猫20
公園まで行き、俺はベンチに腰掛けた。まだ多少息が荒い。
俺
「…お前なら治せるのか?これを」半ば諦めたように言葉を吐く。
不思議な少年
「ボクが出来るのは、死を防ぐことだけ。あとは、知らない」
…このガキ、いったい何だ?まったく…。猫
「…この子はね、私と同じ力があるの」
俺
「力?」
猫
「死を防ぐ」
ハハハ、なるほどね。俺を死から守ってくれるのか。
俺
「それは、ありがてぇ。ぜひ、守ってくれよ。でも、なんか悪いな。俺ばっかり得して」
最近じゃあ、猫は喋って、ガキが人の生き死にを決めるのか。変わったなぁ…(ボ―)時代も。
猫
「タケル!真面目に聞きな。これは、アンタの為なんだから」
俺の為?いつ頼んだよ、そんなこと。勝手に決めやがって!!
俺
「死なせろよ!あの時。なんで助けた?俺に対する恩返しのつもりか?迷惑なんだよ!」
空気が一気にピリピリ震える。通行人は、足早に公園を通り過ぎた。
それまで黙っていた少年の口が開く。
不思議な少年
「じゃあ、俺が今お前を殺してもいいんだな?」
俺が前にガキに言った台詞だ。
少年の白い手が、眼前にくる。少年がやろうとしていることが分かった。
猫
「止めろ。それ以上近付いたら、私が君を殺すから」
【タケルは、絶対に死なせない】
そうはっきり聞こえた。
少年は、俺から距離をとり、ジャングルジムに登り始めた。
か弱い体に見えるが、早送りのように登った。本当に人間か?コイツ。
俺
「まぁ…俺の命を助けてくれんだよな?…」
あの、拳銃で撃たれた時も死んだはずだった。それが今もこうして生きているのは、コイツのおかげだ。
猫
「うん」
俺は、大袈裟にベンチから立ち、両手を広げ、黒猫を抱きしめた。
俺
「あぁ…ありがとぅよぉ。うえぇん」
猫
「シシャモみたいな臭いするな。タケルは」
……………。
尻尾を掴み、放り投げた。
猫
「シャ〜シャ〜」
この時の俺は、何かを振り切るように猫と戯れた。
俺は、怖かったんだと思う。いつ、またあの〈死〉が俺を襲うか分からない。
今度も助かる保証はどこにもなかった。
俺の命は、この小さなガキともっと小さな猫に握られている。