猫11
ある人が僕に問う。
「君の宝物は何かな」………分からない。
別の人が問う。
「君の夢は何かな?」………分からないよ。
だって、僕には何もないから。でもね、こんな僕にも大切な人はいるよ。守りたい人、とても大事な人。………その人は、今いないけど…きっといつか………
【逢えるから】
俺は話しかける。何度も。
猫
「…………」
俺
「どうしたんだ?早く話せよ。憎たらしいこと言えよ、いつもみたいに」
猫
「……………」
猫は、窓から外の変わり映えしない世界を見ている。
………。
俺
「はぁ……何が」どうなってる?なんで俺は生きてる?なんでコイツは話さない?
携帯が揺れている。小刻みに俺に主張している。
俺
「……………」
賢治
「タケルか?どうしたんだよ、お前。約束の時間は、過ぎてるぞ」
約束?なんの話だ。
俺
「俺………撃たれたんだ…死んだ…」自分でも、可笑しなことを言っていると分かる。
賢治
「誰にだ!誰に撃たれた?」
俺
「お前が今日…紹介した客に」
疲れていた。頭が混乱している。
賢治
「…タケル?…あのさ、今日はまだ客は紹介してない。お前…」
何言ってんだ。
取引しただろ?つい、さっき。あれから、まだ数時間しか経ってないはずだ。
賢治
「………」
賢治は何かを考えている。
賢治
「お前、俺との約束は何時だ?今は、8時半。30分も過ぎてる」
ゆっくりと腕時計を見る。
俺
「………なんだよ、これ」
時間が戻ってる?
なんで?
俺が生きてるのは、俺が死ぬ前に戻ったからなのか?ハハ、どうかしてる。俺の頭も限界らしい
俺
「ハはハハ…」
賢治との電話を切る。
今なら、神様の存在を信じられそうだ。そういや、無宗教だっけ。これをきっかけに、十字架でもぶら下げるかな。首とかにジャラジャラと。
猫
「………?タケル」
猫の方を向く。
俺
「早く話せよ、猫に独り言いう趣味はねぇ」
猫
「………それが、さ。なんか話せなかった。良く分からないけど…」明らかにしょんぼりした様子。首がダランと下がっている。
俺
「まぁ…仕方ないな」何が仕方ないのか分からない。言葉のキャッチボ―ル失敗。二軍落ち。
狭い部屋の中に俺と黒猫。
こうして静かな夜は過ぎていく