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猫の手紙  作者: サシミ
18/28

猫18

運動場からも見えるリンゴの木。老木のくせして、しっかり実をつけている。

真っ赤なその実は、偽物のようにテカって見えた。

やっぱり、叶わなかったな。じいさん…俺

「…………」

昨夜、突然発作に襲われ、そのまま死んでしまった。

あっけなく。

今は、この牢屋に俺一人。やけに広く感じる。


じいさんのベッドからは、写真が一枚出てきた。幸せを封じ込め。大事に保管されていたことが分かる。その写真は、俺には眩しすぎて見続けることが出来なかった。


「?」枕に違和感を覚えた。持ち上げる。枕から、手紙らしいものが出てきた。

そこには、こう綴られていた。

【ありがとう。タケルさん。アンタには感謝してるよ。ここの地獄のような生活を耐えてこれたのは、タケルさんがいたからさ】

やっぱりアンタは、バカだ。殺したのは、俺なのに…。最後まで気づかないなんて。…………………………………。

【タケルさんの目は、俺が出会った奴の中で一番優しかった】

俺が優しい?…なに…いってんだよ…くそジジイ。

【タケルさん、俺の願いを叶えてくれないか?】

くそ!くそ!くそ!くそ!………こんな手紙残して死ぬんじゃねぇよ。くそジジィが…………。

俺は、手紙を両手で丸め、壁に叩きつけた。

胸から湧き上がってくる感覚に逆らうことが出来ない。

涙。

子供みたいに泣く。

この感じを俺は、忘れていた。



数ヶ月後、俺は出所した。あの女が、裏で手をまわし、俺の刑期を減らしたらしい。

「契約成立ね。さようなら」

門の前で待ち受けていた女は、一言俺にそう言うと去っていった。その後ろ姿からは、どこか寂しさを感じた。まぁ…俺の勘違いか。

「………」

俺の上着のポケットには、あの時丸めた手紙がしっかり入っている。シワは、直らなかったが…。

【見つけてほしいんだ。タケルさんの大事なもんを】


…………。

外からだと、もうリンゴの木は見えなかった。

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