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猫の手紙  作者: サシミ
23/28

猫23

しばらく動けなかった。頭がぼやけて白くなる。

「あの…えっ…」

まるで死ぬ寸前の鯉みたいに口が小さく上下する。


春菜

「タケルちゃん、ごめんね。私…わたし…」

あの春菜ちゃんが泣いてる。僕は、その時まで忘れていた。春菜ちゃんが、僕と変わらないただの子供だということを。

泣かないでほしかった。そんな顔は見たくない。

僕の視線は、床に吸い込まれた。倒れている人。僕は、その人を知っている。たまに挨拶されるから僕も挨拶を返した。

「殺したの?お父さん…」

春菜

「…………」

声を殺している。

春菜ちゃんの周りの雰囲気がドロドロ崩れていく。それは、形のないゲロとなって僕を襲った。

尋常じゃない寒気が全身を這いずりまわる。

目の前にいるのは、本当に春菜ちゃん?あの、優しい春菜ちゃんが…こんなこと。

春菜

「タケルちゃん、お願いがあるの」

こんな声を聞いたのは初めてだった。こんなに近くにいるのに、耳に言葉が入ってこない。


春菜ちゃん

「忘れて…くれない?この事を」

「わ…忘れるってコレを?」

僕には、無理だった。はっきりと分かる。ただ…

「うん…」



僕たちの関係は変わってしまった。その時から。…………。


次の日、気になってもう一度春菜ちゃんの家に行った。でも、春菜ちゃんはいなかった。…死んだ人間も。どこに消えたとかは問題じゃなかった。僕は、ただ…春菜ちゃんを救いたかったのに。そのためならなんでもするつもりだった。一番大切な人だから!僕の…好きな人だから。

次の日もまた次の日も………冬がきて…春がきて…夏、秋…そして冬がきた。

毎日毎日、僕は同じ道を走って春菜ちゃんの家に行った。貼り紙が玄関にあった時は、そのつど破り捨てた。誰にも渡さない。ここは、春菜ちゃんの家だから…大事な…大事な家…帰ってくるから…。

大人の人に殴られたこともあったけど、それでも玄関から先には行かせなかった。

何年か過ぎ、僕は俺になった。そして…忘れた。忘れることを身につけたから。

あんなに大事なものだったのに、今じゃ夢にも出てこない。

春菜…もうお前には、二度と会えないんだな。分かってるんだ、そんなこと。

だけどさ、それでも俺はもう一度だけ…お前に…………………………今更なんだってんだ。あ〜くだらねぇ

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