猫4
薬局に寄った帰り道、たまたまカップルとすれ違った。
女
「ただの散歩も二人だと楽しいね」
男
「そうだねぇ、ハハ」
………………………………アホか。
まぁ…幸せなのは今だけだろうし、その幸せを噛みしめていればいい。
皮肉ではない。羨ましいわけでは決してない。決して…。
家に帰ると、もう猫はいなかった。
開けっぱなしにしておいた小さな窓から、この季節独特の落ち着く風が入ってくる。
自分の家に帰ったのだろう。猫は特に自立心が高いと何かのテレビで聞いたことがある。
キャットフードが入った袋を放り投げ、風邪薬を適当に飲んだ。テレビをつけ、つまらない番組を見る。
俺には親はいない。親も俺はいないものと考えている。
ブ――――、ブ――――。
携帯のバイブが鳴る。この部屋にある唯一高価な物。
俺
「なんだ?」
男
「起きてたのか?珍しいな、お前が」
俺
「金ならないぞ」
男
「ハハハ。知ってる。今日あたり、また頼みたいんだ」
俺
「…………」
男
「まぁ…いつも通りにやってくれたらいい。8時に、いつもの場所で会おう」
俺
「……………」
男
「じゃあな」
この男と俺の絆は、他人より細く、親より深い。
夜、約束の場所に時間通りに行く。この仕事にとって大事なのは、時間を守るということ。
今夜は、月も星も出ていない。消えかかっている街灯だけが目立つ。
この街に不自然な、高級外車が俺の隣に止まる。と、同時に中から数人の男が出てくる。どいつもこいつも顔は笑っているが、そこには心はない。【作り笑い】と辞書で引けば、コイツらの顔が載っているはずだ。
俺
「今日は、何人だ?」
男
「三人だ。まぁ話は前もってつけてあるし問題ない。タケルは、いつも通りにやってくれたらいい」
俺
「…………」
タケル…俺の名前だ。名前など普段呼ばれないので、妙に違和感がある。
名前があるってことは、俺も一応人間だってことだ。
住所の書かれたメモ用紙とカバンを受け取る。
俺
「金は?」
男
「俺は、お前を信用してる。信用してるが、金はお前がしっかり仕事をした後だ。でも心配するな、金はしっかり届ける」
車が去った後に、俺はゆっくりと歩き出した。三人がいる場所は、さほどここから遠くない。今夜の仕事は早く終わりそうだ。
視線を感じた。背中に。それが人ではないことは分かったが、俺はワザと振り返らない。
なんでかな。
見られたくなかった。ただ…それだけ