第九戦隊、第三航空戦隊、第六・第二十駆逐隊。戦力をかき集めた形になる。


     ◆


 日本軍が南方作戦を終え、米豪分断作戦を発動しようとする中、米大西洋艦隊の主要軍港であるノーフォークは前原帝国軍の猛攻に陥落寸前だった。

 州兵や空軍の地上要員、警察に、民間防衛隊まで動員した雑多な混成部隊が、前原帝国軍の進撃を食い止めるべく、最後の抵抗を繰り広げていた。

 戦艦「おしりぺんぺん」を旗艦とする艦隊の艦砲射撃で、軍港の施設は壊滅していた。

「レールガンってやっぱり最高だな」そう言う前原の余裕に対してアメリカは対照的で、国民は恐怖と絶望におののいていた。

 ルーズベルト大統領から本土防衛を命ぜられたマーシャル大将は、各戦線を整理・縮小し西海岸に兵力を集結させた。前原軍が太平洋戦線に参戦した情勢から、西海岸に侵攻される事を想定しての決断だった。

 だが予想は裏目に出た。

 東海岸は艦砲射撃を浴びているし、メキシコ沿岸部から前原軍が上陸し柔らかい中西部を蹂躙して行った。南部諸州はあてにならい連邦政府からの離脱と、局外中立を宣言した。

「この非常時に何を考えているんだ、南部の連中は! これだからディープサウスの裏切り者は信用できない」

 ルーズベルトが南北戦争以来の南部の裏切り行為を吠えていた頃、前原はニワトリといちゃついていた。今度こそゲームを楽しみながら世界を征服する積もりだった。

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