少女の悲劇 3
「それで覚悟は出来たかい、グリッド?」
目の前に立っている女性は、視線で殺せるぐらいの勢いでグリッドを睨み付けている。
何故、こうなってしまったのだろう――――
グリッドは、今起こっている状況を必死に理解しようとしていた。
遡ること1時間前、例の路地で気絶した少女を此処に連れてきた時に事件は起こった。
此処に戻った途端に、ルーシャに回し蹴りを喰らわされ、その後両腕を背中で拘束され、正座をさせられてもうそろそろ1時間が来るだろう。
「ルーシャ、俺が任されていたのは――――」
「ご託はいいんだよッ?!」
グリットの言葉をさえぎり、ルーシャは左手に持っている竹刀を勢いよく振り下ろす。
これで床に叩き付けたのは何回目だろうか?
竹刀の先端は最初の1回目で割れてしまい、最早凶器化している。あの状態で刺されたら致命傷に至るだろう。
哀れな竹刀から視線をずらすと、離れた場所で共に仕事に出ていたヒリュウがソファーに座り、素知らぬ顔で銃を解体していた。
「ほおぅ?
余所見をするとはいい度胸だねぇ?
容赦はしないよ、グリッドオオオォォォ!!」
持っていた竹刀を投げ捨て、携帯用の棒に持ち換えたルーシャは戦闘体勢に入る。
動けない身であるグリッドは逃げる術はない。
ここで終わりかと腹をくくった瞬間、張り詰めた空間に1人の男の声が入る。
「おい、例のガキが起きたぞ。ルーシャ、オメーが相手しろ、俺には無理だ」
声の主は、奥の部屋から出てきた顔に大きな傷痕を持つ大男、デュークである。
「あのガキ、一般家庭で育ったのか?
人の顔を見た途端、叫びやがって……」
目が覚めたら目の前に大男がいたら誰でも叫ぶだろう、と口から出そうになった言葉を飲み込み、我が家が防音壁でよかったと心底思う。
何せ我が家には、安眠妨害をされたら破壊活動をする輩が現在居るのだ。
「分かった、あたしがあの子の相手をするよ」
ルーシャはそう返答すると、棒を懐に戻し奥の部屋に消えた。
「で、グリッド……
オメーは今回何をやらかしたんだ?」
デュークは何処からか持ってきた椅子に座り問いかける。
「その言い方だとまるで俺が毎回事件を起こしてるように聞こえるんだが?」
「事実だろ」
確かにその通りなので、グリッドは言い返す事が出来ず押し黙る。
「ったく、昔からお前らは毎回厄介事を持ち込みやがって、成長したのは図体だけか?」
「ヘイヘイ、ワルウゴザイマシタ」
「ちっとは、アイツみたいに大人になりやがれ」
「いや、アイツはガキの頃から俺らとはかけ離れてから」
「それもそうだったな」
デュークは昔を懐かしむような顔から、仕事の顔に切り替えた。
「で、あの嬢ちゃんはどう理由で『此処』に連れてきた?」
「ん……、どう説明すればいいかわかんねぇ、てか複雑すぎて難しいんだよ」
「つまり、『裏』なのか」
「分類するなら、確かにそっちだ。
だが、こんなことになる筈じゃなかった……」
グリッドがデュークに返した言葉。それは最後の方はもはや独り言に近かった。