猫15
荷物を整理し、旅館を後にする。
猫は、ここ数日で少し太った。ここの緩やかな風土に………。
次は、どうするかな。
俺
「どうする?」
猫に相談する。
猫
「働け。真面目に」
………………。
どうすっかなぁ。
漁師にでもなるか?目の前、海だし。
ハハ。ないない。
仕事といったら、人には言えないことしかやってないしなぁ
猫
「タケルはさ、夢はないの?」
夢……俺の夢………空を見上げても答えは浮かばない。
俺たちは、バス停まで行った。
とりあえず、次のバスに乗り、考えよう。
自販機でジュ―スを買い、中身を容器に移す。猫は、ペロペロ舐めている。どことなく、機嫌が良い。
飲み終えた猫が話しかける。
猫
「タケルさ、………今まで人を信用したことないでしょ?」
………ハハ。
俺は缶を置き、髪をかいた。思い出す。
俺
「あるよ。過去にある。二回だけ」
お前には、特別に話してやる。お前なら………もしかしたら。
乾いた風。
太陽は、どこまでも街を照らしている。平和な世界。
だけどさ、世の中には必ず例外が存在するんだ。光があれば、闇がある。光ばかり見ていると、闇を恐れるようになる。本当の光は、闇の中にだけあることに気づかない。
俺も気づかなかった。あの時までは。
7年前、俺は刑務所にいた。場所は、……今も分からない。そこに着くまで目隠しをされていたから。そこは、まさに闇の中にあった。どっかの金持ちのバカが建てたらしいことは分かっている。
受刑者の中には、その場所を楽園と呼ぶ奴もいた。
…………………………タ………タケル。俺
「なんだ?また、具合い悪くなったのか?」
老人
「あぁ…少し…ここら辺が痛むんだぁ」
胸を押さえている。いつものことだ。だが、このままにしておくわけにもいかない。俺は、隠しておいた薬を老人に手渡す。
老人
「ありがとなぁ。タケルさん。ありがとう」
俺とこの老人は、同じ牢屋の住人だった。