猫26
猫で良かったことがいくつかある。その一つは、どんな狭い場所でも出入り出来ること。体が柔らかいからさ。もう一つは、匂いに敏感なこと。人間には、分からない微かな匂いも私にしっかりと主張してくる。アイツの匂いを追うことも簡単。
私
「………?」
何してるんだろう。漆黒の闇に複数の人間。もう少し近づこうかな…う〜ん…やっぱり止めよう。アイツが知らない人間たちに何かを渡していた。
チラッと見えたアイツの顔は、凄く恐かった。なんで、そんな顔をするの?
嫌い。
…………。なんでかな。こう、胸が痛いんだよね。
アイツは、さっさとどこかに行ってしまった。残された人間たちは…………本当に人間?
死骸に群がるネズミみたいだ。
吐き気がした。
私は、クルッと回って走る。
でも、すぐにアイツの後を追う気にはなれなかった。
商店街を意味もなくダラダラ歩く。
その時、どこからか声がした。振り返っても何もない。
私
「?」
……………。
誰もいない商店街は、野良猫や野良犬の溜まり場になっている。
でも、今夜はそれすらもいない。不自然だった。
メガネをかけた男
「静かでいい場所だね」
透き通る声で、話しかけられた。私は、すぐに声の主を探した。
だが、いない。
どうして?
私
「どこにいるの?」
メガネをかけた男
「どこにもいない。僕は、影だから。見ることはできない」
私
「カ…ゲ?なんで、私に…」
こんな体験は、初めてだった。どうしていいか分からない。
メガネをかけた男
「もうすぐ、君の大事な人が死ぬ。もし、助けたいなら自分を思い出すことだね」
思い出す?何を思い出すんだろう。
【君は、まだ本当の自分を知らないから】
そう、聞こえた気がした。もう声はしない。
私は…私は。
大事な人…。
そう言われた時に、アイツの顔が頭に浮かんだ。
なんか、嫌な夜だなぁ