猫8
〈AM10時〉電話である男に呼ばれた俺は、喫茶店にいた。時間通りにソイツは来た。
男
「客は、満足してたか?」
俺
「まぁな」
この男は、賢治…………名字は忘れた。
賢治
「お前さ、いつまであんな生活続ける気だ?いい加減、こっちに…」
俺
「俺の自由だ。そこまで介入するなよ、賢治」
賢治
「…………」
喫茶店と言う楽しい場所からは想像も出来ない話をする二人。
賢治
「親父がさ、お前を欲しがってるんだよ。一度でいいから会ってくれないか?…な、頼むよ」
俺
「俺はさ、今のままで満足してるんだ。だからさ、それは無理」
どこかで聞いたことがある曲が店内に流れる。良く見ると、学生服を着ている奴や子供連れの主婦が多い。
俺
「…………」
賢治
「………」
せっかく頼んだコ―ヒ―が冷めていく。アイツなら喜んで飲むかな。猫舌だから…。
俺
「話はそれだけか?そろそろ帰るよ」
賢治
「………あぁ」
駐車場には、一際目立つベンツがあった。あいつの車だ。中には、数人の男がいる。俺の姿を確認すると、軽くお辞儀をした。
俺
「………はぁ」
……………………………気疲れした俺は、アパートに直行する。部屋では、毛繕いをしている猫が一匹いた。
俺
「………そういや、そろそろお前にも名前をつけないとな」
猫
「!!!」
予想外にビックリした反応を見せる猫。
俺
「マリモとかどう?」
猫
「…………」
何か考え込んでいる。
俺
「……じゃあ、猫美は?」
猫
「……………………………は…」
俺
「うん?何か言ったか?」
猫
「はるな…がいい」
この部屋だけ、時間が止まった。それは一瞬だったけれど、俺の思考はかなり長い時間止まったまま。
俺
「なんで、お前がその名前を知ってる?」
猫
「…」
俺
「答えろ!」
しばらくして、猫はゆっくりと言った。
猫
「なんか…好きなんだ。その名前…」
…………………………………………………俺
「……そうか。でもお前には似合わないよ。その…名前はさ」
その日、俺と猫はもうこれ以上の会話をしなかった。
お互いに話しかけたりしない。
ただ、偶然やっていた料理番組には両者の視線が釘付けになった。