猫13
駅から降りる。深呼吸。なんか、体が軽い。息をし易い。
俺
「どっちに行く?右か左か…」
どうせなら、運命と言うものに任せてみたくなった。
猫
「左」
………右に行くことにする。
猫
「左!ひ・だ・り」右に行くと、一人の子供に会った。まだ小学校低学年といった感じの背丈と顔立ち。
俺
「…………」
子供は、下を向いたまま、棒きれで蟻を潰していた。無表情に。
俺
「………」
まぁ…子供のすることだ。
猫
「止めな!そんなこと」
猫は、怒鳴った。初めて、本気で怒っているアイツを見た。
俺
「………」
理解できるはずもない猫の言葉。少年の耳には、ただの雑音でしかないだろう。
猫
「生きようとしてるんだよ?必死に」
猫は、潰れた蟻たちを見ていた。一匹の蟻は、まだピクピク動いている。
少年
「なんで分かるの?そんなこと」
………今、コイツ。
俺
「分かるのか?この猫の言葉が」
俺以外にもいたのか…そう感じた瞬間に、少年の影が濃くなった。
少年
「どうせみんな死ぬんだから。僕が今殺してもいいでしょ?」
猫が何か言おうとした瞬間に、俺が少年に話しかけた。
俺
「じゃあ、俺がお前を今殺してもいいんだな?」
少年
「………」
光を宿さない目が俺を見る。どこか、俺の心を見透かしている。
俺
「…なんてな」
俺は、猫と一緒に先へ進む。少年とは別れた。
少年は、ずっと俺と怒り狂った猫を目で追っていた。
………不思議なガキだ。
海沿いに歩く。夕方になると、海が淡く燃え、俺の目を紅く染めた。
あまり金はなかったが、野宿は嫌だった。
俺は、宿を探す。
偶然、一軒だけ俺たちを受け入れてくれる宿があった。
部屋に入り、電気をつけた。
これからどうしよう。……さっき見た蟻の屍と俺の姿がダブル。今夜は、とても冷える。