猫17
女
「それで…どうなの?」
静かに問う。
俺
「あぁ。あともう少しだ」
この女は、どっかの大企業の社長。
女
「そう。なら…いいわ。ただ…あまり時間はかけないでね」
女の瞳には、何の色も伺えない。無。
俺
「分かってる」
俺たち二人の話を壁に立ちながら聞いていた看守が、クスクス笑う。よくもまぁ…こんな人間ばかり作ったもんだ。神様も何考えてんだか。
俺
「一つ聞いていいか?どうして、あんな老人を」
女
「アナタには関係ないわ。口出しは無用よ」
…恐いねぇ。
短い面会時間が終わり、俺は牢屋に戻される。
その間、看守とこんな話をした。
看守
「それにしてもたいした女だよな?えぇおい」
その笑い声は、冷たいタイルに反射され俺の耳にこびりつく。
俺
「…………」
看守
「知ってたか?あの女」
【ジジィの娘なんだよ】
俺
「………」
看守
「親が、重罪人だって世間には知られたくないらしい。まぁ…なんというか」
親も親なら、その子供も。
牢屋に戻る。
老人
「どうだった?」その長い眉毛を揺らしながら言った。
俺
「どうもしない」
老人
「あれ?てっきり…彼女さんかと思ったが」
どこまでも脳天気なジジィだな。娘に殺されようとしてんのに。
老人
「もうすぐ、リンゴが食べれるねぇ」窓枠に身を乗り出して言う。
リンゴなんか…。
俺
「そうだな」
老人
「俺の願いなんだ。あのリンゴを食べること」
食べれないよ。アンタじゃ。ここから出れないんだから。
俺は、枕の下に忍ばせていた薬を見ていた。これは、死神を呼ぶ薬。
老人
「は……ぁ、はぁ」
俺
「…………」
老人
「タケル…さん…薬…を」
俺
「………」
俺は、ダレなんだ。ってか、なんでこんなことになった?
なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで………。
俺
「クソが…」
老人
「はぁ…はぁ…タケ…ルさん?」
老人が不信がっている。早く薬を渡さなければ。
……………。
頭が痛い。
老人の黒ずんだ手に薬を乗せる。
老人
「はぁ…はぁ…あ」
だが、老人はいつものように飲もうとしなかった。
俺の顔をじっっっと…見ている。
俺
「……………」
老人
「…はぁ…はぁ」
老人は、その薬を流した。汚い洗面所から。
しばらくして落ち着いた老人が笑いながら俺に言った。
老人
「薬はもういらないよ。タケルさん。俺はさ、アンタのそんな顔を見たくない」
どんな顔をしてる?俺。今。この割れた鏡では、それすらも分からない。