猫22
もう何年も前に捨てた記憶。最近まで思い出すこともなかった。その記憶の前に俺は今立っている。何も変わらない。ここは。
猫
「ここがタケルの…」そう、ここで俺は育ったんだ。
ここへは、二度と来ないと思っていた。
公園…俺と春菜が遊んだ場所。毎日のように俺たちは、暗くなるまで遊んでいた。ブランコにそっと触れる。
俺
「………」
すぐに昔が蘇ってくる。俺は、それが嫌ですぐにブランコから手を離した。
それでも手に残る鉄臭さは消えない。
公園を後にし、町を練り歩く。
見慣れた一軒の民家がある。ワケの分からない草が生い茂り、何年も放置されていたことが分かる。猫
「タケルの家?」
少し聞きづらそうに聞いてくる。
俺
「違うよ。俺の家は、もうない。今は更地になってるし。この家は…俺の…」
少年
「血の匂いがする」
鋭いな。やっぱり、特別なガキに違いない。そう、この家には血が染み込んでる。
猫
「…タケル?もう行こうよ」
俺の顔を見上げている猫。猫と目が合う。俺は、自然と狂気を帯びていたらしい。…ふぅ。参ったね〜。
俺
「そうだな」
空を見上げる。雲行きが怪しい。
【これでいいの】
俺
「いいわけないよ、春菜。俺は、あの時から前が見えなくなった」
轟く雷鳴。
停電。
それでも俺には、はっきりと相手が見えた。心配なんかして戻らなければ良かったんだ。今でも、後悔してる。
なんで、俺は………。
メガネをかけた男
「キミは、どうしたいの?」
僕
「助けたい。ただ、それだけだよ!」
メガネをかけた男
「うん。キミはそれでいい」
去り際に見えた男は、嬉しそうに笑っていた。
僕
「行かなくちゃ!」
僕は、走った。運動会でもこんなに真剣に走ったことはなかった。途中、雨が降ってきた。
体から白いモヤが出ている。
僕
「はぁはぁはぁ…」
家の中は、真っ暗だった。
ドアを開け、中に入る。暗かったけれど、だんだんと目が慣れてきた。
扉が半分だけ開いている。その部屋から微かに人の気配がした。
ゆっくりとその部屋に入る。
そこには、春菜ちゃんがいた。もう一人は、床を舐めるように倒れていた。
僕
「春菜ちゃん?あの…えっ?…なんで…」
春菜
「…………」
泣きながら、春菜ちゃんが
【ゴメンナサイ】
なんて言うから、僕まで涙が出たんだよ?
金属音がした。春菜ちゃんが持っていたものが手から落ちたんだ。
…………………。