猫18
運動場からも見えるリンゴの木。老木のくせして、しっかり実をつけている。
真っ赤なその実は、偽物のようにテカって見えた。
やっぱり、叶わなかったな。じいさん…俺
「…………」
昨夜、突然発作に襲われ、そのまま死んでしまった。
あっけなく。
今は、この牢屋に俺一人。やけに広く感じる。
じいさんのベッドからは、写真が一枚出てきた。幸せを封じ込め。大事に保管されていたことが分かる。その写真は、俺には眩しすぎて見続けることが出来なかった。
俺
「?」枕に違和感を覚えた。持ち上げる。枕から、手紙らしいものが出てきた。
そこには、こう綴られていた。
【ありがとう。タケルさん。アンタには感謝してるよ。ここの地獄のような生活を耐えてこれたのは、タケルさんがいたからさ】
やっぱりアンタは、バカだ。殺したのは、俺なのに…。最後まで気づかないなんて。…………………………………。
【タケルさんの目は、俺が出会った奴の中で一番優しかった】
俺が優しい?…なに…いってんだよ…くそジジイ。
【タケルさん、俺の願いを叶えてくれないか?】
くそ!くそ!くそ!くそ!………こんな手紙残して死ぬんじゃねぇよ。くそジジィが…………。
俺は、手紙を両手で丸め、壁に叩きつけた。
胸から湧き上がってくる感覚に逆らうことが出来ない。
涙。
子供みたいに泣く。
この感じを俺は、忘れていた。
数ヶ月後、俺は出所した。あの女が、裏で手をまわし、俺の刑期を減らしたらしい。
女
「契約成立ね。さようなら」
門の前で待ち受けていた女は、一言俺にそう言うと去っていった。その後ろ姿からは、どこか寂しさを感じた。まぁ…俺の勘違いか。
俺
「………」
俺の上着のポケットには、あの時丸めた手紙がしっかり入っている。シワは、直らなかったが…。
【見つけてほしいんだ。タケルさんの大事なもんを】
…………。
外からだと、もうリンゴの木は見えなかった。