猫6
………記憶。俺がまだ僕だった頃の話。
誰かが僕を呼んでいる。
まだ眠いのに………。
【早く起きなさい】
僕
「う…ん。だぁれ?」
女
「私のこと忘れたのかな。このネボスケは」静かに笑っている。
僕
「春菜…ちゃん?どうしてここにいるの?」
春菜
「それよりも、遊びに行こ!タケルちゃん」
名前を呼ばれただけなのに、なんだか嬉しくなった。春菜ちゃんは、確か………僕のお家の近くに住んでいた女の子だ。僕とたいして年は変わらないのに、とても頭が良くて、背も僕より高かった。たまたま知り合った僕たちは、親友と呼べるくらいに仲良しになった。
僕
「今日は、どこで遊ぶの?公園か………えっと…」
いつもは公園で遊んでいたが、今日は天気が悪い。太陽も雲の中に隠れている。
春菜
「私ね、秘密の場所を見つけたの。タケルちゃんは、特別だから教えてあげるね」
【特別】と言う言葉になんだかドキドキした。
僕と春菜ちゃんは、二人仲良く手を繋いで歩いていた。今にも雨が降り出しそうな天気だったが、それでも僕たちは笑っていた。
ちょうど春菜ちゃんのお家を横切るように歩いていた時、春菜ちゃんの手が固くなったのを感じた。僕は少し心配になった。
僕
「大丈夫?」
春菜
「大丈夫だよ。うん、心配してくれてありがとうね」
その顔は、少し強張っていたがそれでも笑っていた。………………………………
僕
「まだ着かないの?結構、歩いたから疲れたよ………はぁあ」
春菜
「もう少しだから頑張ろう?着いたら、一緒にジュ―ス飲もうね」
僕は、正直少し後悔していた。こんなに家から離れた場所に来たことはなかったし、夜がジワジワと迫ってきていたから…。そんな嫌な想像ばかりしていると………
春菜
「着いたよ、タケルちゃん」
嬉しそうに春菜ちゃんが言う。僕
「???ココなの?」
そこは、ただの草原だった。特に何もない場所。ここが春菜ちゃんの秘密の場所?
僕
「……………」ガッカリしていた。期待していたから…。
春菜
「なぁに?その顔。ガッカリしたのかな」春菜ちゃんは、僕の顔を覗きこんだ。ニヤニヤと怪しげに笑っている。ポケットから何かを取り出した。
僕
「?」何かな。アレ。
春菜
「タケルちゃん。私ね、見えないものが一番美しいって思うの。だから、この場所で練習してたんだ」
小さな雨の子供が顔に当たった。それでも僕は、目の前の光景に釘付けだった。夜に見る夢を起きてる時に見たのは、これが初めてだった。