猫12
久しぶりに旅行に行きたくなった。場所なんてどこでも良かった。ただ、いつもみたいに部屋に籠もるのは耐えられなかった。
俺
「行きたい場所あるか?」
猫
「…へへ」
………海か。
まぁ、行ってみるかな。
田舎電車に乗る。猫は、カバンの中に入れた。とても大人しくしている。
猫
「…………」
ジ――――――。
ジ―――――――。
カバンからヒョッコリ顔を出した猫が外の風景を見ている。きっと、コイツにとっては見るもの全て新鮮なんだろう。
しばらく寝ようかな。どうせ、終点まで行く…し………。
僕
「…ふぁあ。良く寝た」
春菜
「…………」
何故か、怒った様子の春菜ちゃん。
僕は、すぐに状況を理解した。謝る。
僕
「ごめんね、春菜ちゃん。ボク…なんか眠くなって…」
僕たちは、草原にいた。春菜ちゃんは、笛を吹くのを止めている。
春菜
「…どうだった?下手くそでごめんね」
春菜ちゃんも謝る。なんで謝るのか、僕には分からなかった。
僕
「ううん、凄く綺麗だった。上手かったよ」
正直、笛の演奏などさほど聞いていなかった。僕が見てたのは、春菜ちゃんの横顔と…雰囲気。
春菜
「本当?…良かった……ぁの」最後の方は、声が小さくて聞きとれなかった。
僕
「そろそろ帰ろう?春菜ちゃん」
二人仲良く手を繋いで帰る。
春菜ちゃんの手は、少し熱っぽかった。
僕
「さようなら。今日は、楽しかったよ。ありがとね、えっと……笛のやつ。ハハ、また明日!ね」春菜ちゃんの家の前で別れた。
春菜
「うん。さようなら。ありがとう、タケルちゃん」
離れてすぐに、何故か寂しくなった。春菜ちゃんと別れたからではない。僕には、触れられない存在になったと思えたから。もう…二度と。
メガネをかけた男
「何を見てるの?」
僕
「……昔」
もう戻れない昔。今だから昔。昔なら今。帰る場所は、あそこだけだったんだ。僕は、答えを知りながら選択を間違えた。