猫19
猫
「見つかったの?大事なもの」
猫は、丁寧に俺の話を聞いていた。それだけで俺には、話す価値があったと思えた。
俺
「………」
猫
「まだ見つからないんだね」
バスが来るのが見える。
その時、突然胸に激しい痛みを感じた。
俺
「…そ…」なんなんだよ!この痛み。ヤバイ。
猫
「タケル?…その胸…」
俺のシャツがべっとりと赤く濡れている。それと同時に鉄臭い匂いが辺りに拡散する。
なんな…んだよ。勘弁してくれ。
今にも気絶しそうだった。バスから降りた客の悲鳴が、ゴワゴワと聞こえる。目の前が半分白くなる。
………………………………。
目を覚ました時、俺は白いベッドの上にいた。点滴の管が、手から伸びている。病院特有の消毒液の臭いがする。
震える指先で、胸を触る。着慣れていない服の隙間から。
血は出ていない。傷らしい傷の感触もなかった。
じゃあ、いったいあの血はどこから…?
猫がいない。どこいった、アイツ。
目で追うが、まだ目眩がしていて焦点が定まらない。
点滴を無理矢理外し、ゆっくり立ち上がる。看護士や医者に見つからないように病院から出た。
……病院の外には、猫がいた。それと、…あの不思議な少年が。
不思議な少年
「病院では治せない病気もある」
俺
「なんで、…ここに来た?」
俺は、震える足に手を思いきり叩きつけた。痛みで、頭を覚醒させる。少しスッキリした。
猫
「私が呼んだの。……タケルには、この子が必要だから」
必要?どういう意味だ。
問題も分からなければ答えも分からない。
ただ一つなんとなく分かったことがある。俺は…あの時死んだということ。